幕間 ~騎士団員ポールの供述・2~
本営一同ががっくりこいてた『真相』の後、少しばかり雲行きが怪しくなってきた。
昨日の続きをしませんか、というミオ様の響きの良い声。そしてカノン様の肯定。その後、増幅器から流れてきた音声といったら――。
『カノン様、緊張してます? 昨日はちょっと激しくしちゃいましたもんね。今日は少し手加減したげましょか』
『はぅ……ミオ殿の手は、あったかいですねぇ……あっ、そこ、気持ちいい、そこ、もっと……』
『なーんだ、手加減要らなそうやね。そしたら遠慮なく、……ふふふっ』
『えっ……!? あ、やだ痛いそこは痛いですおちり痛いでつぅぅぅ』
って待てやコラ舌っ足らずなカノン様とか可愛いが過ぎるだろじゃなくて猫っかぶりの黒聖女、俺達のカノン様に何さらすんじゃ。……っていけねぇなシティーボーイ(笑)の俺様としたことがミオ様語に毒されちまったぜ☆
『そんなに泣かないで、カノン様。痛いならやめますか?』
『あぅぅ……いたっ……痛いけどっ……やめないで……』
『力緩めましょか?』
『んっ……平気です……我慢します……我慢できますからぁ……ぁ』
『あのねぇカノン様、我慢大会と違うんですから。私だって何も痛くしたいワケじゃない。できればカノン様が気持ちいいって思うことだけしてあげたいの』
『んふぅっ……気持ちいい、痛いけどっ、イタキモですから……ぁんっ』
『イタキモを覚えましたかー。痛い時に痛いってちゃんと言えるようになってエラかったですね。昨日はいっぱい我慢しちゃいましたもんねー……んふふふっ』
「なぁ、俺ら一体何を聴かされてんだ?」
俺は思わず吐き捨てた。さぁね、と応えるヘイゼルの表情には余裕がない。限界が近いのだろう、体力的にも魔力的にも。俺は奴の顎にまで滴った汗を拭いた。台ふきんで拭くなよ、とツッコむだけの精神的余裕はあるらしい。
しかし、ケツが痛いって……おかしな想像を逞しくしちまうが、そういうコト……なのか? カノン様は線が細いし綺麗だし、そういう輩に散々狙われつけ回されてきたりもしたが……まぁ実力行使でねじ伏せてたけどな。でもミオ様、女子だよな? しかも、女性としても小柄な部類だし、仮にも騎士の男を力づくでどうこうできそうな腕っぷしの女傑には見えねぇが。
「ううううううそだぁぁぁぁカノン様が! あのカノン様が!! こんなっ、こんなみだらなことをするはずがぁぁぁぁぁぁ!!!」
「フーガ君、黙って。集中できない」
ヘイゼルは発狂するフーガにぴしゃりと言った。フーガはカノン様に多大な夢を見てるからな。奴にはカノン様が清廉潔白で慈悲深いハイプリーストみてぇに見えてんだろう。だがフーガ、お前が神の如く慕うそのお人はただの歴史オタクの魔法バカだ。
『ああ……無理……溶ける……溶けちゃう……』
『あぅっ……痛っ……気持ちいい……嗚呼、神よ……私はっ……どうすればっ、いいのでしょう……』
魔導具からは相変わらすカノン様の艶めかしいあえぎが流れる。いい大人の俺達でさえ身の置き所がなくなる破壊力なのにお子ちゃまチェリーのフーガが気の毒だ。
もういいだろ、聴いてらんねぇや。真相は判明したんだ。ここらで打ち切っとくのが定石ってヤツだろ。
俺はヘイゼルに視線を送った。汗だくの奴と目が合った。顔色が悪い。魔力絞られ過ぎだ。
「ポール」
ヘイゼルが俺を呼んだ。奴も同じことを考えてるんだろう。ちょっとしたことでどつき合いになったりもするがコイツとは根本的なトコで解り合えるんだ。以心伝心、魚心あれば水心、目と目で通じ合う、そういう仲なんだよ俺達は。
俺は撤収の合図を送ろうとした。だがヘイゼルは俺を止め、言った。
「ゴウコクを、押してくれ」
「え、まだやんの!?」
俺はがっくりずっこけた。
ヘイゼルは盗聴を続ける気マンマンだ。術師が続行の判断を下したならオーディエンスは従うのがスジだが、命削ってまでやるようなコトかコレは?
俺はヘイゼルのゴウコクを押した。魔導具は強制的に奴の魔力を搾り取っている。焼け石に水だ。
「ヘタクソ」
ヘイゼルは俺を見上げ悪態をついた。ミオ様ばりの回復力を期待すんなよ。しゃーねーだろ俺様まだまだゴウコク素人なんだ。
「フーガ君、ベソかいてないで。書記やらないなら俺のゴウコクを押しなさい」
ヘイゼルはカノン様口調を作ってフーガに命じた。フーガはしゃくり上げながら機械的に従った。上手いねフーガ君、カノン様ばりの回復力だよ、とヘイゼルは青白い顔色のまま褒めた。
とにかく魔力、魔力が欲しい、と、うわごとのように口走るヘイゼルを見かねて、俺はゴウコクフォーメーションを組んだ。ゴウコクは同人物が連打しても意味がない。が、間に誰か1人でも挟めたら別人カウントでまんまと回復する。その習性を逆手に取った完璧な作戦だ。
ここからは本営の騎士総員で順番にヘイゼルのゴウコクを押すだけのカンタンなオシゴトだ。ヘイゼルの左右に騎士団員がズラリと並び、ゴウコクを押し、最後尾に並び直し、と。ヘイゼルのゴウコク周りは爪痕でいっぱいだ。爪を立てるなよ、と奴は文句は言ったがやめろとは言わなかった。意地でも魔力ポーションは飲みたくないってコトだろう。
増幅器は相変わらず、
『ここも、いいですか?』
『え、でも……いけません。そんな所、汚いですし……』
『カノン様はどこもかしこも綺麗ですよ』
『戯言を……』
なんて妖しい会話を垂れ流している。
『構いません、痛くして下さい。ミオ殿が下さるものなら痛みでも甘受致します』
ってカノン様アンタ何ドM宣言しちゃってんですか。そんなんだからドSな上官とかド変態な貴族野郎とかばっかホイホイしちまーんですぜ。
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名有りモブ騎士ことポール殿の供述続行です。
仮にも上官を「ただの歴史オタクの魔法バカ」とバッサリ斬り捨てておりますがこれでいいのか。
あと、ダスターの使い方は根本的に間違っていると思われます。




