↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんでもない、日常の先に。  作者: 夜月黎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/11

10.わがまま

仕事終わり。

先輩は俺が帰るのを待っていた。


「お疲れ様……です」


いつもに増して小さな声で挨拶する。

顔が合わせられない。


「……なぁ、雪」


先輩が俺を呼ぶ。

俺は背中を向けたまま帰り支度をしながら返事を返した。


「……はい、なんですか」


普段よりゆっくりめにエプロンを外す。

いつもならうきうきしながらやる動作をもたもたとこなす。


「……今日、行ってくれんだろ?一緒に、メシ」


一瞬だけ、心が弾む。

でも、すぐに自己嫌悪に陥る。


俺は……また先輩に嫌味を言ってしまわないだろうか。

嫉妬して、醜い言葉を吐いたりしないだろうか。


不安になる。


答えない俺の肩を先輩が掴んだ。


「雪……俺はお前と喧嘩なんかしたくない」


振り向けないまま、肩が震えた。


「……俺だって……したくないですよ」


「ならっ……」


先輩の力強い手が俺の体を強制的に振り向かせた。

あぁ、こんな情けない顔、見せたくなかった。


「っ……でも、俺……し……嫉妬しちゃうんだ……あの新人の子に……」


必死で下を向き、俺は絞り出すように言った。

……言ってしまった。


ぎゅっと先輩の手が俺の両腕を掴んだ。


「こんな……っ醜い感情……知りたくなかった……」


がばっと先輩の腕が俺を包んだ。

体が強張る。


「雪……」


先輩の反応が怖かった。

でも……。


「言ってくれよ……なんでもいいから、雪の気持ち、ちゃんと俺に言ってくれよ」


強張った体から力が抜けていく気がした。


「寂しい思いさせてたのは……俺が悪い。ほんと俺が悪い」


ぎゅうっと力が強くなる。


「でもっ……雪に我慢させたくないんだよ」


「……先輩……」


先輩の手が俺の背中を優しく撫でた。

温もりが俺の感情を刺激する。


……涙が出そうだった。


「でも……」


「わがまま、言ってくれよ」


先輩は俺の言葉に被せるように言った。


「……わがまま……」


先輩の手が俺の頬に触れる。

俺は恐る恐る先輩を見上げた。


先輩の優しい目が俺を見ていた。


急に感情がこみ上げる。

俺は先輩の胸に顔を押し付けた。


言って……いいのか。

それはまだ悩むけど。


俺は聞こえるかわからないくらいの小さな声で、初めてのわがままを口にした。


「……あの子と、仲良くしないで……」


先輩は俺の頭に顔を乗せて背中をぽんぽんと撫でた。


「わかった」


「ほんとに……いいんですか」


「当たり前だろ」


事も無げに言う先輩の声は、なぜか嬉しそうだった。


……俺は少しだけ調子にのってみた。


「先輩……」


「ん?」


「……キスして欲しいです」


先輩の手が止まり、抱き締める手にきゅっと力がこもる。


先輩の顔が少しかがんで俺の顔に近づく。


そして、唇が重なった。


俺の体から力が抜けていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。