大切なものは
「おい、どこへ行く。」
「…敵を、殺しに行く。」
「戦争はもう終結した。」
「それでも、また、刻印持ちが現れる。だからこの国以外を全て滅ぼす。」
「馬鹿か?」
ヤマタドナは呆れている。
「今の我には出来る。」
「私が止めるから無理だ。」
「今の我はお前より強い。」
「…だったらやってみるか?」
十尾の尻尾を解放しようとする。だけど出ない。
「なんで…。」
ずっと部屋に引きこもっていたからだろうか。
突然、力が抜けていく。
ぺたりと座り込み、唖然としてしまう。
「…は?」
「おい、どうした?戦うんじゃないのか?」
「力が出ない…。」
「んな、馬鹿なことがあるか。油断させるつもりか?」
「いや、本当だって…。」
「ったく。…今ここでお前を殺しても文句言うなよ?」
「…。」
「私はお前が関係ない奴らも皆殺しにするなら、殺す。撤回するなら今だぜ。」
「…撤回は、しない。」
もう、いいんだ。
「…そうか、だったら死んでもらうわ。」
「さっさと殺してくれ。もう、いいよ…。」
(ったく、このままだとお前らのガキが敵になるからな、悪く思うなよ。クウコ、セレスティア。)
「魔装剣…。」
パシッ。
「悪いがこいつを殺すのは待ってくれ、今はどうしょうもなくいじけてるだけだ。」
ヤマタドナが魔法を使う瞬間に手を掴まれる。
「なんだ、お前は…?」
「誰こいつ…。」
目の前にいるのは我と瓜二つの少年。しかし髪はロングで着物のような物を着ている。
「俺はメイド・アマコ、こいつの別人格だ。」
「別人格…?」
「こいつはただアースランドが死んでどうでもいいっていじけてるだけだ。殺すことはない。」
本当に、我なのか…?
でも魔力はメイド・アマコと認知している。
「そうか。」
「ああ、だが万が一暴れられたら面倒だから俺が力を全て持っていった。今のこいつはセミの抜け殻だ。」
「そう…。」
「お前が立ち直ったら返してやるよ。」
「…。」
「とりあえず、風呂にはいれ。臭い。」
「って、痛い痛いどこ引っ張ってるんだ!!」
俺に耳を掴まれて風呂場へ連行される。
屋敷の皆は???となっている。
「あれは誰だ?」
「アマコらしいぜ。」
「そうか…。」
「ああ。」
無理やり風呂に入れられて綺麗になる。
少しだけ、気持ちが持ち直した気がする。
「スッキリしたか?」
「…少しだけ。」
「そうか、なら次は食事でも取るか。行くぞ。」
「お、おい。」
食堂に連れられて、勝手に注文される。
来たのはカツカレーと豚骨ラーメンとサラダとりんごジュース。
「なにか苦手なものなんてあったか?」
「全部、我の好みだよ…。」
こいつは我だから我の心なんて全て見透かされてるんだろうな。
「美味しい。」
「だろうな。」
無言で食べ進める。
どれもアースランド様と一緒に食べた記憶が蘇る。
(アマコちゃん、カツカレー好きなの?)
(はい、好きです。)
(そっか、よかった〜!)
(どうしてですか?)
(実は私が作ったの!)
(だからいつにも増して美味しいんですね。)
自然と涙が溢れてくる。
「アースランド様…。」
ポタポタと机に落ちていく。
「また、一緒にご飯食べたい…。」
「まだ、一緒に居たかった…。」
「ううっ。」
涙が止まらない…。
「私たちも気持ちは同じだよ。」
「ああ、アースランドが居なくなってぽっかりと穴が空いた気分だ、仕事が捗らん。」
「領主様、奥様…。」
奥様に抱きしめられる、アースランド様と似たニオイ。少し気持ちが楽になる。
「領主様はアースランド様の刻印についてどう思ってましたか…。」
「親としては最悪だと思った、子どもが親より先に死ぬなんて、してほしくない。だけど俺はこのステラ領の領主であり、騎士である。アースランドが死んでも俺はこの土地を守らなければならない。よくやったと褒めてやりたい気持ちと、お前とアースランドの子どもを見て爺さんになりたかった気持ちもある。」
「領主様は強い、ですね。」
我なんかよりずっと強い心の持ち主。
「…俺が折れればこの土地は負ける、どんな理由であろうともうアースランドはここにいない。悲しいけど前に進むしかないんだ。それが残された者の使命だ。」
「…。」
「お前も騎士なら自身の騎士道を貫け。アースランドも騎士だ、だから命をかけることを躊躇しない。」
「騎士道…。」
考えたこともなかった、ただひたすらにアースランド様を守って隣にいる。ただそれだけ。
「アマコ、お前の騎士道はなんだ?」
「…わからない。ただアースランド様の隣に居たかっただけだから。ただ、守る為強くなりたかった。でもアースランド様は死んでいなくなった。」
「大切な者を守る、それでいい。」
「でも、アースランド様は…。」
「お前の大切なものはアースランドだけか?」
領主様や奥様、メイドさんたちやルージェス。皆いる。
「…ううん、まだ、仲間がいる。」
「そうだ、そいつらを守るために強くなれ、強くあれ。それがお前の騎士道だ。」
「守るために、強くなる…。」
「アースランドはきっとお前がいつか立ち直ることを信じてる。だから負けるな。」
「…うん。」
わかっていてもあの人の空いた穴は埋まらない。
「お前はまだ子どもだ、辛いことは俺たち大人に任せて今は自分がどうしたいか考えろ。」
「少し、考えさせて…。」
「それでいい、少し時間をやる。」
「ありがとう、領主様。」
アースランド様、我はどうしたらいいですか。




