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推しのアイドルが所属しているグループのメンバーが俺の家に入り浸る  作者: 揚羽常時


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207/220

第207話:桃缶


『入院することになっちゃった。お見舞いに来てー』


 送られてきたコメントは、そんなことが書いてあった。もちろん俺が最初に見たが、その後でルイとタマモが認知するのも避けられることではなく。星空野シータが入院したことを俺はそれで知った。


『何で俺が?』


『私が会いたいから』


 ニュースやSNSでは星空野シータのことは何も言われていない。つまり重病の類ではなく、日々の仕事の疲れ。あるいはストレスか。いや、待て。俺もその責任の一端か?


『ちなみに病院は――』


 私立の総合病院だった。アイドルを匿うにはまぁ妥当ではある。そもそも見舞いに行く義理も無いのだが。


「マアジ」


「…………マアジ」


「お前らは本当によう」


 ルイとタマモの人の良さには俺自身が不安になる。ヲヒメの時もそうだったが、恋敵を放っておけないというか。七割五分くらいは俺の都合で他の女子と関係したりしているのだが、そのことを謝るたびにルイとタマモは許してくれる。仮に逆の立場だったら俺は毒入りスープで一緒に逝っている。


『見舞いの品は桃缶でいいな?』


『わーい。待ってる♡』


 というわけで、桃缶を買って、俺は星空野シータのお見舞いに出向いた。ちなみにだが桃缶を指定したのは俺じゃなくルイだ。勝手に返信して、そのまま星空野を喜ばせ、俺が撤回の言葉を考えたが上手い言葉が思いつかず。流されるままに桃缶を買って病院へ。


「星空野シータさんのお見舞いに来たのですが。久蔵と申します」


 さすがにトップアイドルにファンが面会するなどありえる話でもないので、先にナースさんには星空野から話を通してもらっていた。久蔵という人物が面会に尋ねてきたら、面会を許可するように、と。


「こちらです」


 一回ナースステーションの看護師さんが奥の事務室に引っ込んで、それから別のナースさんが現れて案内してくれる。個室だ。ここを一週間借りるだけでも一ヶ月豪遊できるだろう。まぁホシガリの事務所は金持ってるし。


「あ、やっほー。マネージャーさん」


「どうも。入院したってのも嘘じゃないらしいな」


「嘘つく理由がないじゃん」


「心配させる作戦かとも思ったが」


「さすがにそれだけのために私立の総合病院で個室は……ね?」


 だろうよ。


「どうかしたのか?」


 ナースさんが去っていった後、俺は桃缶を星空野に押し付けて、パイプ椅子に座った。一応の体裁で見舞いには来たのだがねぎらいの言葉も思いつかない。


「なんか。わかんなくなっちゃった」


「そりゃまぁそうだろうよ」


「なんのことだって聞かないの?」


「聞いてほしいのか?」


「まぁ、それは。愚痴る相手も欲しいし」


「じゃあ何のことだ」


「アイドルやってさ。これって誰かの期待に応える仕事でしょ?」


「まぁそうだな」


「私には何が還元されるのかなって」


「金。名誉。地位。承認欲求」


「まーそーだけどさー」


 即答するな、と星空野は批難気な目を向けた。


「そういうのが欲しくないのにアイドルになったのか?」


「欲しかったらなったんだよ。当たり前じゃん」


「で、十分手に入れたから、もう満足してしまったと」


「燃え尽き症候群かな?」


「単に理解しただけだろ」


「何を?」


「同じものを見ても、見上げた時と見下げた時の違いの差を」


「…………」


 アイドルを見上げると、栄光と王道に満ちた存在に見える。逆にアイドルを見下げると、媚びへつらいと嫉妬と金銭に満ちた現場に見える。アイドルとして高みに上った星空野シータが、今アイドル業界をどっちで見ているかなど、考えるまでもない。


「見上げたままが幸せだったのかな」


「さてな。俺はアイドルを見上げる側だから」


「オメガターカイト?」


「ああ、アイツらは最高だ」


「私が好きって言ってるのに」


 残念だったな。


「仕事はしばらく休みか?」


「ま、ね。直近だとドラマの仕事かな。途中で倒れちゃって。今頃監督が脚本書き直してるんじゃない?」


 できるだけ星空野シータの出番を減らしつつ、作品としてのクオリティを下げないように……か。


「っていうか、俺を面会に呼ぶのは事務所に許可取ってんだろうな?」


「まさか。怒られるから黙ってるよ」


 こっちも怒る気になれんな。


「で? ライブとかどうするんだ?」


「穴埋めにマネージャーが奔走してる。ま、五十人近くいるんだし? 私がいなくても回るよね」


「本気で言ってないだろ。お前」


「ま、ね。一応自分の影響力は理解しているつもり」


「自律神経失調症か?」


「分かるの?」


「ストレス抱え込んでいると真っ先に思いつく症例だろ」


「マネージャーさんの事ばっかり考えて仕事が手につかないんだよ?」


「そりゃ御光栄なことで」


「そのさ、本気で私に興味ない?」


「本気でお前に興味ない」


「私がお願いって言っても?」


「改めて聞くが……マジで俺に惚れてんのか?」


「…………………………………………うん」


 その途中の溜めはなんだ?


「マネージャーさんが好き。大好き。付き合いたい」


「他にいい男を捕まえろよ」


「えー。そんなこというと入院期日伸ばすよ?」


「また桃缶買ってきてやるから早く良くなれ」


「あ、見舞いはまた来てくれるんだ?」


「あんなに心配されるとなぁ」


「そこはこんなに心配されると、じゃないの? 人称間違ってるよ?」


 あんなに、で合ってるぞ。こんなには心配してないからな。ルイとタマモがあんなに心配しているんだ。俺に出来ることは渋々見舞いに来るだけ。


「ドラマは楽しみにしてるから。精々いい作品を作れよ」


「マネージャーさんが男優やらない?」


「大・却・下♪」


「いい考えだと思ったのに」


 そもそもどこの事務所にも所属してねーし。南無八幡大菩薩。


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