第195話:モールのイベント
「君が好き♪」
「愛してる♪」
「アイラブユーでラブミードゥー♪」
キャピッと微笑んで歌うオメガターカイト。いつものライブとちょッと違う。まぁ概ねは違わないんだけど。モールでのライブだ。爆売れしているアイドルには珍しいが、まぁこういうのも新規ファンの獲得に……なるよな? 多分。いつものオタ芸を打つわけにもいかないし、サイリウムを振るだけ。ただし七色に変色する仕様。
「おい。オメガターカイトってボーカル変わるたびに覚醒しねえ?」
「わかる。歌いたくてたまらないって感じ」
「やっぱりアイドルなんだなー」
正確にはボーカルの順番が来ると、俺のサイリウムがボーカルの色に変わるから……なのだが、そんなことを言えば磔刑だ。
「――――♪ ――――♪ ――――♪」
さらにパフォーマンスを発揮して歌い続けるオメガターカイト。俺も全力でサイリウムを振った。そうして大歓声の中でライブは終わる。
「ふぅ」
流れる汗を拭いて、やり切った応援に満足していると。
『どうだった?』
ルイからコメントが来る。
『超絶良かったです!』
『ありがと。嬉しいぞ』
『こっちこそありがとうござます!』
感動とはまさにこのことだ。
「佐倉氏。今日こそ感想戦を……」
「すんません。田中さん。今日はこの後用事が」
そうして消えるように俺は去る。周りの衆人環視もオメガターカイトに夢中だ。俺にはそれが誇らしい。やっぱりオメガターカイトは最高だ。俺が箱推しするに足るアイドルたちだ。これからも応援したくなるアイドルだ。
「~♪ ~♪」
さっき歌われたナンバーを鼻歌で歌いながら、俺は予約している焼肉屋に行く。総括マネージャーとして仕事はどうしたのかと言われると痛いのだが、俺にとってはファン活動が最優先。それにしてもルイは最高だったな。あの躍動的なパフォーマンス。まさにセンターアイドルと言わんばかりのカリスマだった。
そうしてモールを抜け出し、近くの駅まで。電車に乗ってそのまま目的地へ。そうして電車を降りて、そのまま抑えた焼肉屋へ。スマホを片手にドキドキしながら待つ。
『私輝いてたでしょ?』
『間違いないな』
杏子のコメントにも返信する。
『おにーさん。サヤポンは?』
『ぐうかわ』
『拙も拙も!』
『可愛かったぞ』
そうしてステージを引き上げたオメガターカイトは反省会をして、その後でこの焼肉屋に合流。とすると。
「「「「「「「お疲れ様でしたー!」」」」」」」
全員が揃って焼肉大会。オメガターカイトはそれぞれメンバーごとに。俺はマネージャー枠で参加していた。とはいえ仕事は何もしていないので、あくまでお飾りの参加。マネージャーさんたちに今日のライブのことを聞いたり。その程度。
「マネージャーさぁん♪ 今日のライブどうだったぞ?」
「さっきコメントで言ったろ」
俺はオレンジジュースを飲んで、肉を焼きながらそう言う。
「何度言ってくれてもいいんだぞ?」
「最高だった。さすがルイ」
「あぁん♡ ありがと♡」
ギュッと抱きしめられる感覚がしたので、俺は彼女の頭部を掴んで抑え込む。
「マネージャーさーん……」
「抱きしめるのは却下だ」
「あの。佐倉さん? ルイとは……?」
「仲がいいだけですよ。邪推は勘弁してください」
今はそういう他ないだろう。ビールを飲みつつ、今日のことを振り返る専属マネージャーたちの声に耳を傾けながら、俺はこれからのオメガターカイトに想いを馳せる。
「とにかくさらに上に……」
「しかしすでに飽和しているとも」
「圧倒的にスポンサーの限界が……」
生臭い話が聞こえてきた。アイドルとしての成功は間違いない。だがその上でオメガターカイトがスターダムになれるのか。そこを勘案するのがスタッフというもので。
「ふう」
俺は肉を食って、食休みに店の外に出る。
「お疲れみたいだな」
まだちょっと寒い三月の夜。俺がちょっとだけ休憩しているとリンゴが声をかけてきた。
「肉はもういいのか?」
「十分食った」
そりゃよかった。
「マアジは俺たちのマネージャーは苦労しているか?」
「嬉しいことだらけだよ」
「本当にそう思っているならいいんだがな」
「思ってるぞ」
リンゴの頭を撫でる。
「俺はお前をこそ慰撫したい」
「していいならしてくれ」
「あの後、星空野シータとはどうだ?」
「既に腐男子認定を受けている」
「ルイも悪いことをするな」
「まぁ今更だから、俺もどうでもいいんだけどな」
「たまに思うんだが、マアジはルイに甘いな」
「しょうがないだろ」
彼女なんだから。それはリンゴも知っていることで。というか杏子以外は知っていることで。
「そこで聞き耳を立てていてもスキャンダルは起きないぞ」
「あははー。バレてた?」
で、杏子が現れた。
「聞いていたのか?」
「リンゴと何かあるのかなーと」
「何もねーよ」
それだけは間違いない。
「コイツは俺のテスタメイトだからな」
ギュッと俺の腕に抱き着いて、リンゴがそう主張する。
「佐倉く~ん? それはどうなの?」
「俺は何もしてねーだろうが」
冤罪だ。
「リンゴも何してるの?」
「愛してる」
他の何に見える? そうとでも聞こえそうな声だった。
「むぅ」
「なんだ?」
バチバチと視線を交わしているとこ悪いけど、どっちも俺の女じゃないからね? 俺にはルイとタマモという最高の彼女がいる。ソレをここで言うわけにもいかないんだけどさ。




