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多VS一

「あ?」

「っ!?」


 明らかに武人達に向かい放たれたその大声に武人と瑠々はそれぞれ反応を示す。


「いやいやいやいや、アイツぜってぇ違う奴と勘違いしてるわ」

「いやハッキリ私の名前言っただろ」

 確かに武人の言う通り、二人は今興花から渡されたパーティグッズを被っている。しかし十数メートル先に現れた黒スーツを纏った男は少女の方を瑠々と断定しあまつさえ一緒に居る武人を誘拐犯と言った。


「待て!!落ち着いて話し合おう!!話せば分かる!!」

「いや……それは無理みたいだぞ武人」


 瑠々の声に武人は周囲を見渡す。すると物陰や様々な場所から総勢十人の黒スーツが現

れ武人達を包囲していた。


「瑠々様」


 その中の一人が瑠々の名前を呼び一歩前に出た。


「あいつは……」

「知ってんのか?」


 武人の言葉に瑠々は頷く。


「あぁ。今日私の担当だった登下校付き添いのボディーガードだ。名前は確か横田」


 武人と瑠々がヒソヒソと話をしていると横田と呼ばれたボディーガードは瑠々達に聞こえる声で喋り始めた。


「そこまでだ誘拐犯、瑠々様を解放しろ。抵抗などと無駄な事は考えるなよ?お前が行動を起こした瞬間、我々はお前に容赦はしない」

「お、おい。何か俺悪者になってねぇか?」


 武人は瑠々に恐る恐る聞いた。


「そりゃあ端から見れば、今のお前は追い詰められた誘拐犯だ」

「おいおいマジかよ……」


 武人は周囲を囲まれた状況を肉眼で確認しながら言った。


「さぁ、まずは瑠々様を放しこちらへ引き渡せ。処遇はそれから決める」

「……」


 瑠々は恐る恐る武人の方を向いた。しかし武人は沈黙し、動かず、まるで硬直しているようだった。

 その様子を見たからなのか、やがて武人と瑠々を囲む円陣形は徐々に狭まり中心に居る彼らとの距離を近づけていった。


「お、おい武人?」


 それに気付いた瑠々は武人の服を引っ張り武人を動かそうとする。


「……」


 しかし武人は動かない。まるで固まったように足が地面から一ミリもズレない。

 そして遂に中心に居る武人達と周囲を囲むボディーガード達の距離が十メートルを切った時、瑠々は覚悟を決めた。

 このままでは武人は捕まってしまう。自分が弁明すれば武人達は助かるかもしれない。

 友人が捕まる……それは初めて友達を作った瑠々にとってとても看過できる状況ではないのだ。例えこの家出が一世一代の決心によるものだとしても、その決心を捻じ曲げてでも瑠々は武人を守りたかった。

 弁解する事を決めた瑠々、彼女はすぐに口を開こうとした。その時である。


「瑠々、何も喋んな。んでもって一歩も動くんじゃねぇぞ」


 今まで沈黙と不動を貫いてきた武人が瑠々にだけ聞こえるような声で言った。


 どういう事だろう。


 瑠々がそう思い思考しようとする矢先、武人が動いた。瑠々の視界とは逆方向、後方へと走り出した。

 武人はほぼ一瞬にして十メートル無い距離を詰めるとそこに居たボディーガードの一人の胸倉と腹部を掴むと成人男性の体重をものともせず軽々と持ち上げた。


「どりゃぁ!!」


 そしてそんな掛け声と共に持ち上げた男を投げ飛ばしたのだ。


「おおおお!!??」


 投げ飛ばされた男は瑠々の頭上を難なく通過するとその前方に居たボディーガードの一人に抵抗の術も無く激突した。


「っらあぁ!!」


 あまりにも突然に行われた迫力のある画に一部のボディーガードは僅かな時間だが茫然と立ち尽くした。

 武人はその隙を見逃さず、すぐさま自身の近くに居た男に回し蹴りをした。すると男は呆気なくその場に倒れた。

 その男を含め瑠々の後方部に位置する箇所に居るボディーガードは五名、意識のあるボディガードは残り四名である。


「は、はyぐぼぁ!!!」


 次いで武人は跳躍し他のボディーガードとの距離を再び詰めると今度は男を一人殴り飛ばした。

 こうしてまた一人訳も分からぬまま気絶した。


「ぐあぁっ……!?」


 次いで武人は跳躍し右に飛ぶとそのまま左の拳を飛んだ先に居た男の胸部に叩き込む。

 瑠々を保護すべく男たちに許されたのは武人が自分を狙わず他のボディーガードを狙う刹那の時間。彼らは武人のスピードに驚く事しか出来なかった。

 しかしその最中、横田はただ一人武人の奇妙な行動に疑問を抱いていた。

 挙動や拳の打ち込みはめちゃくちゃ、しかしそれでもその破天荒な動きに後方部に居たボディーガードは全員為す術無く倒れ伏した。

 あの男、間違いない。奴は瑠々様を傷つける気が無い……。でなければ瑠々様を人質に取っているにも関わらずその利を利用せず相手に向かっていったりなどしないはずだ。

 思考、そして結論が決まった横田はすぐさま行動を起こした。


「急いでお嬢様を確保しろ!!!」


 武人の行った数秒の行為によって横田は激昂し即座に意識ある部下のボディーガード全員に指示を下した。

 奴が何の目的で動いていようがそんな事はどうでもいい、今重要なのはこちらが瑠々様を護る事だ!!

 横田の声を聴いて瑠々の前方に居る残り全員のボディーガードは一斉に対象を保護すべく行動を開始した。


「させっかよぉ!!」


 武人もまた瑠々に向かって走り出した。


「何だあいつ……!!」


 先に動いたボディーガードの一人は思わずそう言葉を漏らした。

 理由は単純、先に動いた横田達よりも後から動いた武人の方が瑠々へと接近する速度が早かったのだ。


「とぉりゃあぁ!!」


 武人は瑠々の横を風を切って過ぎ去るとそのままほぼ正面に位置する男へ向かい勢いの良いドロップキックを放った。


「ぐほおぉぉ!!?」


 それを腹部に直撃で食らった男は後方へと吹き飛ばされ起き上がる事は無かった。

 これで残りのボディーガードは三名、だが現状を俯瞰してみると明らかに間に合わない。

 瑠々を確保されてしまえば武人は相手のボディーガードを攻撃する事が出来ない。

 それは自分の動きやそれに付随する戦闘によって瑠々を傷つけてしまう可能性が高いからである。


「くそっ!!」


 悪態を吐きながら武人はすぐさま行動を起こした。


「なっ!?」


 武人は地面にヒビを入れるほど力み姿勢を低くしたまま跳躍するとボディガードの足首を掴んだ。


「もっかいだぁ!!」


 そう叫ぶと武人は両手で男の足を持つと瑠々に近づきつつある男二人に向かって投げ飛ばした。


「横田さん頼みます!!」


 横田の部下はそう言うと横田の背中を押すと自分だけが武人から投げつけられたボディガードの餌食になった。


「やべぇ!!?」


 武人は部下の男の行動を目視した瞬間瑠々の方へと走り出していた。


 ダメだ間に合わねぇ……!!


 走りながら武人はそう直感した。

 元々瑠々との物理的距離は遠くはない。走れば数秒も掛からない。

 しかし、それでは横田より早く瑠々の元へ辿り着くことが出来ない。このままでは僅差で横田の方が武人よりも早く瑠々を確保してしまう。


 何かねぇか、何か……!!!!!


 差を埋める方法を武人は微小な時間で考えた。

 だが元々大した学の無い武人にそのような僅かな時間で何か考えが思いつくはずも無い。

 しかしもし、何か思いついたとしたらそれは


「らぁ!!!」


 直感だろう。


 日本国内で最も危険な区域、不良特区。そこでの血生臭さと生死が隣り合わせの生活に加え武人がアネゴと慕う人物から得た経験と蓄積。

 それらが与えるのは教養ではなく紛れもなく洗練された第六感。

 頭で思考した先に辿り着く答えではない。

 肌で感じ、耳と目で享受する。

 そうして得られたものが、得られた答えが、武人にとっての最適解である。

 武人は自身の被っていた馬のマスクを素早く取り外すとそれを走り様に投げるように振りかぶった。

 それに届かなかった距離は補正され横田の頭部に勢いよく武人の馬のマスクが綺麗に嵌まった。


「なんだっ!?」


 突然視界が不調になり密閉された感覚に襲われた横田、瑠々の保護に成功する事をほぼ確信していた彼からすればその唐突な出来事は彼を十分に動揺させるに至った。


「よぉっとぉ!!」

 未だマスクの後頭部下部を持っていた武人はそのままマスクを引っ張り横田を自分の方へと引き寄せると頭部の左側を殴りつけた。

 そして横田はその場に倒れ立っているのは武人と瑠々の二人のみになった。


「くそっ大分周りの奴らを注目させちまった。ズラかるぞ瑠々!」


 武人はそう言うと瑠々を片腕で持ち上げその場を一目散に離れた。


「……」


 片腕で抱えられている瑠々は頭部が武人の背中側になっておりその目で後ろの光景を視

認する事が出来た。

 瑠々を保護するという名目で来た横田含めるボディガード十名、その全員が力無く倒れ

伏している光景がそこには広がっていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!!

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