第167話 魔力スゴ〜イ
「あっ、そうですそうです、いい感じです!魔力が流れるだけなんで、細すぎないように気を付けてもらったら、多少の凹凸は大丈夫です。切れたら繋ぎ直してくださいね」
「こんな土遊びして、本当にニョキニョキ生えるのか?」「ほんとほんと、遊びみてぇ」
「うおっ、トント、やるなぁ〜」
焼き物屋のトントが、もじゃもじゃのヒゲをワサワサと揺らしながら、ものすごい速さで粘土を伸ばしていく。ライチより、よほど速くて仕上がりが美しい。周りも感心している。
マンパワーにより、クラフトポン無しでも、ラメ入り粘土はあっという間に伸ばされていった。
「皆さんお疲れ様です!この粘土の紐に、魔力持ちのフガークスさんが特別な処理をすると……」
急にスケープゴートにされたフガークスが、『えっ?』と驚いた顔になる前に、ライチは瞬速で人工魔導体に父性エネルギーを送る。
――パアッ
「オオー、スゴ〜イ。サスガ、フガークスサン!固まりましたね!なんと!これで、刃物じゃないと切れません!魔力スゴ〜イ」
村人たちは、『おおぉぉ〜!?』と驚愕の声をあげながらコードを力いっぱいビン!ビン!と引く。
フガークスが耳元でまくし立てた。
「(今の父性だよな?! 何をした?! 何が起きた?!)」
口外禁止の誓いがなければ、今ごろ、周囲も気にせず詳細まで問い詰めまくっていただろう。今も、いくつもの言葉を飲み込んでいる様子だ。
「(父性エネルギーって、どうも特別らしくて。エネルギーを込めると、ラメ粘土が、いい感じに硬く仕上がっちゃうんですよ。チートで、ほんと訳がわからないですよね、すみません)」
正確には、魔力と神聖力が凄いのであって、父性エネルギーはたまたまその代用になるだけなのだが。手間なので説明は省いておいた。フガークスがこの技術を再現したくなったら、また作り方を教えよう。
「(“禁じられた圧倒的な力”、か……。確かに。ほんと、人の枠に収まってないわ)」
(へっ? 何、その中二ワード……?
…………あっ……ああ〜!
“チート”、の訳か!凄い訳し方だな)
神様AIが自動翻訳した言葉を、本人の声で日本語吹き替えがついたように理解できる、この翻訳の仕様。ライチにとっては、いつまでも新鮮で、飽きが来ない。
「え〜っと、次は、この硬くなったコードを、材料が生えてる所まで伸ばして欲しいんですが……」
そこまで言って、ライチはチラリとフガークスを見る。
「……あー、材料の“口外禁止”、だろ? りょーかい」
彼はじっくりと人工魔導体を観察しつつ、ついでのようにライチに向かって片手を上げた。
「端の方から、クリザ葛、ミズヨリグサ、ユキダマソウ、スイの葉、ムラサキバナ、ネバリダケ、ベトノキの生えてる場所まで行って欲しいです。群生地じゃなくて、近場の方で大丈夫です。そして、さっき言った通り、ただ行くだけじゃなくて、ここから現地までを、柔らかい粘土で紐同士を繋ぎながら、伸ばしていってほしいんです。ここから魔力を送るんで、ニョキニョキしてきたら収穫してください」
ライチは二人ペアくらいで、適当に植物の担当を割り振っていった。
この方法とは別に、ライチが現地を巡って、エネルギーを注いではそれぞれの植物を刈っていくやり方も考えた。
しかし、今回実験で使うのは群生地ではなく、ライチが近場で“最初に植物を見つけた場所”だ。小さな子どもでもすぐに行ける安全ゾーン。それぞれが生えている場所が遠くないので、効率重視で、一気にまとめてニョキニョキさせて、回収してもらうことにした。
「ユキダマソウと、スイの葉と、ムラサキバナ? 何にいるんだ?」
村人から出た意見に、ライチはハッとした。
「あっ、その三つも、ものづくりに必要でして。ユキダマソウは白い実のところ、スイの葉は葉っぱ、ムラサキバナは花を採ってほしいです!お願いしますね!」
「ふ〜ん、分かったよ」
「よし行くか。繋ぎながら、だな」
「でも、この紐、かなり強いぞ? 子どもが獣やモンスターから逃げて、足をひっかけでもしたら、危ねぇなぁ」
「確かにな。それに、獣が噛んじまうかもだし」
「ほ……ほんとだ!!」
森のプロたちの言う通りだ。実験のことだけを考えていたライチは、後ろ頭をこづかれたような気持ちになった。
(こっちでも地中に埋めるか……? クラフトポンって、すでに出来上がってても、“素材”とみなしてくれるのか?)
材料からのポンはいつものことだが、出来上がっているものの追加加工は、意識して頼んだことがない。
(まぁでも、出来上がってるボロ布をポンしたら、構造分解と再構築して綺麗な布オムツにしてくれる……なんてクラフトなんだから、ちょっと作ってあっても、多分、いけるだろ)
「えーーー……っと、それは、大丈夫です!フガークスさんのお力で、繋いだ後にポンと地面の下に埋まりますから!皆さんは安心して地面に置いてきてください!」
「地面の下ぁ?!」「木の根っこもあんのにか?」「土も掘らず?」「はは〜、すげぇな〜」
「フガの兄ちゃん、やるなぁ」「魔力すげぇ!」
「…………」
ツッコミを諦めたフガークスが、恨めしげな目でこちらを見ている。ライチは小さく動作で『ごめんなさい』と謝っておいた。
(ブッシー葦に、スピナ麻、油の麻も欲しいけど……場所が違うから後でお願いしよう)
村人たちは人工魔導体と粘土を持ち、森へ散らばっていった。クリザ葛の担当と、ライチとフガークスがこの場に残る。
(さてさて、どうなるかなぁ)
移動の待ち時間、ライチはぼんやりと結果について思考する。
「……なるほどね。魔導鉱や魔石の粉を、魔力持ち由来の成分で繋いでるのか。カカをプルプルで変質させて粘土にすることで、汎用性を高めてるんだ。面白い。どれも身近にあるものなのに、なんで思いつかなかったんだろう。なぜ硬化するのか? なぜ粘土になるのか? これは、カカじゃなくてもいいのか? ピピなら、魔導液体になっ……」
その横で、ブツブツと早口で何やら一人で呟いていたフガークスが、突然大桶を振り返った。
「あのプルプル入りの桶に、ピピを入れてもいい? いいよな?」
「えええっ、今?! もうキラキラも流しちゃいましたし、次の実験が始まっちゃいますから、ちょっと待って待って」
紺のローブをたくし上げて、さっそく放尿を始めようとしているフガークスに、慌ててストップをかける。村人が加工に使っている途中の桶に放尿とは、いかがなものか。
(……って、悲しいかな、ここでは誰も気にはしなさそうだけども!)
なんなら、「俺も俺も〜」と一緒に放尿までしそうだ。
(くぅっ……ずーーっと思ってることだけど、異世界転移……衛生面に関しては、孤軍奮闘すぎっ!
特に日本人にはホント駄目!
あちこち痒い!臭くてえづく!汚くてドン引き!ちょくちょくお腹痛い!早死にしちゃう!)
すぐ横にはクリザ葛の担当達もいるのだ。
特に尿は、出てすぐは綺麗なだけにタチが悪い。
温度が下がって空気に触れると、すぐにバイ菌まみれになるものなのだが、こちらでの認識は恐るべきものだ。
出てすぐならキレイなんだから、と、顔を洗って美容液に!
歯をゆすいで歯石取りに!
子どもの朝一番の尿は一番キレイだからちょうだい!
……など、様々な恐怖シーンを目にしてしまう。
(無理無理無理。皆でこねてる粘土におしっこをぶっかけるなんて……教育に悪い!俺の衛生倫理観が許さん!)
「……そか、キラキラを流しちゃったか。また肥溜め池まで行かないとなんだな。じゃ、まずは魔力が本当にこの紐に流れるのか、そこだな。魔石がないから効果が確かめにくいけど」
パッと服から手を離して、また思考の海に沈んでいくフガークスに、ライチはホッと胸を撫で下ろした。
先ほど魔導粘土を洗う際、スーパーバクテリアくんが、大切な肥料に影響を与えてはいけないと、川で流しておいたのもよかった。もし流した水がまだ肥溜めなどに残っていたら、掬いに行きかねない勢いだ。




