第214話:星空野シータのスキャンダル【星空野モトネ視点】
「ふふふ。あはは。あっはっはっは!」
そうしてあたしはスマホを見て笑い転げていた。あたしの芸名は星空野モトネ。妹である星空野シータは妹で同じグループのアイドルだ。とは言っても相手はトップスター。こっちには敵わない何かがある。でもそれももう終わり! もうあたしが懸念することは無い。だって星空野シータは終わりなのだから。
『ちょっとこれ。星空野シータ!?』
というコメントを付けて、SNSに盗撮写真をアップした。そこにはにこやかにラブホテルに男を連れ込んでいる星空野シータの画像があった。枯野に火を放つ様に、という意味が今のあたしにはよくわかった。一瞬でSNSは炎上し、スターガーリー51の星空野シータのファンが荒れ狂った。それはそうだ。自分たちが応援していた星空野シータが男と一緒にラブホテルに行ったのだ。怒り狂う様が目に浮かぶようだ。そのことはネットニュースを駆け巡り。星空野シータのスキャンダルにニュースサイトは沸いた。話はこれだけでは終わらない。あたしはあくまで男の方は顔にモザイクをかけていたけど、それとは別方向から、この男が佐倉コーポレーションの社員ではないかという報告が寄せられた。これはニュースサイトでは取り上げられなかったけど、ほぼ事実としてネットニュースになった。特にSNSや掲示板では、男の特定が急がれ、コイツは誰だという話題に染まった。みんなが大好きな星空野シータを犯した男。そのまま磔刑にされてもおかしくない。
「あっはっはっはっは!」
笑いが止まらない。これでシータは終わり。そしてあたしは坐古乃キヤラに恩を売ってアイドルとしてもっと上に行ける。そのためには坐古乃キヤラにまた身体を売らないといけないけど、これからビッチアイドル星空野シータの姉であり、清純派アイドルであるあたしに注目が向くのは自然なこと。今度は流れが逆転するのだ。星空野シータの汚名があたしの名声を押し上げる。佐倉コーポレーションには恨みを買うだろうけど、会社の経営規模としては坐古乃コンツェルンが上。坐古乃キヤラに媚びを売った方がまだしも甘い汁を吸える。
「シータ。滑稽よ! あんたは本当に滑稽だわ!」
あたしが憎んで憎んでしょうがなくて、そのことに後ろ暗い感情を持っているシータ。仮に立場が逆ならあたしは「だから何?」で済ませている。シータみたいに甘い考えは持たない。自分が売れるためなら何でもする。その気概がシータにはなかった。あたしの憎しみを本物だと思って、勝手に身を引いたのだ。
「バッカじゃないの!?」
おかげでこれからあたしがアイドルとして坂を登っていくんだけど。あの目障りなシータがスキャンダルを起こしてくれたおかげで、変な注目があたしに向くだろう。今が好機。コレを掴んで、今度はあたしがトップスターに駆けあがってやる。そのためなら坐古乃キヤラにだって身を売るわ。別に男に股を開くのは慣れたものだしね。
そうして三日ほど経ったところで、今度は佐倉コーポレーションの会見が開かれた。ネットで噂になっているシータの相手の男が佐倉コーポレーションの社員であるかどうか。謝罪会見とはなっていないので、謝る気は無いのだろうが既にネットは沸騰している。肯定しても否定しても、佐倉コーポレーションの株価はダダ下がりするだろう。ソレを止めるために会見を開いたのだろうけど対応が遅すぎる。ま、さすがに星空野シータのスキャンダルに巻き込まれるとは思ってもいないだろうけど。
「この度は皆様に多大な衝撃を与えたことまこと申し訳……」
こういう場に社長は自ら現れない。あくまで代理の人間が現れる。で、ぐだぐだと事実を否定するのだろうけど……と思っていると。
「此度の星空野シータさんとラブホテルに入った男性は我が社に関連する人物だということが確認されており……」
へえ? 認めるんだ? 認めなかったら、既にデータを渡している坐古乃キヤラがモザイク無しの画像を海外サーバーを経由してネットにアップする予定だったが、佐倉コーポレーションが認めるなら話は変わってくる。
「――社の鈴木です。その問題になっている男性は星空野シータさんと交際関係にある、と捉えてもよろしいのでしょうか?」
悪意のある質問が飛ぶ。とにかくパパラッチはスキャンダルを求めている。代理の人間がどう言っても過激な記事にしてしまうのだろう。
「どう返すのかなー?」
私はニヤニヤしながらスマホの動画を見ていた。
「いえ、話を聞いたところ、交際関係には至っていないとのことで……」
眼鏡をかけ直しながら書類に書かれている情報を読み、そう返す代理人。
「あちゃー。それ言っちゃう? もうファンは怒り心頭じゃない?」
馬鹿な真似をするものだ。何か適当に理由を付けて言い訳をすればいいのに。交際関係にないトップアイドルとセクロス。そんな過激な情報を記者が飛びつかないわけもなく。
「――者の佐々木です。どちらが先に誘ったのでしょうか?」
「関係者の話を聞くと星空野シータさんからの方だという情報が入っており……」
代理人は書類を淡々と読むだけで、他には何も考えていない様だった。
「ぶっ! あっはっはっはっはっは!」
私は大爆笑。普通そんな素直に事実を話す!? 星空野シータが佐倉コーポレーションの社員をラブホテルに誘ったとか言う!? これでもうシータは終わり。自分から芸能生命を終わらせたのだ。男から誘って星空野シータが応答したならまだ救いはあった。だが今回の件は会見で言うには星空野シータから誘ったと言ってる。つまりファンにとってはシータは最大の裏切り者でビッチで最低のアイドルに成り下がったのだ。
「残念だったね~? それもこれも自業自得だけど? ププッ!」
マジで壮快だ。ああ、逆転勝利ってこんなに気持ちいいんだなぁ。
「――社の蛯名です。ネットでは星空野シータさんが佐倉コーポレーションに枕営業を誘ったとありますが?」
「その事実は確認されておりません」
「しかし佐倉コーポレーションは大企業ですし、アイドルに回せる仕事も多々あるのでは? その辺から星空野シータさんが甘い囁きに弄された可能性はあると思いますが」
「その事実は確認されておりません」
「あくまでその男性が認めていないだけでは? 枕営業も星空野シータとなれば一撃で堕とされるでしょうし」
「そもそもこれから予定されている星空野シータさんの仕事のどれにも佐倉コーポレーションは連名しておりません」
ちっ。そこは押さえておくか。あくまでシータが意図的に男を誘ったってところで打ち止めらしい。ま、あたしとしてはそっちの方が都合いいけど? シータがビッチだと分かればファンは全員後ろ指差すだろうし。佐倉コーポレーションの値下がりにはちょっと足りないけど、そこは坐古乃コンツェルンの手腕だし。そもそも坐古乃コンツェルンが佐倉コーポレーションを敵視するのもおかしな話だけど。キヤラから聞く限りでは坐古乃コンツェルンの方が格上なんでしょ? だったら黙っていても、佐倉コーポレーションは坐古乃コンツェルンより下って事じゃないの?
「ま、いいんだけど」
これで邪魔者はいない。あたしの天下だ。シータに顔は似ているし、歌だって上手いし、これからはビッチの妹に申し訳なく思っている清純派アイドル星空野モトネの再デビューだよねー。シータ。アンタがしたことを、あたしはやり返しただけ。ま、これも自然の摂理だと思って受け入れるんだねー?
腹がよじれるくらい笑うと、会見は終わり、そうしてネットには酷いニュースが流れだす。『星空野シータ。自分から男に股を開く』とかね? そうしてキヤラから電話が来る。
「よくやったモトネ」
「ありがとうございますぅ。キヤラ様。それでー。今度のコマーシャルの件ですけどー」
「ああ、お前を起用してやるよ。ボクが上に話を通しておく」
「っていうかー。あんな雑魚企業を叩き潰す意味あったんですかー? 経済規模でも坐古乃コンツェルンが圧倒的に上なんでしょー?」
「まぁ経営母体はな。だが相手には歴史がある。つまりこっちが格上でも、会社の年数だけ相手が強気に出れる根拠にはなるんだよ」
ああ、つまり佐倉コーポレーションは老舗だから、戦後参入の坐古乃コンツェルンではまだまだ頭が上がらないと。でもあたしのおかげでその立場も逆転。
「これからもよろしくお願いしますね♡ キヤラ様♡」
「ああ、いい仕事をしてくれた。これで佐倉マアジを目の前で笑ってやれるぜ」
ゲラゲラと笑う男に合わせてあたしも笑った。どっちも目障りな奴を潰したのだから。




