第198話:モトネとの会話
「まぁそう言わず」
引き続きパーティー会場。俺は好物のエビフライを食べつつ、どうにも異様な空気を醸し出している女子に相手をさせられていた。
「佐倉様。とでも呼べばいいでしょうか?」
「敬称はいらんが」
とはいえ面倒なのはその通りなので、名前を教える気はしない。
「マアジ様。の方がいいかしら?」
「…………」
何で知っているのか。警戒を強くするが、相手は苦笑した。
「散々自慢されましたよ。坐古乃キヤラ様に」
「ほう」
だいたい言われていることはわかったので、あえて質問もしなかったが。
「このホテルの出資に坐古乃コンツェルンは佐倉コーポレーションの十倍金を出した、と」
「間違ってないしな」
いまさら国内のホテルに一億出資することが理想的なのかは置いておくとして。
「お悔しくお思いではありませんの?」
「金を出した方が偉いのなら、それは市場の評価だと思うぞ」
仮に俺がサヨリ姉の立場でも一千万以上出資する気にはならないが。すでに歴史あるホテルの物件は差し押さえているし、今からできるホテルに出資する意味が分からない。新しいホテルというだけでコマーシャルは十分ではあるが、三年もすれば歴史のない高級ホテル以上のモノにはなり得ない。ましてパーティーをしようにも、佐倉マダイが出席しなければ財界人も集まらない。で、わざわざ一千万しか出資していないホテルをマダイが主賓のパーティーに使う理由がない。
「あまり坐古乃コンツェルンとは張り合っていないということですの?」
「ま、金持ってる方が勝ちっていうゲームは勝手にやってくれって感じ」
アグリ、とエビフライを食う。うーん。タルタルソースが美味い。
「で、お前は誰なんだ?」
「星空野モトネ、と言えば伝わるかしら?」
「……あー……あれ」
「どのことを指しておいでで?」
「星空野シータの姉だろ?」
「星空野シータがあたしの妹です」
同じ意味だろうが、と言いたかったが、あえて言わなかった。おそらくだがシータを下に見ている。それもホシガリのセンターアイドルを……だ。
「知っていますわよね?」
ニコリと圧をかけるような笑みだが、俺はカルパッチョを食べながら言った。
「知らん」
「あら、それは残念ですわ。よければこれから理解を深め合いませんか?」
「プレゼンなら聞くが?」
「ちょうどここはホテルですし。一室借りてしっぽりと」
「残念ながら」
ここはホテルの開業式典パーティー。一般人は入れない。ということは誰かの名刺で入ったことは自明の理。さっきの坐古乃キヤラの発言からすると、彼の招待である可能性が高い。そんな女を抱いてスキャンダルにでもなれば色々と面倒くさい。
「お話くらい聞いてくれませんか?」
嫌です。と言えればいいが、チラリと星空野シータの顔が頭をよぎった。
「お前のお願いは一切聞かない。その上で言いたいことがあれば、拝聴だけしよう」
「そんなつれないことを仰らないでください。あたしはちょっとお力添えを……」
どうせ佐倉財閥の力を借り受けたいとかそういう話だろう。
「あたしはもっと上に行きたいんです。そのために佐倉財閥のお力をお貸し願いませんか? 利益も用意しますから」
「俺が出来ることはそう無いぞ」
「そう難しい事ではありませんの。ただ佐倉財閥の力であたしをスターダムに上げてくれれば」
「無理」
俺は二文字で拒否した。というかマーケットとして不可能が正解か。これが星空野シータだったら事務所同士で移籍金のやりとりをして買うメリットがあるだろうが、星空野モトネでは魅力が足りない。
「あたしがいい思いをさせてあげますから」
「ノーセンキュー」
「じゃあ星空野シータだったら?」
「…………」
俺は眉を跳ねさせて沈黙した。ソレを脈ありと思ったのか。脂の乗ったモトネの舌がベラベラと動く。
「あの子もマアジ様のことを気に入っているみたいで。喜んで差し出しますわよ?」
酒も飲んでいないのに頭が痛い。
「それ。シータちゃんにも了解とってるか?」
「まだですけど。必ず取らせてみせますから」
「じゃあ先に言っておく。バカな真似は止めろ。お前じゃ役者不足だ。俺はシータちゃんのことを推してない。だからお前の交渉の材料に俺は何も言えない」
「あの星空野シータを抱けるんですわよ?」
「まったく興味がない」
それだけを俺は言う。とにかくコイツといることが不愉快だ。マジで頭痛がする。よくこんな姉を持ってあんな健気な性格になったものだ。星空野シータを今更ながら尊敬する。
「佐倉様。本当に確証してあげます。星空野シータをアナタのセフレにすると」
「俺が望んでねーんだよ」
「せめて私を買いませんか? 佐倉様にプロデュースを……」
「それは坐古乃に言え」
どうせキヤラとも寝ているだろうし。別に枕営業をどうこう言うつもりはないが、俺にも絶望と失望の差くらいは分かっていて。
「じゃ」
そうして立食パーティーの飯を食いながら、俺は星空野モトネから離れる。
「マ~ア~ジ~~~ちゃん!」
話を聞くのも億劫だったので場を離れたが、それで今度はサヨリ姉に捕まった。
「飲み過ぎだ」
「タダ酒だもーん。飲まなきゃアルコールに失礼でしょ」
ワインを飲んでいるらしい。まぁサヨリ姉はベロベロに酔ってハイテンションを維持しながらも二日酔いになったことがないというスーパーヤサイ人だったりするから、俺もあんまり心配していないんだが。
「マアジちゃんも飲もう!」
「未成年なので」
他に何も言えねえ。
「あーん。マアジちゃーん」
パーティー会場でブラコン全開にしなくても。ここにアユがいなくてよかった。アイツとサヨリ姉が俺を取り合って喧嘩すると、地球にクレーターが出来る。まぁさすがにサヨリ姉を殺しはしないだろうが、死ぬような目に合わせるという意味では五十歩百歩。ヒトリボッチの恐ろしさは、俺もまぁ知っていて。
「はぁ」
「ほらー。溜息をつくくらいなら酒を飲もう! アルコールは全部忘れさせてくれるよ?」
なんかピーターパンが大人にならない理由がわかった気がしないでもない。
「ところで星空野シータを事務所から買い取るとしたらいくらくらい出せる?」
「買いたいの? 星空野シータを?」
「いや、まったく。ただちょっと移籍金の概算を聞きたいだけ」
「そだねー」
高級ワインを飲みながら、ホケーッとサヨリ姉は考える。
「即金で三億。エンタメプロで稼いだ利益のニ十パーセントを還元ってところかな」
うわー。利回り悪……。それじゃ買うにも買えねーよ。まぁ買う気は無いんだが。




