第217話:決着【坐古乃キヤラ視点】
「~♪ ~♪ ~♪」
ボクの名前は坐古乃キヤラ。坐古乃コンツェルンの社長令息だ。つまり選ばれた存在で、庶民とは品格も立場も違いすぎる殿上人。さらに坐古乃コンツェルンのために作戦を練ってスキャンダルを起こした天才だ。今日は父上に呼ばれて坐古乃コンツェルンの本社ビルに顔を出していた。佐倉コーポレーションを破滅させたことを褒められるんだろうか? 父上はボクに甘いからなぁ。
「来たぞ。父上」
社長室に顔を出して、ニコニコ笑顔でいると。
「……来たか」
父上は深刻な顔でボクを見た。なんだろう? 褒められることはしても、そんな深刻な顔をさせることはしていないはずだが。
「最初に聞いておく。お前が星空野モトネと関係を持っているのは事実か?」
「知っていたの? まぁ遊び程度だよ。誰にもバレてないし。ウチはホシガリのスポンサーだから不思議はないだろう?」
「そのモトネに命令して星空野シータのスキャンダルをでっち上げたのも?」
「ああ、そこまでバレているか。そうだよ。おかげで佐倉コーポレーションは炎上しているだろ? えらっそうに、ホテルのパーティーで父上に頭を下げさせた佐倉マダイも今頃後悔しているんじゃないか?」
クスクスと笑う。そもそも経済規模的にも頭を下げるのはあっちの方だ。父上も苦痛だったろう。格下に御機嫌を取るのは。
「事実……か?」
「ああ、素晴らしい冴えだろう?」
晴れやかにボクは笑った。
「……………………」
沈痛。父上の表情を一言で語ればそうなる。
「どうかしたか?」
「…………ネットで坐古乃コンツェルンのニュースを見てみろ」
「? ……はあ」
スマホで検索する。表れたのは目も当てられない記事の数々。
『坐古乃コンツェルン。株式不正か!?』
『坐古乃コンツェルンの関係者がアイドルを利用して佐倉コーポレーションに攻撃!』
『枕営業!? 星空野モトネの真実!』
『スポンサーである坐古乃コンツェルンの実態とは!?』
文字を読むごとに血の気が引いた。
「な……なん……!?」
「お前が星空野モトネと枕営業をしたこと。モトネを利用してシータにスキャンダルを意図的に起こしたこと。それによって一時的に佐倉コーポレーションの株価が下がったこと。全部ニュースになっているぞ」
「それは! それはおかしいだろう!? ボクはバレるようなことはやってない!」
「あの会社の情報収集能力を舐めるな。ある意味で会社としての能力であれば五本指の一つだぞ」
『――――とはもう寝た?』『言ったよね。あたし。――――と寝ろって』『でもスターガーリー51にスキャンダルは……』『あたしを蹴落として得た地位に未練があるの?』『ひっ。あのっ。でも……』『あたしに逆らうの?』『――――と寝て破滅しなさい。姉さんの言うこと……わかるわよね?』『姉さんは……まだ坐古乃――――さんと寝ているの?』『そりゃそうでしょ。スポンサーなんだから』『それもスキャンダルだよ……?』『あたしの弱みを握ったつもり?』『あんたが黙っていれば……何の問題もないわよね?』『とにかくあんたは――――と寝て佐倉コーポレーションの評判を貶めればいいのよ』
モトネとシータのやり取りも完璧にネットに流れていた。キヤラという名前だけは修正されていたが、しっかりと坐古乃と名前が聞こえる。
「これは?」
「とある匿名から流れてきた盗聴されたデータ音声だ。もちろん証拠能力は無いが、今の社会のニュースと一緒に見れば事実であることを悟るのは簡単だな」
「そんなもん否定すればいいじゃないか! モトネの妄言だと!」
「それで? それを誰が信じるんだ?」
「いや、そもそもシータのスキャンダルだって事実だろ? 佐倉コーポレーションだって枕営業をしているだろうし……ッ!」
「『星空野シータ ガチャ』で検索しろ」
言われてしてみる。『あ、どうも。視聴者の皆様。私、星空野シータは今ラブホテルに来ていまーす』『なんか友人に聞いたんだけど。ラブホテルでソシャゲのガチャ回すと最高レアリティのキャラを当てやすいんだって! だから今日はラブホでガチャを回す企画をしまーす』
「?????」
意味不明だ。ラブホテルに行ってガチャを回す? つまり星空野シータは佐倉マアジと寝ていない?
「動画投稿時間はモトネがスキャンダル画像を上げる二時間前だ。つまり正真正銘この動画はあのスキャンダル画像の後の映像。つまり星空野シータは佐倉マアジとは寝ておらず。単なる勘違いでしたってオチだ」
「……そん……な……まさか」
「おかげでウチの株価は大暴落。さっき政府に書類が提出されたよ。佐倉コーポレーションがウチの株を五パーセント以上買っているとな」
「それが何か問題なのか?」
「買われた株のパーセンテージだけ坐古乃コンツェルンは佐倉コーポレーションの支配下に置かれるということだ。このまま株価の暴落が続くなら二十パーセントは持っていかれるだろうな」
「だったら五分の一程度だろう? まだ焦る段階じゃ……」
「坐古乃コンツェルンの株式を握っているのはトレーダー以外にも正規の大企業も多い。それに少し前に現金化したくて信頼できるところに株を譲渡したタイミングだ。いま私が持っている株は三十パーセントってところだな」
「なら十分……」
「佐倉コーポレーションが大株主になって、その意向に逆らえる大企業が一体どれだけいると思う? 佐倉コーポレーション自体の保有率が二十パーセントでも、佐倉コーポレーションに従う企業との合算をすれば五十パーセントは軽く超えるぞ。つまり我が社は佐倉コーポレーションに首根っこを掴まれているわけだ。格安の値段で株式を佐倉コーポレーションに売ってしまったわけだな」
「待てよ。父上。その話はおかしい。そもそも坐古乃コンツェルンは佐倉コーポレーションより格上だろう? この前のホテルの件ではウチは一億出資している。佐倉コーポレーションは一千万だった。つまりウチの方が経営規模は大きいはずだ。企業株主もウチに迎合するだろう?」
「お前のバカさ加減には呆れ果てるな。私があんな将来性のないホテルに喜んで一億出したと思うのか? 愛人の血縁に頼み込まれたから嫌々出しただけだ。私個人の判断で言えば五百万円すら出したくない案件だ。何の関係もない佐倉コーポレーションが温情とはいえ一千万も出したことが驚きだよ。歴史も威厳もない二、三年もすれば単なる高級ホテルにしかならない物件に一千万も出して、佐倉コーポレーションが得することもないのにな」
「じゃ、じゃあ、坐古乃コンツェルンは……」
佐倉コーポレーションより……格下?
「そうだな。私が生きている間にあと五回バブルが来て、そのバブルで佐倉コーポレーションが一円も儲けなかったら格上になれたかもしれんな」
嘘だろ? 佐倉コーポレーションが坐古乃コンツェルンより格上? そんなことがあり得るか? だってあのホテルでウチは一億出したんだぞ。でも父上は……。
「というわけで、だ。盗聴データに証拠能力は無いから社長の私を検挙することはできないわけだが、もうそういう問題でもない。坐古乃コンツェルンは佐倉コーポレーションの子会社として子々孫々運営されることが決まった。全部お前のおかげだよ。愚息」
「まっ……待って。記者会見を開いて否定しよう。全部モトネの妄言だと。全ての責任はアイツにあると!」
「ああ、そうだな。その星空野モトネも全部坐古乃キヤラに命令されたと言っているがな」
あのクソビッチ! ボクを裏切ったのか!? あれだけ恩を受けておいて!?




