第171話 麻刈り
「はいこれ、粘土の紐の余り。はい君たち。土の山の間に伸ばしてきて。まずは一本だけ」
早く帰りたくて仕方のないフガークスが、キビキビと指示を出していく。
勿論、飛車にもちょくちょく視線を送るのも忘れない。
先程やったばかりの動作なので、慣れた様子で粘土を繋いでいく男性達。素晴らしいチームワークで、畑に人工魔導体が敷かれていく。
「(はい、父性で硬化して。これは実験だから、埋めるのはまだね)」
線の端を持ちながらフガークスが急かしてくる。
「(はいぃ!了解です。硬化、だけ〜〜!)」
急いで父性を送り、硬化を完了する。
「はーい、魔力流すよ〜」
何の情緒もない、フガークスのゆるい掛け声と、同時。
――さわ……さわわ……
十五センチほどしかなかったスピナ麻の苗が、ぐんぐんと伸び始めた。
細長い紅葉のような形をした葉が、下から順に、拳を開くように広がっていく。
葉がつきにくいように、わざと密集させて種まきしてあるので、葉と葉が窮屈そうにぶつかり合う。
(あー。やっぱり、せっかく抜いてある雑草も生えちゃうな。でも、そうか。今に限っては、別に伸びてもいいのか)
村人が必死で抜いているであろう雑草も、魔力がどんどん送られていると、土壌の肥料を奪われる心配がないので、今はあまり気にしなくていいはずだ。
スピナ麻はぐんぐんと伸びていって、すぐに、うね二本だけが竹林のようになった。
(前に見た廃棄の外皮より、長い……!)
カラカラになった外皮は、二メートルほどだったが、こちらはすでに三メートルほどまで伸びている。
(……あ。成長、止まった……?)
風で揺れるので正確には分からないが、大きく伸びなくなった気がする。花も咲いていない。成長は、ここまでのようだ。
「――うん。これ以上は伸びないみた」
『うわあああああ〜〜!!』
フガークスが口を開いた途端、驚愕に目を見開いた女性達と子ども達から、特大の歓声があがった。
「一瞬でこんなに大きく育ったよ!」「なにこれ、すご〜い!」「魔力、かっけぇ〜!」
「はいオッケー。一本で二つの土の山から草が伸びるね。質はどう? 二回目がどう生えるか見たいし、早く刈って」
サーモグラフィーで見たら、目が驚くほどの温度差で、村人の熱い感激を冷たく流すフガークス。
(まあ、同じ流れ、二度目だしね……)
彼の脳内を可視化したら、研究についてが九十九.九%くらいを占めていそうだ。
「待ってろ」
グレゴルが、真剣な顔つきで、一本のスピナ麻をナタで刈り取った。
村人たちが集まっている真ん中で、縦に割って中を見る。
「うん、うん……。中の繊維もしっかりあるな」
全員でじっ……くりと観察している。唾を飲む音も聞こえそうだ。
「夏真っ盛りに伸びる分が、魔力で伸びた感じだな。元々、できるだけ長くて柔らかい繊維を採りたくて、花が咲くころまで待ってんだ。
この質なら、柔らかいのに、長ぇから、なんなら一番いい状態で、収穫できるだろうな」
(やった!いつも通り中の繊維が取れるなら、ポリエクロスも問題なく作れるはず!)
念には念を入れて、ライチは久しぶりにこっそりパパサーチを起動してみた。
(パパサーチさん、これがポリエクロスの材料になるか、教えてくれ)
《パパサーチ 起動》
《人工魔導体と魔力で成長したスピナ麻:
通常より中の繊維が多く取れる。
通常より柔らかい繊維が取れる。
ポリエクロスの材料になる》
(よかった!パパサーチさん、ありがとう!)
「質も良いとは、さっすが、フガのあんちゃん!」「すげぇな〜!」
その間にも、村人たちがフガークスに喝采を送っている。
しかし、当の本人はそれどころではなさそうだ。
「よかったね。じゃ、早く刈って」
喉風邪を引きそうなドライ具合で、フガークスは畑を指し示す。
「よし来た!!いくぞ!」
村人たちは特に気にした様子もなくそう言うと、鼻息荒く、小ぶりな斧を構えた。
(薪割りとかもしそうな斧だ。ナタじゃなくて、斧で刈るんだな)
太さは直径四センチほど。竹よりもサトウキビの方がイメージに近い。乾燥したものがパキパキと簡単に割れるし、竹ほどは硬くないのだろう。
バルゴや、力自慢の男性達が、肩を回しながら、広い畑に散らばっていく。
そして、刈った麻を回収するためにか、女性や子どもがそこに付いていった。
「いくぞぉぉ…………」
男性達は、息を揃えて斧を振りかぶった。
「おらっ! おらっ! ぅらっ!」
――ザクッ ザクッ ザクッ
何人もの男性が、リズム良く、進むペースを揃えて、斧を横薙ぎに振っていく。
「おらっ! おいっ! おいっ!」
斧一振りで、何本もの麻が刈り取られていく。絡みついてくる雑草を物ともせず進む姿は、実に猛々しい。
ライチのへっぴり腰ではこうはなるまい。
素晴らしい力と技だ。
(転移して最初にバルゴさんがウサギモンスターと戦ってくれたときも、横薙ぎにして倒してたな)
モンスターの体力は分からないが、クワで即死するほどの鋭さだった。それも、この技術があってこそなのだろう。
長く密集した麻が、綺麗に同じペースでバタバタと倒れていく。
「これは……! 圧巻ですね! すごい技術だ!」
ライチはその整然とした収穫具合に、目を輝かせた。
そして、よくよく見てみると、ティモやエルノや子ども達も、同じような目で男性達を見ている。
「そうだろう。うちの村じゃあ、これができて、ようやく一人前だ」
総監督として残っているグレゴルが笑う。
とても誇らしそうな顔をしていて、見ているライチまで、嬉しくなった。
(これはお父さん、張り切りどころだわ)
『パパ、そんなお仕事してるの? すごい!カッコいいな〜!』
ライチも、ルノ達にお仕事を見学してもらって、そう言われるところを想像してみた。
(……う〜〜ん。五万時間くらい、休憩なしで働けそう)
それほど、我が子の「すご〜い!」はやる気の源になるのだ。
(仕事は見せれないけど……。大量生産も叶えて、せめて、お金くらいは送ってやるからな)
スピネラ村の眩しい親子の繋がりに感化され、ライチはぐぐっと、拳を握り込んだ。
「はい。まだ刈り途中だけど、実験なんで、二回目いくよ。これだけ根元から刈られても、また生えてくるのか。生えてきたものは同じ質なのか。チェックしてね」
ライチの切ない決意など知る由もないフガークスが、村の大イベントすら一蹴して、次の実験を開始し始めた。
(ほんと、身も蓋も無い)
しかし、時間がないのも確かだ。ライチは苦笑しながら見守るしかない。
「魔力を流すよ。三、二、一」
村人の了承も、村長の顔色もお構いなしに、フガークスは魔力を流し始めた。
「えっ、ちょ、待っ――」
大きな見せ場に、真剣に斧を振っている途中の男性達が、わたわたと慌てた瞬間。
――さわさわさわさわっ
上限が分かったことで、先程より遠慮なく魔力を注いだようだ。刈った部分が一気にまた三メートルの長さまで成長し直した。
(おお〜!!生で見ると、これはほんと不思議!!)
植物といえば、先端に成長点?のようなものがあるやつも多かった気がする。そこが刈られたらおしまい、的なやつだ。
(成長点がないと駄目、みたいなルールは、こっちには無いんだろうな。基本、土から魔力が吸えれば、再生していくみたいだ。本当に凄い!これぞファンタジー!)
ライチも『魔力すご〜い!すご〜い!魔力!魔力!魔力!』と、脳内で魔力さんを胴上げして、讃えておいた。
(おっと。パパサーチでチェックも忘れずに、と)
《パパサーチ 起動》
《人工魔導体と魔力で成長したスピナ麻:
通常より中の繊維が多く取れる。
通常より柔らかい繊維が取れる。
ポリエクロスの材料になる》
(うん!同じ説明だ!バッチリ!)
「……フガのあんちゃん、ちょっと、今、俺ら良いところだから……」
「帰るのにも時間かかるし、昼宴会も、するんでしょ? 間に合わないよ。早くしよ」
脱力して文句を言う男性達に、フガークスが冷静にツッコむ。
「確かに……!」
村人が素直に同意する。
それはもう本当にそうで、おっしゃる通りだ。




