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推しのアイドルが所属しているグループのメンバーが俺の家に入り浸る  作者: 揚羽常時


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210/220

第210話:暗闇の中で【星空野シータ視点】


「ご迷惑をおかけしました! これからの奮起で取り返したいと思います!」


 パラパラと拍手が鳴って、それから撮影が再開した。すでにスケジュールの修正も利いており、私の出番のないシーンはある程度撮っているらしい。そこから後は私が補填すればいいだけ。


「――――――――」


 本に書かれているセリフは全部覚えている。後はそれに感情を乗せて演技するだけ。一応病院で休養したし、私にできることは何でもやるだけだ。


「はい! カットぉ! じゃあ一時休憩!」


 監督がそう言って作業を切って、私はマネージャーから水分を受け取ってそれを飲む。


「ねえ。シータちゃん。この前は大丈夫だった?」


 名前なんか今更憶えている主役が私に声をかけてくる。


「ええ、ご心配おかけしました。私は大丈夫ですよ」


「困ったことがあったら言ってね。力になるからさ」


「その時はよろしくお願いしますね」


 ニッコリと営業スマイルを浮かべて、私は彼の好意を躱す。これからマネージャーさんとスキャンダルを起こすのに、他の人間とするわけにもいかなくて。


「じゃあ次のシーン入りまーす」


 言われて気を引き締める。私にとってマネージャーさんはどんな存在だろう。っていうかマネージャーさんにとって私ってどんな存在だろう。


「よくわかんないんだよなー」


 そもそも人を好きになったことがそんなになくて。もちろん応援してくれるファンは好きだけど、それとこれとは別問題。でも姉さんのご要望に沿うには、私はマネージャーさんと寝ないといけない。そこから意味が分からないんだけど。


「――――――――」


 本読みは終わっているし、カメラで演技をするだけの仕事なんだけど。


「はい! カットぉ! いいねぇ。シータちゃん」


 どうやら監督が望む演技を出来たらしい。それだけはちょっと嬉しい。私にできることってそんなにないから。与えられた仕事だけはきっちりやろうって思ってる。そうして一日を撮影に使って。とは言っても野外撮影には時間や天気も関係してくるから、中々一気撮りも難しく。後は屋内での撮影になった。そうしてそれらを撮り終えて、入院前より仕上がっていることを証明しつつ。私の出番は終わり。


「シータちゃん。飯食いに行かねえ?」


 飯どころか私まで食べそうな口調で主演男優が言う。


「いえ。この後用事がありまして……失礼ですが……」


 難なく躱して、そのまま帰宅。


「あら」


 家に帰ると、今一番会いたくない顔がいた。


「あたしを足蹴にして得た仕事は楽しかった?」


「…………」


 反論する気も起こらない。ここで何を言っても姉さんが機嫌を損ねることはもう決定事項。私にできることは姉さんが出来るだけ暴力を振るわないように細心の注意を払うだけ。


「佐倉マアジとはもう寝た?」


「まだですけど……」


 いつからこうなったのだろう。姉さんが私を憎み、私はその憎しみを受けて世間に空笑いをする。そんなことに意味があるのか。そこから私にはわからない。


「言ったよね。あたし。佐倉マアジと寝ろって」


「でもスターガーリー51にスキャンダルは……」


「あたしを蹴落として得た地位に未練があるの?」


「ひっ。あのっ。でも……」


「あたしに逆らうの?」


「ごめ……なさい……」


 もう嫌だ。なんで私がこんな目に。私はもっと輝いた職業であることをアイドルに望んでいた。なのに現実はこうだ。私は姉さんに唾棄されて、メンバーに嫉妬されて、何も知らないファンは私のことを幸せ絶頂に応援する。私が苦しんでいることを、誰も勘案してくれない。そんなことに意味があるのか。



「佐倉マアジと寝て破滅しなさい。姉さんの言うこと……わかるわよね?」


「は……い……」


 でも、そのことで姉さんにも傷がつくと思うんだけど、それはどうなの?


「姉さんは……まだ坐古乃キヤラさんと寝ているの?」


「そりゃそうでしょ。スポンサーなんだから」


「それもスキャンダルだよ……?」


「あたしの弱みを握ったつもり?」


「そういうわけじゃ……ないけど」


「あんたが黙っていれば……何の問題もないわよね?」


「そう……だけど……」


 その内姉さんは破滅する。そのことがわかっていても、ここで私が忠告することじゃない。姉さんが企業案件を受けるために坐古乃キヤラに抱かれようと、それは私とは関係ない。関係ない……はずなんだけど。なんだろう。この胸に騒めく不安感は。


「とにかくあんたは佐倉マアジと寝て佐倉コーポレーションの評判を貶めればいいのよ」


 言ってることが最低でも姉さんが言うにはそれしかない。それも事実で。私はホシガリのアイドルとしてマネージャーさんと寝て、佐倉コーポレーションの株価を下げる。そのためだけに姉さんに利用される存在。それ以外に私の価値は無い。


「はぁ」


 大きなため息。せざるを得ないだろう。私の都合にマネージャーさんを巻き込むんだから。いくら謝っても謝り切れない。ただマネージャーさんの背後を脅かすために、私は彼に気のあるそぶりをしなければならない。


『マネージャーさん。今度ご飯でもどう?』


『時間が合えばなー』


 というかもしかしてマネージャーさんって私のことを女として見ていない? そんなことあるの? スターガーリー51の星空野シータを女として見ていないとか……そんなことあるの?


『ほら。御飯代は奢るし』


『ああ、金には困ってねーの』


 だろうけどさ。


「とにかくシータ? あなたは佐倉マアジを堕としなさい」


「わかり……ました」


 他に言い様もなく。私は姉さんの命令を肯定した。出来得るならばやりたくない。やりたくないけど……姉さんのアイドル人生を壊したのは私だ。贖罪の義務はあるだろう。そうじゃなくても姉さんの気持ちも分からないじゃないのだ。私だって、自分が枕営業でセンターをして、その結果姉さんが人気になったら、何も思わないというのは無理だ。


『だからお願い。私とデートして』


『おっ断り~♪』


 マジで。マネージャーさんは私がどうでもいいらしい。私は姉さんの命令で、そのマネージャーさんを堕とさなければいけないんだけど、これは無理ゲーじゃあ……。


「エロい自撮り写真でも送りなさいよ。盛ったオスならそれで一発でしょ?」


「それは……。ちょっと……」


 犯罪だ。私だけでなく姉さんまで巻き込んでしまう。そのことを姉さんに話すと、渋々ながら姉さんは理解の色を示した。自分まで巻き込まれたら全てのことが水の泡。姉さんが求めているのはあくまで自分のアイドルとしての成功で、そのために私が邪魔なだけだ。その意味で私を追い詰めて犯罪行為に走らせるのは旨い手段とは言えない。坐古乃キヤラさんも私を抱きたいみたいだけど、強姦罪で警察に訴えると言って牽制しているくらいだ。本当は坐古乃キヤラさんも私のことを抱きたいのだろう。埋もれている姉さんではなく売れているトップアイドルの私を。ただソレをしてしまうと坐古乃コンツェルンに多大な迷惑をかける。だからしないだけ。


「はぁ」


 本当にどいつもこいつもイタリアも。人の不幸ばかりを望んで、そのために私を追い詰める。こうなるとマネージャーさんの良心が、私にとってはある意味の清涼剤で。


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