シンバという男・前編
路地裏を抜けると、空が一気に広がった。
「ここがアリステアよ!」
エヴァは歩きながら、アリステアと呼ばれる街について、モロに説明する。
かつては魔術でモンスターを狩る冒険者で溢れていた街。
しかし、モンスターの数が全国的に減少することで、仕事を失った冒険者も多いらしい。
「まぁ…悪いことばかりじゃないわ!」
彼女はそう言って、通りの屋台を指さした。
「冒険者しか買えなかった薬草が安く出回るようになったし、そのおかげで、
普通の人たちが助かることも増えたのよ。」
道端では、子供が薬草を手に母親と話している。
食べ物を販売している店では、恰幅のいい店主がお客の人と談笑をしている。
あの路地裏からは想像できなかったが、この街には活気がある、そう感じた。
——
「ここよ!」
しばらく歩くと、彼女の目的地に着いた。
そこは酒場で、カラウィンという店名であり、エヴァとシンバにとって、思い入れのある店だ。
店に入ると、彼女は店主に事情を話した。
「マスター!実はさ、話があるんだけど。」
「おうエヴァ。あれー?シンバのやつはどうした?今日はまだ見てねーが。」
店主の発言にエヴァは眉をひそめる。
モロのような子供にも、その店主の発言には違和感があった。
(なんで...エヴァさんを見て、シンバさんの話をしたんだ...?)
「マスターさぁ…シンバに口止めでもされたー?」
流石に怪しすぎたのか、彼女は切り込んだ質問をした。
「そ、そんなこと!あるわけ。ないじゃ…ないかー」
エヴァの顔から目を背け、段々と尻すぼむ店主。
彼女は酒場を見渡すと―
「シンバー?いるんでしょー?マスターに口止め料を払ったって無駄よ。
なんたって…めちゃくちゃ嘘が下手だから。」
「シンバ。すまねぇ!」
マスターは観念したかのように、そう言い放った。
しばらくの静寂の後
—
「……ばれちゃー…しょうがねー。
せっかく楽しく飲んでたのによー。」
ちょうど死角になっていた席を立ち、その男、シンバが姿を現した。
シンバはフードを被り、その手には丸められた紙を持っている。
「やっぱりここにいたのね…シンバ。さぁ!早くドリューの賞状を返しなさい!」
その男が座る席に近づき、彼にそうすごむ。
「嫌なこった!俺は独立するんだ。この賞状がなけりゃー、依頼が受けられねぇーじゃねーか!」
「第一、この賞状は俺たちが貰ったものだろ?なら、俺が貰ってもいいじゃねーか!」
シンバは勢いよくフードを脱ぎ、勢いよく彼女に反論する。
「あのねー!これは便利屋ドリューが貰ったものなのよ。そこを辞めたアンタに…
どうこうできる権利は無いの!」
言い合うエヴァとシンバ。
次第に昼間から酒を飲み、酔っ払った男たちが群がる。
「お!また喧嘩か?」
「おい。今日はどっちに賭ける?」
「安定のエヴァだな!」
「エヴァ。俺はさっきも言ったが…この街を去る。なら…何をするか…分かるよな?」
「もちろんよ。外野も盛り上がってることだし…最後の勝負と行こうじゃない!」
エヴァとシンバは向き合うように席に座った。
シュワー―
マスターはすかさず、大量のビールをジョッキに注いだ。
今か今かと待ち侘びる酔っ払いに挟まれるモロ。
酒の匂いに、少しだけ息が詰まった。
その集団から逃げるように、店の窓に近づき…
(これ、僕が着いてきた意味ありますかー?!)
心の中でそう叫んだ。
—
カタッ
と同時に鞄も揺れたが、熱狂の中なので、誰にも気付かれなかった。




