第145話 逆・円形脱毛症
「――よし。ラメ入り粘土の完成」
水分や温度は硬化には関係ないようなので、粉のラメが練り込まれる以外、混ぜていても特に変化がない。ラメが全体に行き渡ったところで、試しに電源コードほどの太さまで、手のひらで転がし伸ばしてみることにした。
「うし。一メートルくらいかな? 普通に今は千切れるけど……ここに魔力と神聖力を注げば、硬化する、と」
そして、父性エネルギーがその代わりになる、らしい。
伸ばしたラメ入り魔導粘土と、試しに千切った切れ端とを並べて地面に置く。
ライチはドキドキしながら、目を閉じた。
(ここが緑いっぱいになったら、郊外村にも畑仕事の仕事ができて、子ども達も、毎日お腹いっぱい食べれるよな)
村の子ども達が美味しいものをたくさん食べて、ふくふくとしていく様を想像する。
(よし!いくぞ!
魔導粘土よ、父性エネルギーで、人工魔導体に、なれ〜!)
手をかざして念を送る。
――パァッ
長さの違う二本の粘土線が、一瞬だけ光る。
「よしよし。どれどれ?」
出来上がった人工魔導体とやらを、そっと持ち上げてみる。
「お!おお〜!!硬化!してる!電源コードだ!」
――びんっ、びんっ
ライチは両手で思いっきり人工魔導体を引っ張ってみた。切れない。
手にぐるぐると巻き付けてみる。しなやかさといい、強さといい、まさに電源コードのイメージに近い。
「切れ端の方も、強度は同じなんだな」
千切ったものも、しっかりと硬化は成功している。
こんなに短いコードに触ることがないので、不思議な心地だが。
「で、この千切れたやつも、硬化前のラメ入り粘土で繋げば……」
大桶から少量のラメ粘土を取り、切れた箇所を繋いでみる。
「……う〜ん、繋ぎ目が膨らむのが不格好だけど……。まぁ、魔力や父性を流すことにしか使わないから、問題はないか」
見た目には目を瞑り、父性エネルギーを送ってみる。
「ふんふん。なるほど、こぶ付きコードになるわけね」
――びぃん びぃん
二本は無事繋がり、全力で引いても、接続部はびくともしない。
「枝分かれさせたりもできるってことか」
一応試してみる。問題なく、枝分かれコードにもなった。
(ヤバいな。こんなに加工しやすいものが、魔導鉱や魔導線の代わり……どころか、何倍も性能がいい進化版になるなら……)
「そりゃ、世界がひっくり返るわ」
アルフィアーナの言葉が実感を持って理解できた。あまりに使い勝手が良すぎる。
「あとは、地面に父性エネルギーを流せるか、だけど……」
これができれば、いよいよ、だ。
「地面に、十センチだけ、コード……じゃなくて、人工魔導体を置いて……と」
指二本でコードに触れながら、ライチは何気なく目を閉じて、子ども達の笑顔を願ってみた。
(父性エネルギーを送って――)
―― ぼ ん っ !
「どわぁっ!!」
足元から何かに突き上げられて、ライチはたたらを踏んだ。
「なに、こ……こわ……」
ライチは無意識に、先ほど父性エネルギーを出すためにかざした自分の右手を、顔から遠ざける。
目の前に突如現れたのは、ライチの背丈ほど伸びた、直径二メートルほどの“雑草サークル”だった。
「緑化、大成功だ!やったー!!」
勢いにはドン引きしたが、ついに念願の緑化成功に、ライチはガッツポーズをした。
「この長さの線で、こんだけの範囲が“生きた土地”になる……と。ほんと、大革命じゃないか、これ。アルフィアーナさ〜ん!やったよ〜!!」
小躍りしたい気持ちで、街の方に向かって小さく呼びかける。アルフィアーナも、今ごろくしゃみをしていることだろう。
「それにしても、生えすぎでは……」
“緑化”のイメージでは、オスティアのような草原を思い浮かべていたが、飛車しかり、流し込む父性の量を加減しないと、緑化もとんでもないことになるようだ。
ライチの目線の高さで、草の先がわさわさと揺れている。
「これ……ちゃんと種蒔きとかしてからエネルギーを流さないと、雑草刈りから始めないといけなくなるぞ。危なかった……」
種蒔きをしたところで、土地に積み重なった雑草の種が淘汰されるのかは謎だ。しかし、仕込み種はもう除去ができないので、生えてから除草するしかなく、そちらはもう今考えても仕方がない。
(……ということは、人工魔導体を敷き終わっても、父性エネルギーを送る前にスピネラ村への凱旋が必要って訳だな)
種がうまく得られるとは限らない。その場合は、根ごと置いていって、緑化と同時に根付かせる感じになるのだろうか。
「ベトノキとか……木ごと運ぶのか? いや、この成長速度なら、種さえあればニョキニョキいくのか?」
ライチは思考しながら、逆・円形脱毛症のようになった荒地の雑草たちを、サワサワと撫でた。
「…………待てよ」
チラリとよぎったアイディアに、ライチの手が止まる。
「俺、これ……凄いこと、思いついちゃったかも……」
先ほどぐっすりと眠ったのが効いたのか、アルフィアーナが聞けば、目を輝かせそうな、名案が降ってきた。
「材料って、どれくらいいるのかな。ちゃんと除けて置いとかないとな」
自分の思いつきに、ニヤニヤと笑ってしまう。
(これは、早くスピネラ村で試してみたい!)
「――とにかく、まずはフガークスさんが寝てる今、できるのは経験値集めだけだな。
さっさと人工魔導体のクラフトポンができるようにならないと、荒地に全部これを手作業で敷いてくのは、無理ゲーすぎるし」
気持ちを切り替えたライチは、せっせせっせと、ひたすら人工魔導体を細く練り続けた。
――体感時間にして、十五分ほどだろうか。
両手と床で二本同時に練り上げるライチの脳内に、すぐにその声が響いた。
《人工魔導体づくり の パパ経験値が一定量を超えました》
《父性クラフト:人工魔導体 が 次のステージに移行します》
《今後は、【使用者への愛情】をエネルギーに、素材から 即時クラフトすることができます》
「はやっ」
ライチは一人、笑ってしまった。過去最速だ。
(無理もないか。お子様の粘土遊びだって、ひたすら同じ太さに伸ばしてれば、すぐに無心でできるようにもなるわな)
それほどに、単純すぎる作業だった。
「クラフトポンかぁ。……ちょっとこれは、ちゃんと考えてからしないといけないぞ」
ライチも阿呆ではない。いい加減、適当にポンしてしまっては、あとで切ったり、詰めたり、戻せなかったり……と、手間や後悔が残ることは学習済みだ。
「地表に置くんだよな。メロンの網目みたいに不規則なのは……管理しにくいよな。蜘蛛の巣……みたいなのがいいかな?」
少し考えたが、畑にコードが円形に張り巡らせるというイメージが湧かない。
「……う〜ん、やっぱ、畑と言えば……」
(“うね”、だよな)
ライチは手近な石で、ガリガリと地面に設計図を描き始めた。




