第215話:株式ダイエット
「あっはっはー。バチボコに燃えてるねー」
今日は記者会見の後の食事会。とは言っても、
「マアジちゃーん。お姉ちゃんと一緒にご飯食べよ?」
と言われただけだが。
「あそこまで記者を煽ってよかったのか? 場合によっては訴訟もあり得るぞ」
「ウチに勝てるわけないじゃん」
まぁ否定も難しいのだが。
「ていうか株価数パーセント下落って。十桁じゃすまない損害だよな?」
「まーねー」
今日は飲み屋に来ていた。俺は唐揚げを食べながら茶を飲んでいる。サヨリ姉は焼酎をパカパカ空けながら、御機嫌につまみを食っている。酒を飲むのはいいんだが、佐倉コーポレーションがここまで炎上しているのに、笑い上戸はどうかと思う。俺も一応この後の流れは聞いているが、それでも損害の規模が伊達ではない。
「ああ、だいじょぶだいじょぶ。この程度でウチの株を手放す利権主義には株握られても不愉快なだけだから。余計な脂肪を燃焼させるいい頃合いだったよー。星空野シータちゃんには感謝だねー」
「浮動株を買い取るために仕掛けたのか?」
「しかも今佐倉コーポレーションの株価は下落中。お安い買い物でしょう?」
「いや。キャッシュフローは?」
「大丈夫だって。買ってるのはマダイ父が代表やってる東方ホールディングスだから。佐倉コーポレーションとは表面上関係ない」
一回株価を暴落させ、株主から株を買い取る。正確には浮動株を……だな。そして経営的に見直しを図る、というのはわかるのだが。
「インサイダーじゃね?」
「何言ってんの。東方ホールディングスは正当に、株式市場から佐倉コーポレーションの株を買っているだけだよー。それに問題を起こしたのは佐倉コーポレーションだし。そんな事情を東方ホールディングスが知ってるわけないじゃーん」
いや、代表が父者のマダイって時点で。
「いいのいいの。経営戦略的に自社の株を保有するのは理にかなっているし。MBOを宣言するよりよほど低額で株買えるしねー」
「逮捕されても俺を巻き込むなよ」
「週に一度は面会に来てね♡」
まぁその程度はしてやるけども。唐揚げをモグモグ。白米を食べつつ刺身にも手を出す。
「うーん。ホタテのヒモは美味しいねー」
芋焼酎を飲みながら渋いつまみに舌鼓を打つサヨリ姉。
「佐倉コーポレーション。枕営業か!?」
「はたして星空野シータは加害者か? 被害者か?」
「企業案件を盾にアイドルを誘う体制に問題が」
「所属事務所は非難の姿勢を見せており」
心無いネット記事が踊っている。俺もサヨリ姉も、飲み屋で夕食しながらスマホでネット記事を追っていた。俺とシータがラブホに入っている写真は出回っており、まぁ最悪俺の顔が日本中にばらまかれる可能性も考えたが、さすがに坐古乃コンツェルンもそこまで鬼畜ではなかったらしい。そのことには感謝するしかない。
「ま、後は野となれ大和撫子か」
「だいじょーぶ! お姉ちゃんに任せなさい」
「イリーガルで言えば、まぁこっちに分はあるけどさー」
「とは言ってもあくまで株放出しているのはトレーダーで、関係のある大企業は手放していないしね」
「それはいいのか?」
「まぁ互いに株を共有しているから。そんな不義理なことはできないだろうし」
「この後のことを説明して思いとどまらせたとか?」
「そんなことしたら本当にインサイダーだよ」
そりゃそうだ。
「まぁ余計な利権主義から株を安値で買えるだけ、得しているってだけだしね」
ホタテのヒモを齧って、焼酎を飲んでいるサヨリ姉は、社長にあるまじき楽観さだが、彼女が言うなら間違いないのだろう。
「これからが楽しみね♪」
「俺はシータが助かれば何でもいいが」
「惚れちゃった?」
「俺が惚れているのはルイとタマモだよ」
「お姉ちゃんは?」
「次点」
「アユは?」
「その次点」
「あ、お姉ちゃんの方が上なんだ?」
「まぁ、アユは。あんまり関わり合いになりたくない」
俺のためを思えば俺の都合もサックリ無視する奴だ。俺のためなら俺の人権さえ使い潰すだろう。
「お姉ちゃんもマアジちゃん大好きだよ?」
「そりゃようござんして」
「ルイちゃんとタマモちゃんを排除しようか」
「俺が後追い自殺していいならどうぞやっちゃってくださいませ」
「マアジちゃん。その論法は」
「本気じゃないが本音ではあるな」
「ふーんだ。星空野シータちゃんに惚れられてルイちゃんとタマモちゃんにフラれるといいよ」
笑えないから止めてくれる? マジでありえそうで怖いんだけど。
「っていうか東方ホールディングスが株式買い集めたら株価あがるんじゃない?」
「友好ファンドも買ってるから大丈夫ー」
「おい。それは……」
思いっきり金融商品取引法に抵触するだろ。
「証拠ないんだから訴えようがないでしょ?」
状況証拠だけでも査察が入るんじゃないか?
「下手な真似はしていないから金融庁も動かないと思うけどね」
それも楽観論じゃないか?
「まぁまぁ。明日は明日の風が吹く。今は酒を飲みましょう」
「俺は遠慮する」
「早く成人してね。マアジちゃんとお酒飲みたいな」
「あと三年待ってくれ」
「さっさーい」
こっちの精神が疲労する。まさか金融犯罪をおかしているとか誰が思うよ。星空野シータとはただのスキャンダルだが、こっちはまごうことなき……まぁいいんだけど。経営判断に口を挟めるほど俺は佐倉コーポレーションとは関係ないし。
『こらー。早く帰ってくるぞ。マアジ』
『マアジ。あたしと寝ましょう?』
ルイとタマモからコメントが来る。
『あと一時間くらいで帰る』
サヨリ姉はアルコールに関してはザルだが、それでも飲まれることもないし。今焼酎をロックで五杯くらい飲んでいるから、後三十分もあれば解散だろう。
「星空野シータ……か」
アイツとラブホテルに入ったのは事実で。そうしてやることはやったのだが。それが話題になるのは、もうちょっと後のことだろう。今はとりあえず東方ホールディングスが佐倉コーポレーションの浮動株を買い集める段階。そこにどれだけの金が動くのかは俺は知らないが。ま、サヨリ姉がそこら辺の塩梅を読み違えるとも思えないし。
「南無三」
胃が痛いということをここで覚えるほど繊細ではないのだが。それでも星空野シータとラブホに入ったのは、まぎれもない事実で。




