バカ共のこれから
開浜東警察署内留置所 AM七時
翌日、騒がしい夜は明け新しい朝が来た。
「おはよう馬鹿共、良く寝れたかー?」
牢屋の前に立つ相馬が四人に聞く。
「身体が、痛い……」
配布された毛布にくるまったままの相馬が呻くように呟く。
「まぁ仕方ねぇ事だそれは。留置所はお前らみたいなのを長く居させる場所じゃねぇから長期拘束するような設備は無いんだ。よって床もコンクリ」
「ベッドも無いとかちょっと配慮に欠けてると思うぜ全く」
身体をバキバキと鳴らしながら伸びをする昌義。
「四人分もベッド入れられねぇっての。それよりお前らの処分が色々決まったから、とりあえずここから出て来い」
栄治は腰に付けていた鍵で牢の扉を開けた。従うように男達はダルそうに体を起こし軽く身支度を整える。だがそんな中一人だけ未だ爆睡をかます男が居た。
「んー……がぅあ……マリアナ海峡……」
「どんな夢見てんだコイツ」
訳の分からない寝言を呟く武人に栄治には思わずツッコんだ。
「それは俺達にとって永遠の謎です。起きた後毎回聞いても何も覚えていないと言いますから」
補足するように優佳が言う。
「ほーん、まぁとりあえずそいつ起こしてくれ」
その言葉に呼応し無言で相馬と昌義が近付く。
「「起きろやゴラァ!!」」
そして二人は武人を踏み潰した。
「ぐふぅえぇ!?」
身体に強い圧力と衝撃が同時に到来し武人は目を見開いた。
「何っだよ……お前ら。まだ眠いから寝かせてくれって……」
「緊迫した状況、なのにそんな幸せそうな顔で寝られると蹴りたくもなる」
「どうしてだろうな。武人が幸せそうにしていると殺意が湧いてくるんだ」
「お前ら鬼か!?」
「武人のためなら、鬼にもなろう」
「すごいな。良い言葉のはずなのに前の会話で受け取り方が違う」
冷静に昌義は分析する。
「武人起きろ」
「あー……しゃあねぇな」
栄治に言われ武人は首をコキコキと鳴らした。
床まで伸ばしたその腕にはタマにやられた傷の数々があるはずだがそれらは大方が既に完治しており傷跡すらも大して残っていない。
優佳の言葉に眠そうに眼をこすりながら起き上がった武人は床に捨てるように置いてあった学ランを拾い上げた。
「うーし、じゃあ付いて来い」
栄治は四人に見事な速度で手錠を嵌める。
武人、優佳、相馬、昌義は手錠と手錠を紐で結び連結されている状態だ。栄治が紐の先端を保持しているため彼が引くと必然的に後列の武人らは勝手に栄治の方へと歩くのを余儀無くされる。
栄治の後ろを一列に四人は歩いていった。
◇
「まぁ隠してても仕方がねぇから言うけどよ。今からお前らを刑務所へ移送する」
多少だが重苦しい雰囲気を出しながら先頭を歩く栄治は言った。
「マジかぁ……」
武人は項垂れる。
「資産家の一人娘を誘拐、まぁ字面だけで今のご時世お前ら未成年でも一発アウトだ」
「俺の、人生設計が……」
「お前この前人は瞬間瞬間を生きているとかほざいてただろうが」
同じく項垂れていた相馬に昌義がツッコんだ。
「にしても……ふわぁ、まだ眠い……」
「武人は本当に朝が弱いな」
「それもあるけど、昨日やられたところが完治してねぇからな。寝足りねぇ……」
武人は睡眠と食事で大抵の傷は一日やそこらで完治してしまう。壮絶な環境が武人の体をそういう風に作り替え適応させていったのだ。
留置所で出る人並みの食事では傷の治りを良くするには足りず必然的に睡眠に比重が置かれるのだが、その完治するための睡眠時間も微妙に足りなかった状況だった。
「お前ら緊張感の欠片も無いな……」
手錠で腕を拘束された四人は多少ショックを受けてはいるが全く動じていない。いつも通りの調子と言っても差し支えの無いほどだ。
「ん。いや、まぁ俺は自分のしてぇ事しただけだし。別に後悔もねぇからな」
「俺もです。瑠々様はこれからお父様と仲良くやっていくでしょう。その手助けが出来ただけで、満足です」
「色々、不満はある……けど、まぁこれでいいかって感じだ」
「俺は自分が使えるお嬢様の命でここに居るからな。不満も何もこれがお嬢様のしたい事なら従うまでだ」
四者は言っている事はそれぞれ異なるが、誰一人としてこれからの処遇に対し恐怖も不安も感じていないようだった。
やっぱ惜しいな。こういう何も考えず人のために命を張れる奴らが今若手に何人いる?
エレベータで下降する最中、昌義は四人の背中を見て思う。
やがて一階へと到着し、四人は移送車が停車している正面口まで再び徒歩で向かった。
◇
「よーし、止まれ馬鹿共」
先導していた栄治がそう言って足を止めた。
「これがこれからお前らを運ぶ移送車だ」
「おぉイカつくてカッケェな!」
「フォームチェンジに、期待」
武人と相馬はキラキラと目を輝かせた。
「そう言えば報道陣は居ないのか?」
キョロキョロと周囲を見渡しながら優佳は言う。
彼の言う通り記者と思しき人物は誰一人として視界に入らなかった。
令嬢を誘拐した高校生四人、格好のスクープ対象だ。その対象が刑務所に移送される映像を撮影しない訳が無い。
「あーまぁそこは俺が一応報道規制を掛けて嘘の情報を流しておいた。お前らの移送は一週間後だってな。だからまぁこんな朝早くから見張る奴なんて居ないさ」
「どうやってそんな事を?」
「あ、そりゃあ……な」
優佳の質問に栄治は言葉に詰まる。だがすぐに観念したように喋った。
「まぁ……お前らがこれ以上晒されねぇように俺が上に掛け合ったんだよ。軽い頭下げてな」
ポリポリと頭を掻きながら溜息を吐くように栄治は言う。
その様子に武人はポカンとした表情をしたがすぐに調子を取り戻すと
「よく分かんねぇけど、俺達のために何かやってくれたって事だろ?借りは返すぜ。ムショから出た後によ」
ニヤリと笑いながらそう口にした。
「……あぁ、そうしてくれ」
武人の言葉と表情に栄治は思わず苦笑した。
そうこうしている内に移送車の運転席から男性の運転手が降りて来た。
「では、こちらでよろしいですか?」
「あぁ間違いない。頼んだ」
書類での移送手続きは既に済んでおりここでの口頭の確認はあくまで形式上のものだ。大した意味は無かった。
「それでは……こっちだ」
昌義とのやり取りが終わると今度は武人達を誘導する作業へと移った。栄治の時とは違い命令するような口調で四人へと言葉を飛ばす。そして移送車の最後部まで彼らを連れて行くとその扉が開き、そこから乗車するよう四人は促される。
特に抵抗する素振りも無く乗車しようとする武人ら。
武人は車へ一歩足を掛けた。その時である。
「ちょっ、ちょっと待ったぁ!!!」
大きな声が響き、武人達の耳にそれが届いた。音が聞こえた者達はすぐにその音がした方へと体を向けた。
見えたのは車だった。一台の如何にもな高級車、それは移送車の方へすごい速度で接近しやがて移送車付近まで辿り着くと甲高いブレーキ音を立て停車した。
いきり立つエンジン音に、急停車により地面から生じる煙。そしてそれを発生させてい
る車をその場に居た全員は訝し気に見詰めた。
ガチャリと車のドアが音を立てて開く。そこから出て来たのは
「……ふぅ」
武人達が協力した少女、瑠々だった。
「瑠々!何でここにいんだよ!?」
彼女の姿を見た者たちは言葉は発さなかったが皆一様に武人のような反応を示した。
だが周囲のそんな反応を意に介す事は無く堂々とした態度を崩さない瑠々。
「そんなの決まってる」
そう言う彼女はまるで昨日とは別人だった。
「そこの人」
「え、は、はい!何でしょうか?」
資産家の娘が乱入してきた事に呆気に取られていた運転手はその瑠々の声で我に返った。
「三人は私のボディガード。だから解放してほしい」
「あ?」
「え?」
「何、だと?」
言葉の対象の三人は瑠々の言葉に一瞬思考が停止した。
「え、えーと……?」
当然直接お願いをされている運転手も同様、混乱する。
「三人を釈放してほしい」
思考がまとまらない男に追撃するよう瑠々は更に言葉を投げかけた。
「い、いやいや……! そんな事そもそも私に言われましても・・・!!」
ようやく瑠々の言葉を額面通りに受け取り内容を把握した運転手、だが理解した所でその突然で突飛なモノは一職員の人間が恐れおののくには充分であった。一職員の一存ではどうこう出来るレベルではない要求にただ大きく首を横に振るのが精いっぱいである。
「御代瑠々様ですか?」
そこで栄治が助け舟を出した。彼の質問に瑠々はコクリと頷いた。
「なるほど、まずそう言った要件には書面上の色々な手続きなどがございまして。一先ずは署内までお越しくださいませんか?」
武人達と話している時とは打って変わって口調や声の調子が警察官のソレに近いものになる栄治。
「そして幾ら資産家のご令嬢とは言え、まだ未成年。書面の手続きなどには保護者の同伴が必須ですので同乗されている方もご一緒に」
そこで車の運転席側の扉が開く。
「……」
出て来たのはこれまた武人達にとっては数時間振りの再会である明良だ。
車外へ出た明良は武人、優佳、相馬の三人を見据える。三者は何を言われるのかと多少身構えた。が、彼の行動は彼らの予想外のものだった。
「すまなかった」
そう言って明良は頭を下げたのだ。
「それじゃあ行きましょうか」
栄治の言葉を皮切りに顔を上げる明良、再度武人達の目を見る。だがそれ以上何を言うでもなく彼は歩き出した。
「ておい急に動くなって!」
当然だが栄治も動くため連鎖的に武人達も動く事になる。
未だ状況の理解に苦しむ武人だが栄治が現在栄治が武人達の行動の主導権を握っている手前、どれだけ意味が分からなかろうが付いていくしか選択肢は無い。
武人達もまた、警察署内へと引き返した。
結論から言ってしまえば武人達が投獄される事は無くなった。
瑠々は武人達が自分のボディガードであり、彼らは自分に協力してくれただけだと言った。武人達がボディガードでというのは勿論真っ赤なウソだったがそれ以外の部分は全て事実である。そうして彼女は警察に迷惑を掛けた事を謝罪した。
誘拐された瑠々本人が今回の事件を不問にしてくれという直談判、本来ならば様々な事実確認が必要だが保護者である明良の後押しもありその要望を受け入れるしかなかった。
警察側としても資産家の人間と下手に事を構えるのは悪手であると理解している。
こうして武人達は流れで御代家所属のボディガードとなった。
「あれ、俺は?」
昌義は興花の多額のポケットマネーで解放された。
「雑過ぎんだろ俺の扱い!?」
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