幕間 ~騎士団員ポールの供述・3~
ここまでは割と平和に(?)流し聞きつつ、ヘイゼルのゴウコクなんぞ押したりしていたが。
「なぁ、流石にヤバくないか?」
魔導具から聴こえるはカノン様の絶叫。さっきまでは痛くされながらもどこかしらで快感を拾ってたかのようだったが、今は徹頭徹尾苦痛を訴える叫びでしかない。その上ミオ様はカノン様に向かって、頭が良くないだの首が終わってるだの暴言吐きまくりだ。SMごっこにしちゃ度を超えている。何だよコレ、新手の拷問かよ。
俺は廊下に待機中のアレンにハンドサインを送った。本営に戻れ、を読み取り奴はすぐに戻ってきた。アレンは食堂に会する騎士団員が総出でヘイゼルのゴウコクを押す画に驚いたようだが、魔導具が垂れ流す音声に顔をしかめた。
「捕虜の虐待は国際条例で禁止されておりますぞ」
「それな」
俺は大きく頷いた。もうこれは虐待の域に入るよな。
「討ち入り決定ってコトでアレン、頼めるか?」
「御意」
アレンは上官への敬礼姿勢を取った。タイミングはこちらで計る、と告げた俺にアレンは御意、と返し、ふと列に並ぶフーガを見た。奴は術師のヘイゼルよりも酷い顔色でガタガタ震え、涙まで流している。アレンはフーガの両耳を塞いだ。子供に聞かせるものではない、と静かな憤りをにじませ言ったアレンに、俺は反省した。
古巣の魔法研を地獄とまで言ったフーガのことだ。この垂れ流しの虐待音声は奴のトラウマを刺激しただろう。ましてや被虐待者は尊敬するカノン様だ。
「悪い、未成年の上にチェリーだもんな。配慮が足りなかった」
俺達だって聞いてるのがつらくなるヤツだ。チェリーでお子ちゃまの上トラウマ持ちのフーガにゃ酷だわな。
「よもや上官(男)を黒の聖女から救出する羽目になるとは」
アレンはフーガの耳をガードしながらやるせなげに首を振った。奴はオオカミさんから黒髪のお嬢さんを助けるシナリオの為に暗い廊下で待機してたってのにな。難儀なこった。
タイミングを計ってるうちに状況がまた変わった。
一連のプレイが終わり、小休止。神託の主と聖女様はアカデミックな話題に夢中だ。回復魔法のことでよくもこんだけ盛り上がれるモンだ。カノン様はデュフフコポォ(ミオ様的表現)が通常営業だが、わかってるっぷりしてへーほーふーんと聞き流すミオ様のスキルも大したモンだぜ。
とりあえず破滅前提の討ち入りまで覚悟してたが早まらなくてよかったぜ。フーガもすっかり立ち直って速記に精を出している。復活早ぇーなコイツ。ミオ様ばりの切り替えの良さだ。
『でも私もホッとしました。カノン様、私のこと嫌になっちゃったのかなって思って』
魔導具はミオ様の声をクリアに拾った。いやそれはない、と、この場の何人かの騎士が律儀にツッコんでいた。ヘイゼルは術を続行する意向だ。というか周りのモブ騎士連中がゴウコク押しの楽しさに目覚めて無理矢理続けさせてるって表現の方が正しいかもな。
「いいよ、ここまで来たらミオちゃんが帰還するまで責任もって続けるよ。受けた任務は最後まで、だ」
ヘイゼルは竜騎士の掟とやらを持ち出してまで自分を鼓舞してやがる。俺に言わせりゃユタ竜騎兵隊員が発足時から頑なに守り続ける掟とやらの数々は戦死者続出コマンドでしかないんだがな。
そんなこんなで魔導具は着々といい仕事を続けている。騎士団総出のゴウコク攻めでヘイゼルの魔力も多少は持ち直したようだ。ゴウコクまじ神。奴の手の甲は爪痕で悲惨なコトになってるが、そりゃ必要な犠牲ってヤツだよな☆
ある程度の魔力が回復したことでヘイゼルの顔色は格段に良くなった。滝汗は相変わらずだったが。顔色だけなら虐待拷問音声で発狂したフーガのが酷ぇモンだった。
術師が持ち直したんで本営の空気もちっとばかし緩んだ。しかしそこにミオ様のスマッシュヒットが炸裂した。
『魔力のコントロールができないのって致命的だって。要はクソションベン垂れ流しってことだよってポール殿が言ってて。しかもあんな盛大なおもらしで……』
本営に集いし騎士の目が一斉に俺に向いた。
「えっ、俺!?」
名指しされた俺はびっくらこいた。
『ミオ殿、貴女はポールにかつがれています』
魔導具からカノン様の声がクリアに聴こえる。
『私、騙されてたの? おもらしおもらし連呼されてイヤァァァハズカシーミットモナーイってガチ泣きした私の涙を返せ!』
呆然とした後、我に返って怒り狂ったミオ様の叫びが響く。
ハハッ、バレちまったぜ☆ 騙すつもりはなかったんだがあのお嬢ちゃん、何でもホイホイ真に受けておもしれぇ~ってーか、本人的には怒ってるつもりなんかも知んねぇが仔猫がいっちょまえにフーフーシャーシャー言ってるぜみてぇな風情があってカワイイってーかさ。何せ娯楽の少ない『辺境送り』だ。こんぐれぇの楽しみあってもいいだろってーかさ。俺達にとっちゃ『ミオ様で遊ぶこと』はちょっとした流行りってーかさ。まぁ親愛の表現ってヤツだよ、うん。
なぁ、お前らだってそう思うだろ? と俺は周囲の仲間に振ったがイマイチ同意は得られなかった。ただヘイゼルだけがアレンに全力でゴウコクを押されながらボソッと、
「悪趣味」
と返しただけだった。何だよ冷てぇな。お前らだってそれなりに楽しんでたじゃねぇかよ。
「何事にも一生懸命で努力家なミオ様はすごいなーとは思いますけど。たとえその努力がちょっとヘンな方向だったとしても。でも僕はそれで目隠しワイルドボー聖女様を笑ったりはしません」
記録係のオシゴトをこなしつつ、きっぱりと言い放ったフーガに俺は鼻白んだ。何だよお前、自分だけイイコになりやがって。
「役人になるわけでもなかろうに文字の書き取りに血道を上げるおなごは珍しくはあるが」
アレンはフーガに一定の同意を示しつつも、見当違いの努力もまた努力であり尊い、と付け加えるのは忘れなかった。アレンは典型的なヴァルハラ男で、女子に学問は不要派だ。いかにも言いそうではあるな。
アレン殿はゴウコク押しが上手いですね、と、まんざらリップサービスでもなさそうな感じで言ったヘイゼルの目がすっと眇められた。どうした、と訊く前に奴は、ヤバイ、と口走る。
『泣いたのですか?』
カノン様の声が、魔導具から。
『そりゃあもう、羞恥でリアルガチで号泣』
『号泣ですか……』
ヘイゼルの顔色がみるみる青白くなっていく。カノン様の声は平坦で温度がない。こりゃマジでマズイやつだ。
俺はヘイゼルに撤収を命じた。だが奴はかぶりを振った。いやもうこりゃミオ様の帰還とか待ってる場合じゃねぇだろ、と俺は言ったがヘイゼルは、
「増幅器との接続が切れない。撤収不可能。敵に完全に捕まった」
「何だって!? 魔導具越しの魔力だけで相手を捕縛するとかアリかよ!?」
「普通なら、ナシだね。でも相手はあのカノン・オラクル・ラディウスだ。ラディウス卿は土魔法の使い手でもある。捕縛の術はお手のものだ」
だから嫌だったんだよ、とヘイゼルは嘆いた。今さら何言ってんだ。さっきまでお前、竜騎士の掟まで持ち出してノリノリだったクセによ。
『ミオ殿』
魔導具越しにカノン様の静かな声が促した。
『ポケットの中のものを、こちらに』
ミオ様が息を飲む気配を魔導具が伝える。
『私が何も気づかないとでも? 自慢ではありませんが私、魔力の干渉を感じ取るのは得手でして。この気配はヘイゼル殿でしょうか』
バ レ テ ー ラ ☆
『えぇ、判っておりましたよ。私と彼女のやり取りを聞いて、増幅器を囲む貴方がたがどんな妄想を逞しくするかと想像するのはなかなか愉快でした』
うへっ、完全にバレテーラ!
つまりは何だ!? あのやたら艶めかしいあえぎ声とか思わせぶりな台詞とか、もしかして全部わざとか!? まさかとは思うがアレ全部、聞かせる前提の演技かよ!?
愕然とする俺達を余所に、ちゅっ、と可愛いリップ音が響いた。魔導具越しの接吻なんざ斬新だな。俺は危機感も忘れてしばし感心したが、
『次は貴方がたの番ですよ』
いっそ優しげなカノン様の声と共に、膨大な魔力の逆流の気配を感じた。総員退避を命じるよりも光の逆走の方が早かった。ヤベェこれガチなやつ、というのが俺の最後の思考だった。
お読みいただきありがとうございます。
いや別に丸々演技ってワケでもなかったと思いますよ、カノン様のアレやらコレやら。
というお話です。
足裏は拷問、実況は虐待音声。これデフォルト(すみません嘘つきました)
別名:割とけちょんけちょんな言われような聖女様でござるの巻。
ヨロイー'sことヴァルハラ騎士団員視点ではミオちゃんは一生懸命頑張ってるけどどっか努力の方向間違ってる人みたいです。
次回は張り切っておしおきの~サービスサービス☆(多分)




