男の過去 その4
ようやく今日の業務が終わった。
束の間の休息を経て、残りの業務を片付けた俺は思わず溜息を吐いた。
『思ったより江田社長との会食が厄介だったとは……』
『あの方は酔うとタガが外れますからね』
仕方ないですよ、と間島さんは笑った。
『まさか全裸で踊り始めるとはなぁ』
『あれには驚きましたねぇ』
あれだけベロンベロンに酔った人間と絡むのはもう出来るだけ避けたい。
俺は心からそう思った。
『何はともあれ本日もお疲れ様です。一真様』
『こちらこそ、ありがとうございます』
俺たちは互いに労いの言葉を交わしす。
『ん?』
突然のポケットからの振動に反応した俺はポケットに手を突っ込んだ。振動の発生源は俺の携帯電話だった。
『何だ?』
この斎条家の人間として各方面に日夜走り回ってる俺にとってこの時間に電話が掛かってくるのは日常茶飯事になっていた。
だが今回のこの電話は、何か……嫌な予感がした。
『一真様』
『何ですか?』
連絡してきたのは斎条家の使用人であった。使用人が俺の携帯に掛けて来たという事は相当に何か大きな問題が発生したのだ。
『……お爺様が、龍玄様が……先程お亡くなりになりました』
『なっ……!?』
俺は思わず息を呑んだ。
斎条龍玄が……流華の父親が……死んだ?
『分かりました……着いたらすぐに龍玄さんの元へ向かいます。準備をお願い出来ますか?』
『承知しました。では、また』
そう言うと使用人は電話を切った。
『龍玄様が、亡くなられたのですか?』
電話を終えたのを確認した間島さんが真剣な顔をする。
『はい……』
俺の肯定の言葉に間島さんは一層顔が強張った。何か、覚悟を決めたような顔だった。
何時かは来ると分かっていた。
結局、俺は斎条龍玄に会えないまま終わっていた。流華と結婚した時も彼は俺たちの目の前に現れる事は無かった。自分の愛人との隠し子が結婚した事がそれ程までバツが悪く感じたのかは知らないが俺の中では近しい身内が死んだというよりは遠い親戚が死んだような感覚だ。
『そうだ、流華に連絡しないと!』
俺は手に持ったままの携帯で流華に電話を掛けた。
『もしもし流華か!?』
『うん』
『その……聞いた、よな?』
『うん……聞いたよ』
『……、大丈夫か?』
恐る恐る聞く。俺とは違い複雑であれ流華の父親なのだ。何か精神状態が不安定になっているのではと思っての質問だった。
『大丈夫だよ一真、心配し過ぎ』
若干笑いながら流華は言った。
『そ、そうか。ごめん』
『いいよ、謝らなくて。そうだ、お父さんの所に行っている間は間島二号さんに瑠々を預ける事になったからそこは心配しないで』
『分かった。間島二号さんなら俺も安心だ、後五分くらいでそっちに戻るから準備だけはしておいて。』
『うん。待ってる』
流華の了承を得た俺は電話を切った。
現実感が持てて無いのは、俺の方か。
電話越しから流華の様子が変わらない事を知った俺は何か申し訳ない気持ちになった。
しっかりしろ、流華の父親と関係の薄い俺がこんなに動揺しててどうする? 妻の流華があれなのに俺がこんなじゃ面目が保てない。
平静さを取り戻そうと左手で頬を叩いた。
左頬に走った痛みが俺の動揺と緊張を少しだが無理やり緩和させる。
一刻も早く流華に会いたい、そんな思いを胸に俺は送迎の車に揺られ続けた。
『お帰りなさいませ』
『急いで支度します。流華は?』
『部屋で支度なさっているはずです』
『分かりました』
斎条家の屋敷に着いた俺を出迎えてくれた使用人に対し口早に言うと俺は走って流華の元へ向かった。
今回赴かねばならないのは俺だけではない、実娘である流華も含め斎条の血統の者は今後の話をするために当然赴かねばならない。
一刻も早く流華の様子を確認したい。彼女が精神的に不安定になっているならば彼女を癒してあげたい。
一歩、一歩と目的の部屋へ近づく度にその思いが強くなる。
そうして目的の扉の前まで来た。一呼吸を入れた後その取っ手に手を掛け扉を開けた。
『流華……!!』
俺の第一声、心配が声量を上げ彼女名前を叫んだが。
『…………え?』
目の前に広がっていた光景は、どの想像とも異なっていた。
『流……華?』
何だ……これ?
ベッドがある。
棚がある。
ソファがある。
テーブルがある。
テレビがある。
…………血だらけで倒れている人が居る。
空いた窓から吹き抜ける風が、俺に血液独特の匂いを意図せず運んできた。
『はぁ……はぁ……』
若干過呼吸になりながらも俺は一歩、一歩と進みその人の元へと歩みを進めた。
その体格に見覚えがある。
『はぁ……はぁ……?』
その髪に見覚えがある。
『はぁ……はぁ……!!』
その服に見覚えがある。
『はぁ……はぁ……はぁ……!!』
何一つ思考が働かない。
いや……結論は出ている。だがそれを受け入れられない。
その人の元まで歩きしゃがみこむと顔が見えるように体を抱え上げた。
その顔を見た瞬間、現実を……出ていた結論を突き付けられた。
『あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!!!!!』
その人は……血だらけの人は……流華だった。
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