長い道のり、その着地
「あー疲れた。っ痛てて」
「腕をかなりやられたな。大丈夫か?」
「まぁこんくらいなら唾つけときゃ明日にでも治るから問題ねぇよ」
「相変わらず超人的な回復力だな」
「気合よ気合」
目的を達成した男達は急いで警察署までの道を辿っていた。
運転は変わらず昌義、助手席は相馬、そして後部座席には武人と優佳他愛のない会話を繰り広げている。
「……」
「……」
そして、瑠々と明良はそんな武人と優佳に挟まれるように座らされていた。
「申し訳ありません二人共。こんな詰めて座らせるような真似を、如何せん車内が狭いものですから」
「そうだぜ。狭いのは栄治に文句言ってくれ。俺らのせいじゃねぇ」
違う、そうではない。
瑠々も明良もそんな事は気に掛けていない。というか気に掛けている心の余裕が無い。
「そんな事は……どうでもいい!!」
狭い密閉空間で明良は思わず大声を上げた。
「……お前らは捕まったはずだ。それがどうして」
色々と聞きたい事があった彼だが、考えのまとまらないまま口にした最初の疑問がそれだった。
「ンなもん抜け出して来たに決まってんだろ」
「なっ……!?」
捕まったはずの人間がここに居る。
その答えは一つしかない、予想はしていたが実際に口にされた事に明良は驚きを隠せなかった。
「武人……」
「ん?」
次いで言葉を発したのは瑠々。
唇を震わせずっと何か言いたげな様子だった彼女が遂に勇気を振り絞り口を開いた。
「どうして……来たんだ。どうして……」
助けに来てくれたんだ?
最後に繋げるはずだった言葉が出る事は無かった。
武人達を切り捨てた挙句に命を救われた瑠々にとって『助けてくれた』などという言葉は最早口に出すだけでも烏滸がましいものだと思うに至ってしまったのだ。
「どうしてだぁ? そんなのダチだからに決まってんだろ」
「え……?」
あまりにも予想外の答えに瑠々の頭は混乱した。
何か、考えつかないが何か合理的な理由があると思っていた。でなければ私達を助ける理由なんて存在しない。
瑠々はそう決めつけていた。
だが武人が口にしたのは合理的でも無ければ理解も出来ない、荒唐無稽な理由だった。
「ダ、ダチ……って。だ、だって私は……武人達を……切り捨てたのに……」
瑠々はたじろぎながらも言葉を返す。
「あぁ?別にンな事怒ってねぇよ」
「ど、どうして……!!」
怒ってない訳が無いと、憎んでいない訳が無いと彼女は必至で思う。
あれだけ酷い仕打ちをしたのだから。協力してもらったのに、何一つ恩も返さず巨大な仇を返したのだからという理由を頭の中で蔓延させ自分を卑下し続けたのだ。
しかしそんな思いを馳せる瑠々に、武人は言った。
「だってお前は自分のやりてぇ事をしたんじゃねぇか。自分のオヤジを振り向かせるために俺達を切ったってんなら何も問題ねぇ。俺らはお前の目的って奴のために協力したんだからな」
「そ、それは……」
あの時自分が意図的に武人達と関わった事がバレればお父さんはきっと私を軽蔑する。
今以上に関係が悪化する。
だけどそれさえ気付かれなければお父さんと話せる。親子として会話が出来る。
そう思った。
だから私は武人達に何も言わなかった、関係を絶ったのだ。
何も言わなければあの状況で武人達が何を言った所で警察は信じない。仮に芳澤さんの方に捜査の手が回ってもあの人は何も言えない。いくらあの人が天真爛漫でもあれだけ大きな家の名前を背負っていたら誘拐事件の片棒を担いでいたなんて事は知られたくないはずだから。
瑠々はそんな汚い打算的な思考からあの場で沈黙という選択をした。
今思えばおかしな話である。
確かに明良はあの場に来た、キッカケは出来た。
だがそこから親子として仲良くなれるかどうかは別の問題である。振り向かせられるかも、関係を良くできるかどうかも、全てが不明瞭だった。だが今日まであれ程父親と喋った事のない瑠々はそこの冷静さを欠いた。都合の悪い可能性に無意識の内に蓋をしてたのだ。
時間が経った今、瑠々は気付いた。
そんな成功するかどうかも分からない事に賭けるよりも、自分を友達と言ってくれた人を助けるために口を開いた方が何倍も有意義だと。確かに処罰は受けるかもしれないが、瑠々の証言があれば武人達の処罰はかなり軽いものになっていたはずだ。
……私は、馬鹿だ。
少女は自分を罵倒した。そして、覚悟を決めた。自分の心を受け入れた。
だから、まずは……言えなくて後悔した事を言おう。もう、二度と自分を偽らないために、大切な人達に自分を知ってもらうために。
こんな私を、あんな事をした私を、まだダチと言ってくれる人のために。
「……違うんだ、武人」
「ん?」
「本当は迷ったんだ、あそこで。このまま黙って……お父さんの言う通りにするか、逆らって武人達を助けるか」
「マジで!?」
武人は驚いた様子で少しのけ反った。
「お父さん、今言った通り。この人達は私に協力してくれただけ、お父さんを振り向かせるために。だからこの人達は悪くない」
「瑠々……」
父はそう語る娘の目を見る。その目には確固たる意志があり、譲れない思いが滲み出ていた。
そしてその目は、今まで固く心を閉ざしていた胸の奥底にあるものを吐露させてしまう程のものだった。
「お前の行動は、到底許せるものじゃない……だが、一父親として娘が距離を縮めようとしてくれる事は嬉しい」
「お父さん……」
「だからこそ俺は一つお前に聞きたい。何がお前をそんなに突き動かしたんだ? 俺は自覚している。自分が親失格であると、碌にお前と関わりを持とうとしなかったんだからな。そんな俺に何でそこまでの好意を寄せているんだ?」
何度考えても分からなかった疑問、それを明良は遂に口に出した。
「確かに私はお父さんの事をあまり知らない。それなのに好きって言われても不思議に思うかも知れない。でも……」
言え……前に進むんだ私。
「そんなの……関係ない!」
「っ!?」
突然の大声の明良は目を見開いた。
「私はお父さんの娘、御代瑠々。今から言いたい事を言います」
瑠々は狭い車内で宣言した。
「一つ目、私をここまで育ててくれてありがとう。お父さんが働いてくれるから私は美味しい食事が出来るし今日まで大きくなりました! 二つ目、私に嘘を吐いてくれてありがとう。お母さんの事、私を悲しませないために嘘を吐いて……私を傷つけないように気遣ってくれて……!」
気付けば瑠々は涙を流していた。
だが、ここで言葉を止める訳にはいかない。最後の一つを少女は言わなければならなかった。
「三つ目……お母さんの事は良く分からないけど、それでも愛されてた事は分かる。心が……覚えてる。そんなお母さんとお父さんの間に生まれた私は……幸せだよ」
言った。父と仲良くなるよりもまず伝えたかった事を。
「……」
明良は知った。娘が自分をどう思っているのか。しかし、明良それでもなお踏み出せずにいた。自分の無力により瑠々の母であり自分の妻を植物状態にした、罪悪感から来る思いが彼の足に絡みつく。
自分には資格が無い、その考えがこの十数年間彼の心に在り続けているのだ。
「おい、瑠々のオヤジ」
そんな彼に言葉を掛けたのは娘の瑠々ではなく武人だった。
「てめぇがどんな思いでいるか、そんなの俺は知らねぇ。だがよ、てめぇのガキがこんだけ自分の意思を見せたんだ。覚悟から来た意思には応える、それが筋ってもんだぜ」
俺の……意思。そうだ、瑠々がこれだけ俺に思いを告げている。それに俺は、何も応えないつもりか……?
有り得ない。
自分の娘が、覚悟を以て向き合ったのだ。
ここで背を向ければ、俺は本当の意味で瑠々の父親では無くなってしまう……!!
青年から乱暴に背中を押された壮年期の男は覚悟を決めた。
「瑠々……俺は、本当は何も無いんだ。だから何も出来なかった。多くのものがこの手から抜け落ちていった……そして母さんも。家に帰ったら、全て本当の事を話す。今までの俺の事を全部。だから、こんな事を言えた口じゃないが……」
少しばかり言うのを躊躇った後に明良は初めて娘に対し父親のような表情を向ける。
「これから、俺にやり直すチャンスをくれないか?」
「あ……」
遂に願いが叶った。その事実に瑠々は一瞬硬直した。
「……っうん!」
だがその後すぐに、年相応の笑顔を見せた。
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