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パパは異世界ATM 〜家族に届く育児クラフト〜  作者: taniko


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第157話 プレス



「――あ」



 基本黙っていて、鍛冶には口出しをしていなかったフェラドが、おもむろに口を開いた。


「もう、押し出すのはやめて、切っちゃいますか」


「あん?」


 フェラド父が即座に反応する。


(お父さん、デフォルトが怖いですって……)


「フェラド、切ったら断面が四角に――」


 フェラド兄の一人が笑顔で訂正するのに構わず、フェラドは木札にゴリゴリと金属ペンを押し付け、跡をつけ始めた。


「その四角いのを、木の板に彫った上下の丸い溝でプレスするのはどうすか?」


『え?』


 工房中がフェラドを見る。


「細く丸く出すのは無理でも、細くて四角いのを挟んで丸くするのは簡単っすよね!」


『??』


 フェラドの説明を聞くだけでは理解が間に合わず、皆で目を瞬かせながら木札に寄っていく。


 そこには、半円のアーチが上下に分かれているイラストが描かれていた。


「ここに、細くて四角い生地があるとして、こう、丸い溝で挟んで丸くするんすよ」


 フェラドが、ライチの腕を“四角い生地”と呼んだあと、両手でパクッと挟み込んだ。


(おお、プレスで丸に!)


「これなら、切るのも簡単。木に丸い溝を彫るのも簡単。溝に切った生地を入れるところは、ちょっと手間。プレスは簡単。溝木枠をたくさん作れれば、そのまま置いとけるから、乾燥させるのも簡単そう」


「なる、ほど……?」


 皆一様に怪訝な顔をしている。理屈は分かる。現実的に落とし込むのが追いつかない。


「この程度の細工なら、フォーク地獄中の木工屋に頼まなくても、うちで削っちゃえるし、生地を切るところも、なんか一気に切れたらいいんだから……そう、糸でもたくさん張って、その上に薄くした生地を乗せて、上から押し切ったらどうっす?

 問題は溝に細い生地を入れていくとこっすけど……なんか縦に長いハケとか作ったら、優しく撫でるみたいに、溝へ落とせるんじゃないすかね」


 ペラペラと喋るフェラドの話を聞いているうちに、段々と理解が追いついてきた。


「プレスの上下が、うまく噛み合えば、いけ……るのかな?」


「蝶番でもつけて、突起と穴とかで噛み合わせたら、そんなズレないっしょ!」


「ほぉう。細くなった生地が、自然と溝に落ちていくようにできれば、悪くなさそうだな」


「板で坂道にしちまえば、うまくいくか?」

「落ちてる途中で、細くなった生地がぐにゃぐにゃしそうだな」

「なら、極力、溝に近づくようにするとか」

「糸が無理なら、たくさんの刃で一気に切るのも面白いな」

「おお。包丁が何本もまとまってるやつで切るわけか」

「そもそもプレスで切断と成形が一気にできたりしないか?」

「余った生地の逃げ場がないから、そりゃ難しくないか?」


 職人達が口々に意見を出していく。


「おもしれぇ。やってみんぞ!」


 珍しく父親にストレートに褒められたフェラドが、こっそりと目を輝かせたのを、ライチは見逃さなかった。


(フェラド、すごい!俺は、前の世界のニュルニュル出てくるイメージから離れられなくて、“この時代ではパスタマシーンは無理かぁ……”とか、“ワンチャン魔道具とかで、えいや〜!となんとかできないかなぁ”とか、そんなことばっかり考えてた)


 ライチが的外れなことを考えている間に、フェラドは現実的な解決方法に辿り着いていたのだ。


「ライチさん、この料理って、一人前って何本くらいっすか? 長さは前に聞いたけど、これくらいっすよね?」


「ええ……?」


 急に話を振られて慌てる。そんな普段意識しないことを、なぜなに期の子がいない時に急に聞かれるとは思わなかった。


「ほんとなんとなくだけど……本数は八十とか、百とか? それくらいかな?」


「了解っす!みんなでちょっとやってみるっす!」


 フェラドが工房奥へ駆けていく。工房中で、ドタバタと作業が始まった。


「ライチ様のおかげで、一歩前進することができました。お力添え、ありがとうございます」


 にこにこと笑うサピダンに労われる。


(力……添えたっけ? 説明を聞いて、八十から百本くらいだよ〜、しか、言ってないような……)


 あとは全てフェラドと工房の力だ。何はともあれ前進したのは喜ばしいことだ。


「……おう。そういや、これ。先の注文分だ」


 フェラド父が、おもむろにすぐ脇の戸棚から木箱を取って、ライチに手渡した。


「絞り機まではまだ手が回ってねぇから、お先にハシと、フォークだ」


「えっ、わ、やった!また忘れてました!」


(箸だ!やった!箸!箸!!)


 ライチは蓋のない箱から、布の包みを取り出す。作業台の端に乗せて、わくわくしながら包みを開いた。


「うおおお〜!!」


「悪かねぇだろ。アンタの分だけで作るつもりだった頃に、フェラドがスズだの銀だの言ってたろ? だが、貴族向けが動くとなると、話は別だ。お偉いさんと揃えると、変に睨まれるかもしれねぇ。今回は銀は無しで、富裕層用と同じ、青銅にさせてもらったぞ」


「わぁ。どうも、お気遣いありがとうございます」


 確かに、貴族と同等のものなんて持ってても、良いことがある気がしない。銀に全くこだわりのなかったライチは、素直にお礼を言った。


「フェラドが言ってたが、片手でハシを二本持つんだよな? ちょいと重い気がして、発注より、少しだが細めに作らせてもらったぞ。七つ角で、先細りで、先端丸めて、先だけザラつき加工、な」


「言われてみれば、ちょっと華奢ですね。うん……でも……。イイ!!食事用には長いけど、料理にも使えそうないい長さ!これぞ箸です!うわぁ、最高だ!ありがとうございます!」


「あ〜、料理に使うつもりなら、ハシ自体は熱にゃ弱かねぇが、持ってる手の方が火傷しちまうからな。布とか挟むのを忘れんなよ」


「……!!ほ、本当だ!気をつけますね」


(そうか。熱伝導のことすっかり忘れてた!木とか、シリコンの菜箸が一般的なのは、そういう理由だったのか……!)


 注意してもらわなかったら、スープをかき混ぜて熱さに驚くところだった。銅なんて、熱伝導率が良さそうだし。危ない危ない。


「……あれ? もう一本?」


 布に箸を戻しかけて、畳まれた部分に、フォーク以外の重量があることに気がついた。


「フォークと揃いのナイフだ。オマケで付けといてやるよ。うちは細工師は抱えてねぇから、柄のところをカッコよくしたけりゃ、他所に頼んでくれや」


 包みをさらに開くと、フォークと同じく、新品の十円を黄色くしたみたいな色の、果物ナイフのような鋭利な刃物が出てきた。

 

(どう見ても鋭さは“フォークとナイフ”のナイフじゃないけど……。お揃いで使えるのは嬉しいな!)


 まかり間違っても、子供のいる食卓には置けないレベルの鋭利さだ。持ち運ぶ時も、気を付けなければ。


「こんな……オマケでいただいちゃってもいいレベルなんでしょうか……大事に使いますね。ありがとうございます!」


「良いってことよ。フェラドが世話になってるし、なんだかんだ訳わからねぇ注文ではあっても、儲け話を持ってきてくれる原因さんだからな。今後もどうぞご贔屓に。スーパークラフターさんよ」


「あのそれほんと……」


(やめてください、とも言いにくい……!)


 フェラドが嬉しそうに呼んでいた名前なだけに、ハッキリと否定するのもはばかられた。


「それで、お代金は……」


「ああ。前金はもらってあるし、また絞り機が完成したらまとめて払ってくれや」


 フェラド父はそう言うと、さっと作業に向かってしまった。ライチはお礼を言った後、箱を両手で抱える。一旦屋敷に戻るらしいサピダンと一緒に、笑顔で工房をあとにした。


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