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男の過去 その6

『一先ず龍玄様の隠れ家の一つに向かいます。あそこなら十分な治療設備もある。交通規則を多少無視するので十五分で着きます』

『そう、ですか』


 行き先を聞いた俺はそう返す事しか出来なかった。

 肉体的な疲労から……ではない。言うなれば精神的な疲労、流華が助かるかどうかの瀬戸際である状況で俺の精神は過去最高と言っていい程不安定なものになっていた。

 返事をした後、間島さんも間島二号さんも何も言わなかった。

 聞こえる音は、車の駆動音と外から微かに聞こえる町の喧騒のようなもの。

 そんな音がますます心をざわつかせた。

 不安だ、不安なのだ。


『瑠々は……助かりますか?』


 気付けば俺はそれを声に出していた。

 状況から見て流華が刺されたのは俺が到着するほんの二、三分前。そこから間島さんと一緒に車まで来るのに大体十分。そして今から行く目的の場所まで十五分だ。

 約三十分、流華が刺されてから治療場所に運ばれるまでに経過する時間。 

 流華は決して体が弱い訳では無いが強い訳でも無い。

 だがまだ出産してから一か月と一週間しか経っていない。体の状態で言えば「弱い」だろう。そういった事が作用した場合無事助かる確率はどの程度なのか。

 最悪の場合を考えた俺は、思わず嘔吐しそうになった。

 流華が死ぬ。

 もしそうなった場合、不幸になるのは俺だけではない。

 瑠々だ、俺と流華の娘が。あの子が悲しむ。

 あの子に、母親が死んだなんて言いたくない。悲しい思いをさせたくはなかった。


『……私は医療の専門知識はあまりありません。ですから正確な事は言えませんが、今までの経験則から言って五分五分と言ったところでしょうか』

『五分……』


 間島さんが口にした数字、少なくは無いが多い事も無い。

 他の事に対しての確率なら決して悪い数字ではない。

 だが事命の生存確率においての数字ならば話は違う。今の俺には五十パーセントがゼロパーセントのようにさえ感じる。


 早く、着いてくれ……!!


 今の俺に出来る事は車が一刻も早く隠れ家に到着するよう祈るだけだった。



『大丈夫ですか龍路様』

『あぁ。大分目も……元に戻ったよ』


 目元を擦り徐々に視力の回復を促す。


『それにしても、失敗だったなぁ』


 すぐに切り捨てられるよう確保役を三下にも満たない軟弱な使用人に任せてしまった事を僕は後悔した。


『やっぱり君達のような有能な道具に頼むべきだったよ』


 使用人にも格がある。その中でも最も格が高く重宝されているのは命の危険を直接守るという、ボディガードだ。この道具を僕は凡庸な使用人よりも高く評価している。

 今回は普段僕の護衛をしているコレに妻と娘の護衛を任せていたのが確保出来なかった最大の要因だろう。


『追跡はどうしますか?』

『それは警察に任せよう。奴らを斎条家から切り離すという最大の目的は果たせたしね』


 今例の部屋に警察が入っており現場の確認や居合せた人間の証言を集めている。

 あそこにあるのは流華の血で汚れた床と一真君の指紋が付着しているナイフ、そして居るのは命運が僕の手の中にある使用人の証言者三名だ。

 あの状況で逃亡という選択肢は例えやっていなくても自分がやりましたと吐いているようなもの。利は圧倒的に僕にある。 

 それに……先程のやり取りで斎条家に近付く事は決してしないだろう。戻ってくれば始末される事は分かっているだろうからね。

 最悪の父親は死に、曰くつきの娘はその夫と共にこの家から排除出来た。


『だけど……』


 僕には二つ疑問があった。

 一つは、何故部屋に入ったあの時流華がまだ生きていたのかという事、二つ目はあの場に既に瑠々が居なかった事だった。 


 アレならやってくれると思ったんだが……裏切ったな。


 あの場でまだ流華に息があった事はまだ偶然で片が付く。だが瑠々が居ないのは間違いなく、偶然ではなく人為的なものだ。ここから分かることは……。


『裏切ったな……』


 使い潰すだけの存在の癖に無駄に動いてくれて困るなぁ。


 ……まぁ、流華はあの出血量だ。最善を尽くしても生きている方が難しい、良くて目を覚まさない状態、最早死人だ。そして仮に生きていたとして警察に駆け込もうが、こちらが圧力を掛け流華の証言を揉み消せばいい。

 既に部下を何人か警察内部に潜らせている、だから追跡も必要ないのだ。警察名義で追跡は行われている。警察に任せるとはつまりそういう事だ。


 今奴らは斎条家の後ろ盾が無い状態。あの邪魔者たちの口座も抑えた事で大した金は使えないはず。

 隠れながら生きるにもいずれ限界が来る。

 じっとしていても見つかる。

 人脈を頼りにしても跡を辿られ見つかる。

 どちらにしても追い詰める事が出来る。策は万全だ。

 多少のイレギュラーはあったが概ね人も、計画も、全てが僕の思った通りに動いてくれている。

 この時点で、僕はほぼ計画の成功を確信した。 

 そしてその確信は僕の口元を緩ませる。


『龍路様、はしたない顔になっています』

『はは、ごめんごめん』


 僕は口を引き締めた。これからの、何一つ不純物の無い名家としての誇りと活動に思いを馳せながら。

ここまで読んでいただきありがとうございます!!

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