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なんでもない、日常の先に。  作者: 夜月黎


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もやもや

職場に新人が入ってきた。


大学生の可愛い女の子。

教育係は……静玖先輩だ。


最初は気にしていなかった。

よくあることだし、俺も静玖先輩に色々教わった。


けど、少しもやもやしだしたのは、一ヶ月位経った頃だった。


日課になっていたはずの、仕事帰りの夕食が減ってしまった。


「ごめんっ!今日、ちょっと相談あるって言われて」


最初はそんな感じだった。


必死で頭を下げる先輩を前に、断るなんてことは、俺には出来なかった。


「いいですよ、気にしないでください」


俺はそう答えて、一人で帰った。


その日の晩飯は、久々にコンビニ弁当だった。


……食べた気が、しなかった。


半分残した弁当を前に、今日だけだから……と、自分に言い聞かせた。


けど………。

それを境に、一緒に帰れない日が増えた。


そのたびに先輩は、


「ごめんっ!!」


って言って、必死に謝る。


少しずつ、もやもやする気持ちが湧きながらも、俺はやっぱり、断れなかった。


久しぶりに休みが同じだった日に、ようやく先輩とご飯に行けた。


会ってすぐに先輩は俺に抱きついてきた。


「やっっっと、雪に会えたっ!」


そう言ってぎゅっとする先輩を、俺は抱きしめ返せなかった。



久しぶりに飲み屋に行く。

先輩の飲むペースが早い。


「先輩?潰れちゃいますよ?」


俺がそう言っても、先輩は気にしなかった。


「だって、久しぶりに雪に会えたから、嬉しくって」


俺は溜め息をつくしか出来なかった。


ほんとは……もっと話がしたかった。



案の定、先輩は酔いつぶれて、俺が肩を貸してアパートまで連れて行く。


先輩の部屋に入るのは、あの日以来、二度目だ。


ソファに座るなり、先輩は俺に抱きついてきた。


「雪ー、ごめんなぁ、最近一緒に帰れなくて」


そう言ってくる先輩に、俺は少しもやもやして……。


「……先輩、楽しそうですよね」


柄にもない皮肉を言ってしまった。

言ってしまってから、ハッと気づく。


先輩の動きが止まった。


「……え、何?それ」


低い声。


……怒って……る?


心臓がドクンと大きく鼓動する。


「あ……」


さっきまで酔っていたはずの先輩の目が真剣に俺を見ている。


後ろめたさと恥ずかしさに、俺は何も言えなかった。


どうしていいかわからない。

俺はそのまま立ち上がり、先輩を見下ろした。


「すみませんっ……」


その一言しか、でなかった。


そして、そのまま逃げるように部屋を出た。


帰り道は後悔に押し潰されそうだった。


「なんで……あんなこと、言ったんだろ……?」


溜め息と共に、涙が溢れた。


自分の中の感情が何なのかもわからず、俺は夜の道をただ歩いていた。

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