第216話:逆転の目
「あ♡ あ♡ マアジ……わたくしの前でそんなにもルイと激しく♡」
で、そんなわけで。
「くあ……」
毎度は毎度で毎度の如く。俺は頭の悪い夢を見て、そのまま朝になって股間の幸せ家族計画が色々と補填されているのを前に、残念な限り。そうして佐倉コーポレーションの関係者が星空野シータとラブホテルに入ったニュースはまだ熱が冷めやらず。星空野シータへの裏切られたファンの怒りは頂点に達しており。SNSでは心無い言葉が飛び交っていた。
「ビッチ」
「売女」
「生オナホ」
「便所」
言葉を尽くせばいいというものではないが、これに星空野シータが思い詰めていないといいのだが。一応俺とシータがラブホテルでしたことは彼女も分かっているし、こういう状況に追い込まれることも把握はしているだろう。忠告として、これから数日はネットを見るなとラブホテルを出た後忠告していたので、その通りにしていれば心理的に追い詰められることもないだろう。
だいたいそうやってネットの沸騰が続いて、それからネットの潮流が変わったのは、一つのコメントだった。
「何言ってんの? ジャパニーズ」
英語圏のSNS利用者が、日本で巻き起こっている旋風に、全く意味不明だと疑念を持っていて、そこから星空野シータファンが荒れ狂っている事情を見て、聞いて、その後、アメリカの動画サイトのリンクを張る。荒れ狂うファンはそれはそれでご苦労様だが。それとは別に冷静な一部のネット民はアメリカ人の理解不能だという意見に耳を傾け、それからリンクを踏んで示された動画を見る。もちろんそこまで含めて、俺とサヨリ姉の計画通り。俺もその話題に乗っかって、アメリカ人が提示した動画を見ていた。それはアメリカのサーバーにある一つの動画。外国の動画サイトであるのに、動画に映っているのはバリバリの日本人。しかも翻訳の字幕も載せていない、アメリカ人の動画視聴者に優しくない日本人仕様の動画だった。
「うわー。私ラブホって始めて来たけどこうなってるんだねー」
動画ではカメラに映っている星空野シータが、アメリカ人視聴者など意にも介さないバリバリの日本語でラブホテルの中を興味深げに見まわし、翻訳機能もなく事態を進行していく。
「あ、どうも。視聴者の皆様。私、星空野シータは今ラブホテルに来ていまーす」
ちなみにこの動画を撮っているのは俺のスマホだったりする。
「なんか友人に聞いたんだけど。ラブホテルでソシャゲのガチャ回すと最高レアリティのキャラを当てやすいんだって! だから今日はラブホでガチャを回す企画をしまーす」
朗らかにそう言って、自分のスマホをカメラに向ける。
「今日は四月の某日。時間は午後四時ですねー」
自分のスマホの日時をカメラに見せて、そうしてアリバイの証明をする。それは皮肉にも星空野シータのスキャンダル画像がネットを騒がせる少し前の時間と月日。つまり俺を誘ってラブホテルに入った日時に相違なかった。
「じゃあ早速ガチャ回していこう! 今日は最高レアリティキャラを完凸するまで回すからねー。魔法のカードもいっぱい買ったし!」
そうして俺の映していたカメラのレンズの前で、ラブホのベッドに腰かけてシータはソシャゲのガチャを回し始める。翻訳もされていないのでアメリカ人には意味不明な動画だろう。だがそのアメリカ人が導線を引いて案内した日本人がアメリカサーバーの、その動画を見てどう思うかは、まぁ手に取るようにわかり。
「よっしゃー! 一体目確保。もしかして本当にラブホテルでガチャ回すと当たりやすいのかなー?」
そうしてガチャ動画は続いていく。既にスマホの画面を動画データとして保存もしているし、それとは別に俺の移している等身大の星空野シータのガチャを引いている映像もお届けだ。ラブホテルには入っているがイヤらしいことは全然しておらず。ただソシャゲのガチャを回しているだけ。
「ま、こんなところだな」
そうして一部の日本人がその動画を見て、先の星空野シータのラブホへの訪問はソシャゲのガチャを回すためでしかなかったという事実を確認し。それをSNSに流し。証拠動画としてユーキューブにも転載動画が張られて、ユーキューブ視聴者で星空野シータのファンほとんどが、そのソシャゲのガチャ動画を見て唖然とし。それから星空野シータがまだ処女だということを確認し、今度は逆ベクトルで沸騰していた。シータはガチャを引いていただけ。イヤらしいことは一切していない。ラブホテルに入ったのは、ガチャの宗教を試すためだけで、性的な事情は一切ない。ソレで救われたのだろう。ネットの意見は全部マルっと書き換えられ、星空野シータの人気はこれから時間とともに元に戻るだろう。
『俺はシータちゃんのこと信じてた』
『神はいた。っていうかシータちゃんが非処女なわけない』
『にわかのファンは信じる心が足りないよなー』
星空野シータの処女神話はネットを席捲し、そうして手の平を返したように星空野シータへの賞賛が鳴り響いた。アメリカサーバーの動画の投稿時間も日本のSNSのスキャンダル画像の投稿より早いこともあって、この動画が事実で、単なるガチャ動画撮影のために星空野シータがラブホに行ったことは誰の否定の意見も封殺した。
「さて、後は」
俺はセインボーンに電話をかけた。
「あー。もう投下していいぞ」
「複数のサーバーは経由するが、マジでいいんだな」
「徹底的にやってくれ」
「さっさーい」
そうして、今度はSNSに音声データが投下された。
『――――とはもう寝た?』
『言ったよね。あたし。――――と寝ろって』
『でもスターガーリー51にスキャンダルは……』
『あたしを蹴落として得た地位に未練があるの?』
『ひっ。あのっ。でも……』
『あたしに逆らうの?』
『――――と寝て破滅しなさい。姉さんの言うこと……わかるわよね?』
『姉さんは……まだ坐古乃――――さんと寝ているの?』
『そりゃそうでしょ。スポンサーなんだから』
『それもスキャンダルだよ……?』
『あたしの弱みを握ったつもり?』
『あんたが黙っていれば……何の問題もないわよね?』
『とにかくあんたは――――と寝て佐倉コーポレーションの評判を貶めればいいのよ』
クールエールが違法で盗聴した音声データが今度は別の意味でバズった。
聞こえた声は星空野シータと星空野モトネ。
星空野モトネが妹を脅して佐倉コーポレーションの関係者と寝てスキャンダルを提供しろと脅迫する音声データ。さらに自分は坐古乃コンツェルンの誰かと寝ていることを暴露している。もちろん盗聴データに証拠能力は無い。だがこの音声データが虚偽であると否定する根拠もない。無いどころか厳然たる事実なのだが。
モトネが佐倉コーポレーションの株価を下落させるために妹のシータを利用してスキャンダルを演出した。もちろんそれは佐倉コーポレーションにとっては訴訟沙汰で、ついでに星空野モトネの芸能生命を斬首する最後のトドメだった。
「ふぅ」
そうして一連のスキャンダルは一応の決着を見た。トップスター星空野シータは処女のままスキャンダルは全て嘘で、そのスキャンダルを捻出しようと脅迫したモトネは犯罪者として終わり。さらに坐古乃コンツェルンの関係者の枕営業をして、坐古乃コンツェルンの意図を組んで佐倉コーポレーションの株価を下げるように意図して社会問題を起こそうとした。役満だ。
完璧に犯罪。ついでに訴訟沙汰。星空野シータのファンは沸騰して星空野モトネに怒りを向けて、彼女のアカウントは炎上。刑事事件に発展し、それもまた大きなニュースになった。星空野モトネは社会的に終わり、坐古乃コンツェルンは信用問題で株価が下落。そのお買い求めやすい坐古乃コンツェルンの浮動株を佐倉コーポレーションが買って五パーセントルールで父者マダイは書類を提出するのだった。




