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疑念と不安

「俺たちも、行こう」

 

 そう言って相馬も武人たちの後を追おうとした。しかしそれは興花によって止められた。


「待って相馬。その必要はないわ」

「どういう、事ですか?」


 相馬は振り返り興花の真意を確かめるように彼女の表情を伺った。

 そうするのにも理由がある。

 伊尾相馬、そして覇原武人。この二人は数か月前興花の好奇心から起こした行動によって危険な目に合わされたのだ。だからこそ二人は芳澤興花という人間に対して他の一般人と違い恐怖心にも似た何かを抱いている。

 質が悪いのは芳澤興花という人間は一切の悪意を持たないという事だ。起こす全ての行動に悪意はなく、好奇心や自分の本能のままに動く。この点に関しては武人に似ているが興花はそれだけでなく底知れない何かを持っているため先に述べたように武人ですらたまに警戒する時がある。

 相馬と武人が興花に協力を求めるといった話になった時、あまり乗り気じゃなかったの

はこれが理由である。


「武人と瑠々ちゃんならきっと気にしなくて大丈夫よ。ここに来てから捜索隊の人間の姿を見てないし、瑠々ちゃんの顔はマスクで分からないし、それに武人が一緒に居れば大丈夫でしょ?」


 なるほど、確かにそう言われればそうかもしれない。だが……、


 相馬は興花の口から発された言葉を一語一句聞き逃さす脳内で吟味する。そして約二秒にも満たない思考時間の中、口を開いた。


「『きっと』、ですか。ここで僅かな可能性に目を瞑るというのは俺たちにとっても御代嬢様にとってもゲームオーバーを意味しますが、それを分かってて言っているんですか?」

「ええ!」


 興花は即答した。昌義はその即答っぷりにやれやれと言った風に頭を押さえ優佳は相馬と興花のやり取りに困惑した表情を浮かべていた。


「瑠々ちゃんに車内で渡した携帯に連絡を入れれば武人と一緒にトイレを出る事が出来るし見つかる可能性は極僅かよ?それよりも私は早くあれに乗りたいわ!武人と瑠々ちゃんが抜けちゃったからその穴を埋める意味でも相馬には一緒に居て楽しんでもらうわよ!」


 底なしの笑顔で、一片の悪意も感じさせずに興花はそう言い放つ。

 何処まで自分勝手で、傲慢なのか。それが原因だろう。伊尾相馬という男の心中に少しばかりの苛立ちからくる怒りが込み上げた。

 だが相馬のそれを相馬自身よりも早く察したのは彼の目の前に居る興花であった。


「もし一緒に来てくれないなら、この事バラしちゃおうかしら♪」


 それが、決定打になった。相馬の内に込み上げていたものは一瞬にして何処かへ消え去り、次の瞬間には


「よっし、行くぞ皆!」


 誰よりも率先して興花の指さしたアトラクションに向けて足を動かした。


「そーこなくっちゃ!」


 相馬のすぐ後を追う興花。その彼女に当然と言った風に付いていく昌義。ただ一人、相馬たちを追いながらも武人たちの行った方を振り返ったのは優佳であった。



 午後八時四十分


「ふぃー」


 便器へと腰を落とし出す物を出す武人、異物が排出される快楽に浸っていたところを邪魔したのはポケットに入っていた携帯だった。


「ん?」

 着信音に気付いた武人は携帯を取り出た。来ていたのは連絡アプリとして絶大な普及をしているLINNであった。武人はLINNの文面を確認した。


「何だ相馬か」


 LINNの差出人は相馬である。そしてこう書かれていた。


『武人へ。

 トイレから出たら入り口前で待機する事。そして御代嬢様に連絡、トイレから出てもいいと連絡を入れる事。御代嬢様の番号をお前の携帯に登録しておいた。御代嬢様にはこっちで既に連絡してある。お前は書いてある通りに行動しろ』

「へーい。やっぱ相馬の指示は淡々としてっから分かりやすくて助かるぜ。とりあえずさっさと出し切ってこっから出るか」


 武人が相馬と知り合って一年。その間で武人は相馬の事を深く知った。だからこそ相馬の言葉にも指示にも素直に従うことに躊躇が無かった。


「えーっと、あったこれだな。ってかぜってぇ相馬に登録されたな。ぷらいべーっとって言葉知らねぇのかアイツ」


 武人は自身のLINNの連絡先一覧を見ると瑠々のものであろうアカウントを見つけた。相馬にハッキングされるのは日常茶飯事のため、今更武人は大して気にしなかった。


「『出てこい』っと」


 そう短い文章を瑠々に送る。瞬く間に既読が付きそして


『無理』


 そう返事が来た。


「『早く出ろ』っと」


 返事が来た瞬間武人は瞬く間にそう送信した。


『無理』


 二度目のレスポンスも一度目と同様だった。

 

 ……。


 武人は思考した。

 相馬が既に連絡しているという事は捜索隊に発見されトイレに侵入、確保され捜索隊の人間が返事を打っているという事は考えにくい。そして単純な文章の連投。


 導き出される結論は……。


 武人は思考の海に沈み解を攫おうと試みる。


 ダメだ、足りねぇ……。どうして瑠々がトイレから出れないのか、ションベンではないのか……っ!?

 ふと浮かんだ可能性、そして先程自身が打った『出ろ』という単語が武人の中で宇宙的概念の束縛を逸脱し解を帰結させた。


「はっ、なるほどな……『出ろ』じゃない『出たくても出せない』のか!!」


 得た答え。それに武人は納得し言葉を吐いた。

 そしてそれを瑠々宛ての返事に文字起こしした。


『うんこが出ないのか』

『死ね』


 先程よりも尋常ではない程の速度で文字が送られてきた。



 トイレの前で待っていた武人は最早マスクを装着していなかった。

 瑠々の顔さえ隠れていれば自分たちの顔が出ていても問題ないだろうというのが二割、もう一つはマスクで仲が蒸れてあまりマスクを着けていたくないというのが八割の理由を占めていた。


「なぁ瑠々、お前この一時間くらいで俺に対する態度変わり過ぎじゃね?」


 数分後、瑠々は女子トイレから姿を現した。結局大か小どちらだったのか、それは神のみぞ知るである。


「知らん、私は最初会った時から「あぁこいつはバカだな」って思ってた」

「うわ小学生容赦ねぇ!」

 武人が体を仰け反らせながらそう言うと被り物を被っている瑠々が籠った笑い声を上げた。それをしっかりと自身の耳で捉えた武人は安心したように言った。


「よーやく少し笑いやがったな」

「え……」

「『え』じゃねぇよ。お前ここ来てから一回も笑ってなかったろ」


 武人の言う通り、瑠々は施設に入ってから一回も笑っていなかった。被り物をしていたから笑い顔が見れなかったのではない、ただの一度も笑っていなかったのである。


「そ、それは」


 瑠々は何かを言いかけたがそれは言葉にならず口をまごまごとし、何やら言い辛い雰囲気を醸し出していた。


「へん、何だ?まさかお前自分のせいで俺たちが危険な状態になってるって事が悪いとでも感じてんのか?」

「う……」


 図星だった。まさか武人に言い当てられるとは思わなかった瑠々は思わずばつの悪そうな顔をした。


「お前なぁ。ンなくだらねぇ事でうじうじしてたのかよ」

「く、くだらないって、わ、私が家出なんてしなければってあたっ!?」


 瑠々が全てを言い終わる前に武人に頭を叩かれた。マスク越しでも痛いようだ。


「ったく、いいか?確かにおめぇのせいで俺らが迷惑してんのは確かだ」


 武人がそう言い切るとやっぱりといった表情で瑠々は暗い雰囲気を纏った。


「でもな、迷惑だからってその『迷惑』を俺らがどう感じるかは別だ」

「……?」

「俺も、優佳も、相馬も、昌義も、興花も、誰もお前の事を悪い奴だなんて思ってねぇし俺はお前の家出を悪い事だなんて思っちゃいねぇ。だからよ、今は全力で楽しもうぜ」


 武人は瑠々に向けて満面の笑顔を浮かべた。


「すごいな……武人は」

「何がだよ?」

「自分が危険な状況に居るのに、そうやって楽しめている事が」

「そりゃあダチのお陰だな」


 武人は即答した。


「また、ダチか。ダチはそんなに良いものなのか?」


 瑠々には友人と呼べる友人は居ないと自負していた。だから友人の存在がどれ程自分に影響を与えるのか、分からない。家族の事ばかり考えてきた彼女には難解な問題なのだ。


「だったら作ってみりゃいいだろ」


 武人はそう言って自分の拳を瑠々に向け突き出した。


「っ?」

「ダチの証だ。ここにおめぇの拳付けろ」

「わ、私はダチなんて要らない」


 瑠々は咄嗟に武人の提案を拒絶した。

 それは初めての経験だったから、相手側から友達になろうとしてくる人間が初めてだったからだ。人間誰しも初めての事は怖い、何が変わるのか、自分にどんな変化が訪れるのか、何も分からないのだ。


「怖いのか?ダチ作るのが」


 そんな瑠々の思考を察したのか、武人は口を開いた。

 瑠々は咄嗟に否定の言葉を吐こうとしたが、出来なかった。


「怖い……他人と繋がる事が、知らない人と繋がるのがどういうものなのか。私は知らないんだ」


 瑠々が発したのは嘘偽りない本音である。


 武人はバカだが、良い奴なのは分かる。でも……。


 どれだけ初めてのそれがハードルの低い、挑みやすいものだとしても、『初めて』は怖い、その事実は変わらなかった。

 そんな思考にしどろもどろしている瑠々を見た武人は「はぁ」、と溜息を吐いた。


「あのなぁ、もっと軽く考えろよ」

「だ、だって……」

「……さっき怖いかって聞いたけど変えるぜ。お前は気負ってるだけだ。それも周りに対してな。周りに迷惑掛けねぇか。てめぇの存在が周りを変えちまうんじゃねぇかってな」

「気負ってる、だけ?」


 武人の言葉に思わず瑠々は顔を上げた。


「おう!だからよ、そんな難しく考えんな。俺はお前とダチになりてぇ。瑠々、お前はどうだ?」

「わ、私は……」


 瑠々は手を伸ばした。しかし、まだ震えている。武人の拳に触れる事に、まだ一抹の不安がある。


「大事なのはな。自分が周りに迷惑を掛けるか考える事じゃねぇ。自分がそれをしてぇかどうかだ。それによ」


 武人は言葉を続けた。


「ダチってのは互いが迷惑掛け合うくれぇがちょうどいいんだよ」

「……っ」


 気付けば、瑠々の伸ばした手は拳を形成していた。そしてそれは、武人の伸ばした拳と合わさっていた。


「これで、ダチだな。俺たち」


 武人は瑠々の手が触れるのを感じながら言う。


「うん……」


 瑠々もまた、武人の拳を直接的に感じていた。

 ゴツゴツしていて、とても固い。まるで岩を触っている感じだ。


「よっし!じゃあさっさと優佳たちの所戻るか」


 武人はマスクを被りながら言った。

 今まで感じた事のない手の感触に戸惑いながらも惹きつけられていた瑠々だったが武人のその一言で現実に還った。


「あ、あぁ」


 瑠々がそう言って歩き出そうとしたその時だった。


「見つけたぞ!!瑠々様を返すんだ誘拐犯!!」


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