第203話:リンゴと杏子ともう一人
「よう。テスタメイト」
「佐倉くん。今日はよろしくね♪」
図書館にいる。そう連絡した俺は、ドライバーから迎えに来られて、そのまま防弾ワゴンに乗って、仕事場に運ばれる。今日のアイドルはリンゴと杏子。普通にグラビア撮影の仕事だ。総括マネージャーが出張る必要は無いのだが、是非にと社長に頼まれた。
「っていうかグラビアくらい一人で出来るだろ」
「マネージャーがいた方が話は早いし」
「お前は俺のテスタメイトだろう」
アイドル恋愛粛清仮面御法度リリンね。
「佐倉くんはイヤ?」
「嫌じゃないが、なんだかなぁって感じ」
嫌ではないが嫌な予感がする。ともあれ俺と杏子とリンゴを乗せたワゴンは撮影場所に出向き、そうして専属マネージャーと一緒に現場入りする。
「よろしくお願いします」
とだけ言って、俺は撮影の現場で孤立した。ルイやタマモならまだしも、リンゴや杏子レベルだとまだまだ個別撮影の機会は得られない。そのルイとタマモがこの前大勢の撮影に臨んだのは例外とも言える。俺は知ったこっちゃなかったが。
「星空野シータさん入りまーす!」
言われて、俺はピクリとこめかみを痙攣させた。
「星空野シータがこの撮影現場に来ているの?」
杏子は不可思議、と思っているらしい。
「テスタメイト」
リンゴの方は事情を知っている。だがソレを言うわけにもいかないのも渡世の義理で。
「どうする気だ」
「どうもしないだろ。とりあえず。二人は水着に着替えてこい」
そうして楽屋に向かう杏子とリンゴ。最初に撮影されるのは、もちろんトップスター星空野シータ。水着姿で、笑顔を振りまいている。そのまま順調に撮影は進み、そうして撮影が終わる。そのまま今度はスターガーリー51のメンバーが撮影に臨む。こういう時はプロダクションの力関係で撮影の優先度が決まるのだが。
「マネージャーさん♪」
撮影を終えた星空野シータが俺に話しかけてくる。
「何か用か?」
「ちょっとお茶しない? 奢るからさ」
「仕事があるんだが……」
「オメガターカイトとの撮影はまだ先でしょ? 抜け出す機会はあると思うな」
それはそうだが、俺から言えることはそう無く。
「じゃ、行きましょー。大丈夫。私持ちだから」
そういう問題でもないような。
「…………」
専属マネージャーはペコペコと俺に頭を下げていた。このまま星空野シータとお茶をしろということだろう。営業的に間違いではないが、俺としては不満があって。
「ほら、行くよ。マネージャーさん」
仕方ないので星空野シータとお茶をする。
「マネージャーさん。恋人はいないんですよね?」
「今のところなー」
虚偽の発言だが、オメガターカイトと関係していることをバレるわけにもいかないし。
「じゃあ私と寝よ?」
「却下だこの野郎」
ニコリと微笑んで、俺はそう言う。こいつは本気でどこまで行っているのか。
「いいじゃん。スターガーリー51のセンターアイドルが誘ってるんだよ」
「ホシガリには興味ないし」
「やっぱりオメガターカイト?」
「まぁ。そうなるな」
「マネージャーだもんね」
「箱推しだぞ」
コーヒーを飲みながら俺はそう言う。
「はーあ。私もエンタメプロに所属しようかな」
「来てくれるなら、別に拒否する理由は無いが」
「移籍金払える?」
「一円も払う気は無いぞ」
「じゃあ私が今の事務所を円満退職して、エンタメプロに?」
「そういうことをやると、会社同士の摩擦がな?」
「マネージャーさんは嬉しいでしょ?」
「全く嬉しくない」
「ホント?」
「間違いないね」
そもそも星空野シータの名前は大きすぎる。俺としても慎重に成らざるを得ず。その意味で星空野シータを引き抜きするのは会社としてはNG。
「はぁ。せめてお前が星空野シータじゃなければな」
「あー、酷い。まるで私が悪いみたいじゃん」
「悪いんだが」
「むー」
そうしてコーヒーを飲んで、俺は立ち上がる。
「じゃ、話をも終わったし」
「私は終わってないんだけど」
「要するに俺と寝てほしいんだろ?」
「そう」
「お断りします」
他に言い様がねえ。
「マネージャーさんは私に興味ない?」
「全く無いわけじゃないが、八割くらいは興味ない」
「それはそれで傷付くなぁ」
「残念だったな」
他に言い様がねえ。そうしてコーヒーを飲み干して、それから現場に戻る。星空野シータも普通に現場で笑顔を振りまいていて、それから俺は杏子とリンゴに労いの言葉をかける。今日は頑張ったな。グラビア撮影も良かったんじゃないか? そんな毒にも薬にもならぬ言葉を。
「私たちの撮影の時いなかったよね?」
「テスタメイト。どこにいた?」
「ちょっと営業の仕事をしていただけだよ」
別に間違ったことは言っていないしね。
「じゃ、撮影も終わったし。帰るか」
「それはいいけど。私。佐倉くんの家に行きたい」
「却下」
杏子以外のオメガターカイトのメンバーが同じマンションに住んでいるとか、どう言えばいいんだ?
なわけで、杏子を家まで送って、その後、俺とリンゴはマンションに帰る。
「マアジ~」
「…………マアジ」
今日は別の仕事があるルイとタマモが俺を出迎えた。もちろんリンゴには面白くないだろう。ソレを気にする俺でもないが。
「マアジ?」
キュイッと繊維が俺の首を絞める。
「何もしてないだろ」
「俺以外に優しくするな」
「御免被る」
俺はルイとタマモを愛しているのだ。それに虚偽を含むほど、俺は俺じゃなくなる。




