第168話 大魔道具の代わり
「いけたぞ〜」「生えてるとこの地面だよな? 繋ぎながら伸ばしてきたぞ」
そうこうしている間に、続々と村人たちが完了報告をしに帰ってくる。
「デハ、フガークスサン!オ願いしマス!」
下手くそ演技でアピールをしたライチは、大急ぎでクラフトポンのイメージを固めた。
(今伸ばしてくれた地表の人工魔導体の端を、持ち手の目印用にキューブにする!持ち手以外は、植物の根を邪魔しないように地中に埋める!)
そして、新製品と関わった全ての子ども達を、笑顔にする!
(……クラフト……ポン!)
――ぽん カサッ
「おっ、粘土が消えちまった」
「オオ〜!サスガ、フガークスサン!無事、土の中に埋まったソウデス!」
「ほほ〜。魔力って何でもできんだなぁ」
落ち葉だらけの湿った土が少し盛り上がっても、特に何の変化も確認できない。しかし、キューブが新しく紐の端にできたことと、先ほどまで目の前の地面にあった人工魔導体がなくなっていることから、恐らく地中に埋まったのだろうということは推測できた。
「では、各自散らばって収穫の準備をお願いします!」
ドキドキとライチの鼓動が速くなる。
上手く、いくのだろうか?
大人数を巻き込んでいるし、失敗したら、かなりの「ごめんなさい」案件だが……。
(まぁこの村の皆なら、失敗しても笑ってくれるか)
なにせ、見ず知らずの不審人物を迎え入れてくれるような温かい人たちだ。
「(え、これ、俺が魔力を流すの?)」
「(いえ、まずは父性を試したいです!カモフラージュに線だけ持って、研究者として見ていてください)」
「では、いよいよニョキニョキ、いきま〜す!フガークスサン、お願いシマス!」
フガークスが線の端のキューブを掴む。まじまじと見ているのが、周りから見れば不自然と言えば不自然だが、気にする人はいないだろう。手製ではなく、クラフトポン製なので、非常に美しい立方体だ。
ライチも、こっそり線に手を触れさせた。
元の世界の子ども達に想いを馳せる。
(ルノに言われた「ルノ、パパと結婚する〜!」のぎゅー。可愛かった、なぁ……)
そう、回想する。ただそれだけ。
胸が少し、痛んだ程度で。
―― ぼ ん っ
『わあああああああ〜!!?』
近くのクリザ葛がアフロヘアのように爆発的に増え、木々の奥からも絶叫がこだました。
当然ながら、キューブのある出発点から、人工魔導体が地下を通っている場所、全てに父性エネルギーが届いてしまうので、森にあったはずの道は、一気に雑草まみれになった。雑草刈りが手間だが、許してもらおう。
(よしよし。まぁ雑草仲間のクリザ葛は、荒れ地の雑草サークルみたいにうまくいくよな。他がどうなったか、早く教えてほしいな。ベトノキとか)
「なるほど……。“大魔道具の代わり”って……こういうことか……」
フガークスは目を丸くさせたまま、呆然とそう絞り出した。
「ライチー!!採れたぞ〜!」「すげぇ〜!魔力ってすげぇぇ〜!」
「すぐ二回目いきま〜す!どうなったか教えてくださ〜い!」
そう。ここからがこの作戦のメインステージだ。
短時間で繰り返し刈れるのか。
それとも、成長が早まるだけで、枯れていくのみなのか。
「えっ、またすぐ?!」「オッケー、待機する!」
近くのクリザ葛チームや、森の奥からも、遠く了解の声がする。こちらの声はちゃんとは聞こえていないかもしれないが、生えてくれば刈ってくれるだろう。
「(フガークスさん、二回目は魔力でやってみてください)」
ライチが耳打ちすると、呆然としていたフガークスがハッと息を呑んだ。
「(……うん。オッケー)」
「フガークスさん、お願いしま〜す!」
「いくよ。三、二、一……」
――さわ……
目視できるクリザ葛が、刈られた場所から再度伸びる。
「おお〜!二回目はちょっとだけか」「でも、繰り返し伸びるのはすげぇな」
「あれ? 魔力、少なめにしました?」
ライチの言葉に、フガークスはこくりと頷いた。
「うん。多いのは、さっき見たから。本当に少ししか入れなかったんだけど……抵抗なくスルスル流れた感じがする。なのに、前やった実験より効果がはるかに高い……。これ、もしかして、ヤバい品なんじゃないか……?」
「なんか色々と質がいいみたいですね。効率とか」
フガークスはその言葉を聞いているうちに、貧乏ゆすりを始めた。
「……っ、まだここにいなきゃ駄目かな? 早く持ち帰って実験に使いたいんだけど」
(そりゃこうなりますよねぇ)
気持ちは物凄く分かる。そもそもが研究の手を止めて、ライチに雇われてくれているのだ。そろそろ本業に戻ってもらわなければ、可哀想かもしれない。
「早く、次の実験をしよう」
フガークスに催促されて、ライチは声を張った。
「今度は、長めに魔力を注いでもらうんで、しばらく刈らないとどうなるか見てほしいです!成長が加速するなら、枯れてしまうのか? それともどこかで止まるのか? そのチェックをお願いしま〜す!聞こえた方は、奥に伝言してくださ〜い!」
『了〜解!』
「(父性でいきますね)」
伝言リレーをした森が静かになるのを待ってから、“長さ”を意識して父性エネルギーを注いでみる。
(レントは、読める字を一生懸命読んで、絵本の音読をしてくれたなぁ。あの可愛い声。一生聞ける。一生推せる。
ロクは、バイバイとパチパチが上手で、俺が首を振るのに合わせて、ヘッドバンキングしたり、ブンブン横に振ったりして……一緒に手とおしりがフリフリ揺れちゃうのが、可愛かったんだよなぁ。
三人とも、ほんと宇宙で一番可愛かったな。全員優勝。どう見ても我が子が一番可愛い。美醜とかでなく、輝いてしかない)
ライチは長めに回想して、ひたすら父性を送りまくってみた。
――…………。ぼんっ……ぼんっ……ぼんっ
「おお〜!刈らなかったら、一番いいところで止まってるわ!」
「刈ったら刈った瞬間生えてきたぞ!」
(ほほう。魔力や父性の送り込み過ぎは、枯れない、と。特に毒にはならないんだな。“一番”ってとこが、何をもって一番なのかは、検討が必要だけど)
茎なのか、若葉なのか、根なのか、葉なのか、実なのか。欲しい部分は、植物によって違うわけで。
(ブロッコリーなんかは、つぼみを食べてるわけだろ? それだと、エネルギーを注ぎすぎたら、全部花開いた状態になっちゃうのかな? それとも、それを通り越して、“実り”として、種の状態でストップ? これは……奥が深いぞ)
植物によって違うのかも気になる。
「ライチー!もうかごに入り切らねぇよ!」
クリザ葛のチームから声があがる。
「他も同じような感じですかね? 俺、ちょっと見てきます」
ライチは、熱心に何かを考えているフガークスにそう言い残すと、かつて子ども達と採集したあたりへ向かって走りだした。
---
「……ユキダマソウと、スイの葉と、ムラサキバナ、いかがですか?」
ティモとエルノが前に案内してくれた道だ。雑草まみれになっていても、距離は短い。すぐに到着した。
まず目に入ったのは、散々加工したことのある、ユキダマソウの実だ。
前は、直径三センチくらいの白い実が、鈴なりになっていたが……。
「ふむふむ。一回りくらい実が大きい気がしますね。実を取っても、また実がついた感じでしたか?」
「おう。そうだ。触ると手がただれる実だから、気をつけながらな」
(なるほど。実がなり続けるパターンか)




