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水の精霊 ~もっと光り輝いて~  作者: あるて
第1章 光が消えることはない

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第9曲 祝い酒もほどほどに

「なんでそんなひどいこと言うんですかー!」


 より姉の言葉に憤慨する琴音ちゃん。さすがにわたしもそれは言い過ぎだと思う。

 彼女だって芸能界のトップに君臨しているのだから、全く役に立たないということはないだろう。

 これから何かでお世話になるかもしれない。


「いんや。ゆきはあたしらがいれば十分だ。内助の功というやつを見せつけてやる」


「まぁた! 正妻の余裕を見せつけてー!」


 弱いくせにお酒が好きなより姉。もうどれくらい飲んでるんだろう。

 すっかり出来上がってしまっている。


 まだそんなに時間たってないんだけどな。


「わははは。所詮愛人候補は正妻には勝てんのだ!」


 どういうマウントの取り方だよ。

 愛人候補ってことは認めてるんじゃないか。


「あら、愛人一号はわたしですよ」


 五代さんまで参戦してきた!


「いつの間に! ちょっとゆきちゃん、わたしというものがありながら、何あちこちに手を出してんの!」


 出してません。しかもあちこちて。


「ちょっと落ち着いて。愛人なんて作らないから。五代さんも悪ノリしないでくださいよ」


「あら。わたしは冗談のつもりなんてありませんよ」


 ええぇ。この場でそういうこと言っちゃう?


「ほほう。さすがはゆきといったところかぁ」


 ほら、より姉がダル絡みしてきたよ。


「そこに反応しなくていいから。愛人なんて作ったりしないよ」


「そりゃ、ゆきのことは信用してるけどよぉ。でもその気になったら愛人の千人や二千人、簡単に作れちまうだろぉ」


 どういうやつだそいつは。

 いくらなんでも桁がおかしい。


「ちゃんと順番は守りますよ」

「あ、わたしもちゃんと守るよ!」


 五代さんと琴音ちゃんはちょっと黙っててくれる?


「あぁ、ゆきの後ろに列をなして並んでる愛人どもがぁ!」


 なんで天を仰いでるのかなぁ。より姉ちょっと飲みすぎじゃない?


「ゆきちゃんは自覚がなさすぎます!」


 かの姉が入ってきた。いつもよりボリュームがでかいし、これは確実に酔ってるな。


「無自覚愛人量産機」

「ほんとタチ悪いよねぇ」


 みんなして参戦してくるんじゃない!


「ちょっとみなさん? あまり人聞き悪いこと言わないでくれるかなぁ。わたしの人格が疑われるでしょうが」


「あら、愛人一号は合意の上ですよ」

「二号もー!」

「わたしは合意してません!」


 いつの間にか琴音ちゃんが二号になってるし。それでいいのか、琴音ちゃん?


「五代さんに先を越されちゃったから、二号に甘んじるよ」


「甘んじられても本人は同意してないからね?」


 勝手に話を進めるのはいつもの事だけど、さすがにこれは揉め事の種にしかならんだろ。


「勝手に愛人名乗るのはいいけど、ゆきの体はあたしらのもんだからなぁ」


 体ってなんだ! 生々しい表現はやめてくれる?

 てか名乗るのもダメだろ。本気で酔ってるな。


「あら、心の愛人は認めてくださるんですね」


 また五代さんがパワーワードをぶっこんできたよ。なんだ心の愛人って。そんなの初めて聞いたわ。


「ゆきを好きになってしまうのは仕方ないからなぁ」

「そうですね。ゆきちゃんの魅力に抗える人はいません」

「不可抗力」

「ゆきちゃんのファンも言ってみれば愛人みたいなもんだもんね」


 みたいなもんじゃないわ! なんで何千万人も愛人がいるんだよ。わたしのチャンネル登録者数なめんな。


「毎日デートしても一生で回り切らんな。わははは!」


 笑い事じゃない。


「ちょっとみんな酔いすぎなんじゃない? どれくらい飲んだの?」


 そう思ってテーブルの方を見ると、いろんな種類のお酒の空き瓶がゴロゴロ。

 めっちゃ飲んでるやんけ!


「いやみんな飲みすぎ。そろそろ控えないと明日に響くよ?」


 かの姉とあか姉はお酒に強いけど、さすがにこれだけ飲めば酔ってても不思議じゃないよな。


「わたし達とゆきちゃんの絆がもっと深まった記念すべき日ですから。飲まなくてどうするんですかぁ」


 そう言ってしな垂れかかってくるかの姉。相当飲んだな。

 絆が深まったと言ってもただ会社を設立しただけなんだけどなぁ。


「分からないと言った顔してる」

「仕方ないよ。ニブチンだもん」


 やれやれと言った様子のあか姉とひより。

 むっ。


「みんなで一緒にこれから頑張っていくってことでしょ。ちゃんと分かってるもん」


「「「「……はぁ」」」」


 四人がかりでため息をつくんじゃない!

 五代さんと琴音ちゃんまで笑ってるし。


「やっぱりこういうことに関しては鈍いよねぇ。ここはより姉! 長女としてビシッと言ってあげて!」


「んあ?」


 おいおい大丈夫か。もうへべれけだぞコレ。

 なんかゆらゆらしてるし。どこ見てんの?


「長女がポンコツになってるようなので、次女が代わりに説明しますね」


 かの姉が代わりに名乗り出たけど、足元ふらふら。もう全員ポンコツじゃないの?


「ゆきちゃん、一緒の会社でわたし達全員と働くだけと思っているでしょう」


「え、実際そうでしょ?」


「ノンノンノン」


 人差し指を左右に振るかの姉。いや、あなたそんなキャラでしたっけ?


「そんな単純な話じゃないんですよ。ゆきちゃんの人気は未来永劫衰えることがありませんから、会社も右肩上がりに成長していくことでしょう。ゆきちゃんがいる間は決して潰れることのない不滅の会社。そこにわたし達が入るということはつまり永久就職なんですよ!」


「まぁ、うん……」


 途中でクビにするつもりもないし、終身雇用なのは間違いない。わたしも限界が来るまで歌い続けるつもりだし。

 でもそれって生活が安定するってことでしょう?


「まだ分かんないって顔してるよ。よかろう。ここはひよりが補足しましょう。ゆきちゃん、わたし達正妻を会社に誘ってくれたのはゆきちゃんだよね? それってさ、わたし達にとっては二度目のプロポーズと何ら変わらないんだよ!」


 いや、一度目もまだやった記憶がないんだけど。


「一度目はわたし達みんなを受け入れてくれた時」


 真っ赤な顔のあか姉がわたしの疑問に答えてくれた。

 そうか、あの時……。わたしが生きる気力を取り戻して、みんなへの愛情を包み隠さなくなった時をそう思ってくれているのか。


 でも、男としてそれでいいのかな。

 みんなわたしの気持ちを汲んでそれでよしとしてくれているけど、何も明確にしないままなし崩し的に既成事実を作ってしまうというのはなんとも無責任な気がしてしまう。

 わたし、みんなに甘えてばかりだな……。


「よし!」


 ちょっと前から準備はしてた。タイミングはいつがいいかなと思っていたけど、新会社を設立してみんなを引き抜いた今がけじめをつけるのにちょうどいいかもしれない。


「どうしたの? ゆきちゃん」


 突然声を上げたわたしを不思議そうな顔で見つめてくる。ひよりもどこか焦点が合ってない。


「うぅん。ちょっと思いついたことがあってね。どうせ明日はみんな昼くらいまではぐったりしてるだろうから、夕方からみんなでデートしよう!」


「でーとぉ?」


 より姉はちゃんと覚えていられるんだろうか。


「やったぁ! それじゃ、今日はお酒もほどほどにして明日に備えないとだね!」


 無邪気に喜ぶひよりはわたしの狙い通りこれ以上は飲まないと言っている。

 かの姉とあか姉もハッとした表情になっているから、意味は分かってくれたと思う。

 問題はより姉だ。


「おー! 明日はデートかぁ! それじゃ景気づけにもう一回乾杯しよーぜぇ」


 明日だって言ってんのに、なんで今景気づけをするんだか。

 弱いくせにほんと好きだよなぁ。


 それだけ一緒に会社をするということが嬉しいんだろうけど。


「より姉、明日はわたしがみんなをエスコートして美味しいワインのあるお店に連れていくから、今日はこれくらいにしておこ?」


 頬に手を当て、優しく語り掛けるとさっきまで焦点の合ってなかった目が光を取り戻した。

 酔いが回っているせいか、少し潤んでいる。


「うん、もう飲まない」


 す、素直だ……。素直なより姉、めっちゃ可愛い……。


「明日かぁ。明日は収録があるけど、夕方には終わるかな」


 琴音ちゃんがなんか言っている。


「わたしは明日オフなのでいつでも大丈夫です」


 五代さんまで。


「いや、二人は誘ってませんよ?」

「「えっ!」」


 いや、驚くところか?

 なんで当たり前のように同行できると思っているのか。


「いや、明日はデートですから。二人が同行するのはおかしいでしょう」


「愛人枠で参加できるものかと」


 外国人助っ人枠じゃないんだから。


「そんな枠はありません。というか愛人も認めた覚えはありませんからね!」

「「えぇー」」


 息ピッタリじゃないか。仲良いな。


「明日は奥さんたちとのデートですから。お二人は遠慮してくださいね」


 わたしがそう言うと、四人は驚いたような顔で目を瞠っている。


「「おく……」」

「「さん……」」


 この四人も十分仲が良かったわ。

 明日の予定が決まったこともあり、みんなも大人しくなったところで今日はお開きとなった。


 いきなりのことで驚くかもしれないけれど、明日は楽しみにしていてね。

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