男の過去 その3
『流華』
屋敷へ戻り俺は最愛の人の元へ向かった。
『おかえり。今日は早かったね』
『いや、これからまた出るよ。それでも君と瑠々の顔を見たくてね。戻ってきた』
『ふふ、間島さんも大変ね。こんな忙しない人の付き人なんて。ねぇ間島二号さん?』
流華は室内に居るもう一人の人間である間島二号さんへ声を掛けた。
『いえ、我々の任務は流華様と瑠々様をお守りする事です。そこに煩わしさや不満感は一切ありません。それは一真様の護衛と秘書を担っている彼も同じです』
間島二号さん、本人がそう呼んでくれと言ったので俺も流華もそう呼んでいる。
間島さんの親戚なのかどうかは本人の口からも語られないが髪の色や顔、何よりも雰囲気が似ているので二号と言う言葉に俺たちは何故か納得してしまっていた。
『流華は楽しそうだな』
『え、そう?』
『うん、間島二号さんが就いてからね』
『あれ?もしかして……妬いてる?』
『そ、そんな事は無い』
嘘である、俺は妬いていた。だから意図せず不貞腐れたような言い方をしてしまった。
『流華様、あなたの家庭環境に自ら亀裂を入れるような物言いはお止めください』
間島二号さんが冷静さを全く崩す事なく言い放つ。
『分かってるでしょ?私が愛しているのは一真ただ一人なんだから、自信を持って・・・あの日一真の全部を私はもらった。だから私の全部は……一真のものなんだよ』
微笑む流華に俺は何も返す言葉が無かった。
あぁ、そうだ。何を小さい事を気にしているんだ俺は。
自信を持て、俺は流華の横に並べる人間になったんだと。
『ありがとう流華。お陰で何の心配も無くなった。気分が晴れ晴れしたよ』
『うん、それでこそ一真だよ』
『ノロケは終わりましたか』
俺と流華が二人で納得し合っている所に間島二号さんが入って来た。
『一真様、私は流華様も瑠々様もそう言った目では見ていません。今後私の恋愛対象になる可能性も皆無ですのでどうかご安心を』
『そ、そうですか。でも何かその言い方だと流華と瑠々に魅力が無いみたいで嫌ですね』
『面倒くさいですね』
あれ?今何か間島二号さん俺を罵倒した?
気のせいだろう、俺は何かの聞き間違いだと思う事にした。
……とりあえず改めてのケジメをしよう。
『間島二号さん、これからも妻と子をよろしくお願いします』
そう言って頭を下げた。
『顔をお上げ下さい。自分は一真様に頭を下げられる程大した人間ではありません』
『いや、妻と子の命を危険から守って頂くんです。これくらいは当然です……それに、先程あなたに流華の事で少し嫉妬してしまいました。主の夫として従者にそんな情けない姿を見せてしまった謝罪も含めて頭を下げています』
『そうですか、まぁさっき流華様に更に女々しい事を言っていたら主としてこれはちょっとと思いましたが安心しました。これでお互い蟠り無く過ごせますね』
『やっぱり間島二号さんちょっと口悪いですよね!?』
『ふふふ、二人共すっかり仲直りね』
流華は俺と間島二号さんのやり取りを笑いながら見ていた。
十分後、話題はすっかり変わって俺と流華の愛娘の事になっていた。そして、俺がもう仕事に戻らなければならないのでその会話も終わりに向かう。
『瑠々は歩けるようになったか?』
『歩るも何もまだハイハイも出来ないですぅ』
興奮気味に迫る俺に、流華は今度は呆れたように喋る。
幸せだ、全てが俺の思い描く理想の未来に向かっている。
最近は、屋敷内で流華を見る目が変わってきている。
皆快く流華に挨拶をしてくれているし、流華の屋敷内での会話も目に見えて増えている。
このまま変革を進めて、いずれは流華が屋敷の何処でも心から笑える、そんな風に斎条家がなるように、俺はこれからも生きていこう。
『じゃあそろそろ行くよ』
約十分、限られた時間家族水入らずで会話を楽しんだ俺はそう言い残すと部屋を後にしようとした。
『一真』
だが部屋のドアに手を掛けたところで俺は流華に声を掛けられた。
『ん?』
呼び止められた俺は振り返り彼女を見る。
『頑張ってね』
笑顔で放たれた言葉。
『あぁ!』
俺もそれに、笑顔で返した。
◇
『中々、堪えます。あぁも頭を下げられて「お願いします」と言われるのは』
『間島二号さん』
『はい』
『……瑠々の事、お願いします』
『……承知しました。それが、主であるあなたの命ならば』
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