第219話:襲撃なんてしなけりゃいいのに
「…………」
俺は病院の待合スペースで本を読んでいた。もちろんラノベ。ちょっとラブコメを読みたいなーと思って買った奴。ちょっとエッチなラブコメだ。総合病院の精神神経科。精神的に追い詰められていた星空野シータが通っている病院で、俺はその付添。もちろん問題にならないようにスーツ姿でグラサンをかけている。怪しさ大爆発だが、顔バレするよりよほどいい。
ちなみに星空野シータがエンタメプロに移籍した件はちょっとニュースになった。もちろん佐倉コーポレーションの背景があるとしても、ホシガリとは経済規模が違う。昔ほど稼げはしないだろうけど。今はゆっくり新しいファンを増やしていくのが常道。ホシガリでのファンも五割でもエンタメプロの星空野シータを推してくれれば御の字だろう。普通はホシガリというビッグネーム有りきで、その中のシータを応援しているファンもいただろうから、全員が移籍にあたって推しを続けるかというと、そういう話でもない。
そうして診察を終えた星空野シータが現れた。
「付き合ってくれてありがと」
シータもグラサンをかけている。こんなところで顔バレをするわけにもいかないので、仕方ない処置と言えないこともない。
「じゃ、帰るか」
番号で呼ばれて、清算して、帰り道の薬局で薬を受け取り、あとはシータのマンションまで帰るだけ……と思っていると。
ガンッ!
赤信号で止まった送迎の車が後ろから追突事故を起こされた。あー。めんどい。警察呼んで現場検証。ついでに保険会社に何やかや。まぁあくまで対処するのはドライバーなのだが。後ろから追突事故を起こしたドライバーはこっちにヘコヘコしていて。前方う不注意がどうのこうの。言われてこっちの送迎員も「気にしないでください。警察は呼びますけど」と結構笑顔で容赦ないことを言った。そうして後部座席の俺とシータを見ると、懐から拳銃を取り出して躊躇いなく撃った。
ズガンッ! ズガンッ! ズガンッ!
完全にこっちを殺す気だ。それでも防弾だったので銃弾は貫通せず。だがヒビが少し入った。もちろんソレで済むはずもなく。すでに車のタイヤにはナイフを刺してパンクさせている。これで逃げることは出来なくなったわけだ。
「はあ……」
溜息一つ。ここで襲い掛かってきたってことは、どう考えても坐古乃コンツェルンが背景にいるのだろう。
「ひっ!」
さすがにリアルで銃声を聞くのは初めてなのだろう。シータは恐怖していた。
「ドライバーさん。シータを頼む」
「打って出ますか?」
「勝率考えたら妥当だろ?」
そうして後部座席の扉を開いて外に。それから扉を閉めて、施錠してもらう。
「おう。お前が佐倉マアジか?」
拳銃を突きつけてニヤニヤ笑っているチンピラ。あるいはヤーさん。さすがに海外マフィアという線は考えなくてもいいだろうが。というかこっちに確認取っている段階で終わりだ。俺は速攻でヴァリアブルアーマー木甲梵弩バウムクノッヘンを装着していた。皮膚から現れた木製の装甲。ブーステッドアイアンウッドを用いた、人体の動きを阻害しない機動兵装。
「あ?」
「木甲梵弩! バウムクノッヘン!」
シャキーン! とポーズを取る。だがそれは滑稽に映ったらしくチンピラは爆笑していた。うん。気持ちはわかる。俺も何やってんだ感は強い。
「じゃ、あばよ」
撃たれた拳銃が跳弾して、撃った本人を穿った。
「が……あ……?」
ブーステッドアイアンウッドを銃弾程度で貫けるわけないだろ。さらにダメ押しだ。
「エピソード」
ブーステッドアイアンウッドの刀身に、側面にヒトキリススキ。人体なんてあっさり切り裂く合法木刀。それでチンピラの一人の腕に切り傷を付ける。
「なんだ! お前は!」
「木甲梵弩バウムクノッヘン!」
「だからソレが何なんだって聞いてんだよ!」
「正義の味方だ」
他に有るか?
「シータを出しなさい」
で、今度は女性がマグナムを構えてこっちを脅してきた。チンピラは三人。女性が一人に坐古乃キヤラ。計五人。
「つまり復讐か?」
「よくわかってるじゃない。あたしとキヤラ様だけがババ引くなんてありえないでしょ? シータにも地獄を見てもらわないと」
「残念だが既にシータはエンタメプロで保護しているからな」
「殺させなさい」
「お断り」
「じゃああんたから死ぬことね!」
激昂。だがしかし殺意は本物。ためらいも何もなく女性……星空野モトネはトリガーを引いた。もちろん貫通するはずもないが、流石マグナム。着弾の衝撃だけで姿勢が崩れる。やはりこういう軽量化にも問題は発生するんだなー。
「次は殺すわよ」
「ああ、頑張れ」
既にマグナムでも銃弾が貫通しないことは証明された。後は切るだけだ。
ガンッ! ガンッ! ガンッ!
マグナムが撃たれる。そのたびに俺はよろめいたが傷は一つもない。
「腕の一本くらいいいよな」
「なんなのよアンタ!」
「エルフだ」
ま、別に耳は長くないが。
「そこまでだ」
で、今度は坐古乃キヤラが脅しをかける。手に握っているのは手榴弾。ただしピンは抜いていない。
「これを喰らえばワゴンだって無事じゃすまないぞ」
まぁ確かに。ガソリンにでも着火すると目も当てられない。
「星空野シータを引き渡せ。ここで爆殺されるよりマシだろ?」
「確保して何する気だ?」
「犯すんだよ。非処女アイドル星空野シータの誕生だ! レイプ動画をネットに流して最大級の恥をかかせてやるんだ!」
うーん。まぁ頑張れとしか言えない俺の都合。
「じゃあその前に切るか」
エピソードを構えて、俺は脅す。
「マジで爆発させるぞ?」
ピンを抜けばそれで終わり。と思ってるだろうが、マジで終わりなんだよなぁ。
「やれよ」
交渉事は嫌いだ。どうせ後悔するのはそっちなんだから好きにすればいい。
「お! お前がやれって言ったんだからな!」
完全に他己責任にして坐古乃キヤラは手榴弾のピンを抜いた。瞬間、キヤラの肉体を細い繊維がまとわりついて動きを止める。
「アイドル護衛粛清仮面! 御法度リリン!」
俺たちの車をストーカーしていたキヤラの車を、リンゴが乗っていた車が二重尾行していたのだ。もちろん事態については知っているし、リンゴが御法度リリンとして粛清するのも当たり前の話で。手榴弾のピンを抜いたままリンゴのファイバーに拘束されて動けない坐古乃キヤラ。
どうなったかって? 死人は出てないぞ。




