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戦いの余韻

 武人の推測通り外での戦闘は既に終焉を迎えていた。


「う、そ……だろ。こんな……一人に……」

「強……過ぎる……何だ、こいつ……」

 

 一人に襲い掛かった多人数の暴漢は全員が等しく倒れ伏し呻いていた。

 総じて全員が弱かったという訳ではない。アウトローな彼らは特殊な普通では得れない経験を積み戦闘力は高い方だ。

 だが余りにも、男達が挑んだ美少年が強過ぎた。


「安心しろ。全員急所は外している、それでも一週間はまともに動けないだろうが……これに懲りたら、二度とこの町に来るな」


 優佳のその声には明確な意思が込められていた。

 今日は見逃してやる、だが次仕掛けてくれば殺す。

 その意思はその場に倒れている彼ら全員に伝播した。

 成宮優佳、家は由緒ある武家であり代々伝わる剣の流派、心我砕流の正統後継者である。

 歴代の中でも彼は特に剣技の才能が他の追随を許さぬ程開花した。

 以降は更なる高みを求め単身で防守学園に入学し武人達と出会い今に至る。

 今回使用したのは警棒だが先の持てる棒状の物ならばどんなものでも刀を扱う要領で器用に使いこなすため戦闘には何の支障も無かった。


「武人は問題ないだろう。昌義も……」


 そう言いながら優佳は振り返り彼が戦闘を開始した場所を見る。目に映った光景は既に勝敗が決していた。


「ふぃー……。疲れた」


 顔から滲み出る汗を手の甲で拭き取りながら昌義は呟く。


「くっ……、強いね……君」

「まぁこれでも資産家のボディガードしてるからな」


 四人の中で唯一正式な護衛人である彼は両手に持っていた銃を腰のホルスターに戻して身なりを整えた。

 頼紋昌義、CQGC(近接格闘銃術)の使い手であり両手に銃を持ちゼロ距離で発砲しながら格闘戦を行うという少し特殊な戦法を得意とする。

 この戦法は代々継承されたものではない。

 芳澤家の側近としてその名を知られる頼紋家は護衛の役割を担う人間が最も向いている理想の戦闘方法を厳しい訓練や肉体調査で決定するため、頼紋家の当主の戦闘スタイルはその代によって異なる。


「足に一発、腕に二発、上半身に打撃十発、流石に動けないだろ。俺の勝ちだ」

「ふ……はぁ……甘いね。殺さないなんて……」

「幾らボディガードでも事態が切迫してない限り殺さねぇよ。俺もあんま殺したくないしな。それに、生殺与奪の権利を握られている奴が殺さないのかなんて生意気な事聞くな」

「っ……」


 言われたミケは苦渋に満ちた顔をする。


「それにしてもお前の戦い方……猫みたいに動いて翻弄しながら戦う戦法みたいだったが、動きに無駄が多かったぜ。あれじゃあ普通に戦った方がまだ勝ち目があった」


 戦いの最中、昌義はその違和感に気付いた。

 自身に最も向いている戦闘スタイルを追求し解を得た彼は相手が戦闘スタイルに引っ張られていないか、その戦法が相手にとっての理想形であるか判別出来る。

 昌義の観察眼は自分が対峙した敵は不向きな戦闘スタイルを用いていたと判断した。


「……」


 彼の指摘にミケは少しバツの悪そうな表情をする。


「その通りだ。君は正しいよ……僕にこの戦い方は向いてない……でも、向いていないとしても、僕は……しなきゃいけなかった。隣に並び立つ相棒として……失望されないように……」

「よく分からないが難儀なもんだな。お前の事情は知らないが……これだけは言える。そうやって無理して並び立とうとしてる時点で、そんなの相棒でも何でも無い。俺はそれを友達って関係を通してこの一年、ある馬鹿から学んだ。そいつはこう言ったよ。『対等って関係は力が釣り合う事を言うんじゃねぇ。一緒に居て楽しいって事だ』ってな。そこは友達も相棒にもどっちにも言えると、俺は思うぜ」

「一緒に居て……楽しい……」


 言われた言葉を復唱するようにミケは口にした。


 ミケとタマが出会ったのは三年前である。

 当時から闇家業に手を染めていた彼らは数奇な巡り合わせによって出会い、共に仕事を行った。

 その際意気投合しそれ以降は互いを相棒として金のために数々の窃盗や人殺しを遂行していったのだ。

 だが数年で、ミケは自覚した。自分はタマに釣り合っていない人間だと。

 猫殺スタイルから来る彼の戦闘力は群を抜いており、凡人の自分が関わっている事が烏滸がましい事であると。

 圧倒的な劣等感を彼は感じた。

 だから戦闘面ではどうやっても乗り越えられない溝を埋めるためにタマの参謀のようなポジションを取るようになった。

 タマ自身頭を使う事があまり得意では無かった事もありミケの戦い以外の助言や、教えを快く受け入れた。

 相棒でいられるようにという純粋な思いと、自分の劣等感を隠すといういやらしい思いがミケの心の中で常に葛藤を続けている。

 しかし昌義の、昌義が借りた『馬鹿』の言葉によりその心の糸の絡まりが少しずつほぐれていく。


 タマは……どうかな、一緒に居て楽しいかな……聞くの怖いなぁ。

 でも……少なくとも……僕は……。

 一つの自問、タマと一緒に居る事が楽しいかどうか。

 その答えはミケにとって明白だった。

 楽しくない……訳が、無いよ。


「おー昌義、勝ったか」


 直後、倉庫から戦いを制した武人が出て来た。


「当ったり前だろ。そう簡単に俺は負けねぇよ。お前も勝ったみたいだな」

「おう!久々に面白い戦い方する奴で結構興奮しちまったぜ……ん?」

「どうした?」


 武人の不思議そうな表情に昌義は疑問を抱く。


「いや、倒れてるそいつ……笑ってねぇか?」


 言われて昌義も自分が倒したミケに目をやる。どうやら武人と話したこの数秒の内に気絶してしまったらしい。

 武人が言っているようにミケは笑っていた。それも、とても安らかな表情で。


「はは。憑き物でも落ちたんじゃないか。どっかの馬鹿のお陰で」

「?」


 昌義の言葉に武人は自身の頭上にはてなマークを浮かべた。 


「武人、昌義!」


 集まった二人の元に時を同じくして十数メートル先での戦闘を終えた優佳が合流する。


「よっしゃあ全員無事だな。じゃあさっさと車に戻ろうぜ」

「同感だ。栄治の誤魔化しも何時まで保つか心配だしな」

「そうだな。一刻も早く戻った方がいいだろう」


 こうして相馬の指示通り各々の役割を全うした武人、昌義、優佳の三人は瑠々達が待つ車へと一直線に向かった。

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