第197話:ホテルでの式典パーティー
で、年度末に行われるホテルオープンを記念したパーティー。
「一人じゃ寂しい」
とか妄言を垂れ流すどこかの姉の計らいで、俺も参加することになっていた。佐倉財閥からは俺とサヨリ姉。それから父者である佐倉マダイの三人だ。会場では豪華な料理と酒を供されて。俺は未成年なのでオレンジジュースを飲みながら女子でもないのに壁の花を気取ってた。隅っこでジュースを飲みながら全体を見ると、まぁ苦笑の一つもするわけで。
「――――」
本来の主賓はホテルを建造したホテル王のはずなのだが、パーティー参加者がゴマを擦っているのは佐倉マダイだった。さすがにここら辺の影響力はホテル王では出せない領域なのだろう。お話をして佐倉マダイに好印象を持ってもらいたい。パーティー参加者の八割くらいはそんな思いが透けて見える。
「マアジちゃーん。飲んでる~?」
で、アルコールの回っているサヨリ姉が俺に話かけてきた。体質なのか何なのか。小気味よく酔ってはいるが、それでも理性は残した状態でサヨリ姉。
「飲むわけないだろ。未成年だぞ」
スキャンダルでも起こせば佐倉コーポレーションの株価に影響する。
「えー。つまんない。マアジちゃんも飲もうよ」
「成年になったらな」
他に言い様がない。
「ほらー。ロマネコンティもあるよー」
なんでも聞くに当たり年らしい。俺にとってはどうでもいいが。
「ほれ。財界人と挨拶するのもサヨリ姉の仕事だろ」
「面倒」
そう言わず。渋々と財界人とのあいさつに出向くサヨリ姉をヒラヒラ手を振って送り出し。それからまたパーティーで適当にだべる。ああ、早くルイとタマモに会いたい。おりあえずエビの刺身を食べながらそんなことを思う。
「やあ、佐倉マアジくん」
俺がエビを食っていると、芝居がかった言葉遣いで、誰とも知らぬ青年が声をかけてきた。年齢的に俺の幾つか上。高校生には見えないが、大学生かと言われると、それもちょっと疑問。だが酒を飲んでいるので二十歳以上ではあるだろう。多分としか言いようがないが。
「誰?」
俺の真っ当な意見に、男は頬を引きつらせる。
「まさかボクを知らないとでもいうつもりかい?」
「ああ」
顔が広い方じゃないし。財界人の顔なんて知ったこっちゃない。
「ではここで憶えたまえ。坐古乃コンツェルンの次期総帥。坐古乃キヤラだよ」
「ああ、あれ」
別段驚くほどでもなかったが、確かに大物と言われて間違いではない。
「じゃ」
関わるのも面倒なので、俺はそれで踵を返す。
「待ちたまえよ。ボクと面会出来るなんて、そうあることじゃないよ?」
さいですかー。顔を売りたいならアイドルにでもなれ。と俺が思っていると。
「なんでもこのホテルへの出資。佐倉財閥は一千万円しか出していないそうだね?」
「へー」
今知った事実。
「ちなみに坐古乃コンツェルンは一億出しているよ」
「へー」
それも知らなくていい事実。
「まぁ天下の佐倉財閥もちょっと落ちぶれちゃったかな? ボクとしてはこれで決着がついたと思うんだが、君はどう思う?」
「まぁ凄いですよね。坐古乃コンツェルン」
「そうだろう。そうだろう」
上からマウントを取るのはさぞ気持ちいいだろうけど俺には全く関係がない。
「これから日本を引っ張っていくのは坐古乃コンツェルンだと君も思わないかい?」
「思います」
反論の余地は幾らでもあったが、あえて摩擦を増やすこともない。
「ところで君、童貞?」
「まぁ。女性経験はありませんね」
これは本当。
「そっかそっか。それは可哀想に。じゃあボクが女を紹介してあげようか?」
「ノーセンキュー」
こんなところでそんな話をするなよと言いたいが、まぁ空気を読めないのか。あえて読んでいないのか。
「坐古乃コンツェルンはスターガーリー51のスポンサーでもあるんだ。気に入った子がいたら抱かせてあげるよ?」
「要熟考ということで」
相手をするのもバカらしく。俺はあしらうようにそう言った。
「ちなみに坐古乃さんはアイドルを抱いているので?」
「そりゃもう。ボクに媚びて番組に出たいアイドルなんていくらでもいるからね」
うわぁ。ドン引きだ。金の力で女を買ってるよ。コイツ。
「君も童貞を卒業したいだろう? ボクに任せればより取り見取りだよ?」
「あー、えーと、遠慮させていただきます」
「ホシガリのメンバーを抱かなくていいのかい?」
「間に合ってるんで」
そもそも童貞捨てる気無いし。
「ボクに任せればマジでどんなアイドルも抱き放題だよ?」
「興味ないっす」
だからあっさりと俺は言った。そもそも彼女いるし。抱いてないけど。
「ふーん? 意外と無欲なんだね?」
「そういう問題でもないような」
そもそもホシガリに興味ないし。
「まぁ童貞を卒業したくなったら言ってよ。お世話してあげるからさ」
「その時はよろしくお願いします」
とりあえず謝辞を伝えて、その場はお開き。俺はパーティーで適当に料理を摘まみながら、時間を潰していた。やはりこの場では佐倉マダイが最も影響力を持っているらしく。父者の御機嫌を取る財界人が多い。ホテル王としてはメンツが潰れるだろうが、それを顔に出すはずもなく。どころかホテル王そのものが佐倉マダイに媚びをうっていた。
「金持ちってのも大変だ」
俺から言えるのはそれだけ。別段だから何としか言えないわけで。
「モグモグ」
今度はエビフライを食べながら、騒がしパーティーをどう乗り切るか悩んでいたのだが。
「失礼してもよろしくて?」
今度は別の女子が話しかけてきた。
「…………」
死んだ目でそっちを見る。
「何か?」
俺の死んだ目で見られた女子が、俺を見て狼狽える。
「どこの財閥の令嬢だ?」
「どこの……ってわけじゃないけど。ちょっと縁があってね」
さいですかー。
「佐倉財閥の令息って聞いたけど?」
「間違ってはいないな」
そこは断言できる。
「ちょっとお話しない?」
「お断り申し上げる」
別に相手をするのはいいんだけど、面倒くさそうな空気がプンプンする。南無三。




