第192話:不審者とは不審なるものを指す
「佐倉くん?」
平日。俺が親子丼を食べながら学食でだべっていると、二人掛けの席の対面に杏子が座った。
「何か?」
「この前イユリとデートしたって本当?」
「嘘だぞ」
「ネタは上がってるんだけど」
「じゃあ本当だ」
「罪悪感の欠片もなくコイツは……」
杏子の許可がいるわけでもないし。嘘をついたのは議論するのが面倒だったためだ。別に後ろめたいことは無いし。
「総括マネージャーが商品に手を出していいの?」
「お前。それブーメランだろ」
きっと戻ってくるだろうとかどうのこうの。
「私はいいの」
まったく良くは無いんだが。
「同人誌買いに行っただけだ」
「同人って……エッチな奴?」
「エッチな奴」
コックリ俺は頷いた。別段隠す趣味でもないし。そもそもBL本だったので、示威行為には使えなかったが。あくまでコレクション用。
「私がいるじゃん」
「だから何だよ」
「エッチなことがしたいならさー」
「口を閉じろ。風味が逃げる」
「でもマアジはエッチな女の子嫌い?」
「大好きです」
「ほら、その点、私は……あぁ!? 鼻で笑った!? 今!」
他にどのタイミングで笑えってんだ?
「ほらー。そこはだからー」
「春休みのモールのライブは楽しみにしている」
「黄色のサイリウム振ってね?」
「善処しよう」
というか、箱推しなので色の変わるサイリウムを振っているわけだが。
「パンツいる?」
「間に合ってます」
今日は仕事ないし。好き勝手にやってもらおう。まぁ期末試験も終わったわけだし。支障が無い程度には総括マネージャーの仕事もしているのだが。
「じゃな」
親子丼を食べ終わって、そのまま教室へ。杏子と別れて、そのまま教室でスマホを弄り。案の定、最近うるさい星空野シータからメッセージが届いて。特に誤魔化すこともなく、今日は学校にいると白状すると、『校門で待ってるね』と返ってきた。溜息。そのまま授業を受けて、下校時間。
「…………」
知った顔を見つけたが、関わるのも面倒なのでスルーすると足を踏まれた。
「おい」
「何か?」
「暴行事件だぞ」
「情状酌量の余地はあるでしょ」
まぁ一般的にはな。
「ちょっと付き合って」
「嫌だ♪」
軽やかに俺は断った。
「なんでよ」
「これから面倒が待ってんだよ」
「用事?」
「私用だがな」
「女?」
「間違ってはいない」
別に無視できるならそっちの方がいいのだが。
「それはこっちより優先すべきもの?」
「当たり前だろ?」
何を今更だ。
「あんたって……ジゴロだったりする?」
あながち間違っているとも言えず。
「そもそもお前とお茶して何が楽しいんだ」
「私は楽しいけど」
あ、そ。
「じゃあな。毒島さん」
「せめて校門くらい一緒に潜り出なさいよ」
「別に構いはせんが、文句は言うなよ」
「どういう意味?」
黙秘で。そうして昇降口で靴に履き替え。そのまま校舎を出て校門へ。
「やっほ。マネージャーさん」
で、スマホのメッセージにもある通り。星空野シータが待っていた。コイツもよくよく暇なのか?
「誰?」
「俺のストーカー」
「まぁ知り合いだよね」
星空野シータも頷く。良い方向に解釈しながら。
「警察呼ぶ?」
「いや。容認しているから刑事案件じゃないな」
「この人と待ち合わせていたの?」
「喫茶店くらいは寄るつもりだが?」
さっきから毒島さんの確認事項が多すぎる。星空野シータはグラサンとマスクをしているし、髪色も変えているのでバレてはいない。ただ、バレても別にいいだろうな、程度の覚悟は伝わってきて。
「ホテルとか行くの?」
「考えないでもない……程度だな」
毒島さんの邪推にまともに答えるのも面倒なので、あえて嫌われる言い方を俺はした。
「そもそも顔出して無いけど、怪しくない?」
「知り合いだし。顔見せるのもマズいしな」
「有名人ってこと?」
「左翼テロの首謀者」
心にもないことを俺は言う。
「な、わけで、ゴメンね。佐倉さんは貰っていくね」
俺の腕に抱きついて。星空野シータが毒島さんに頭を下げる。
「マジ? 佐倉……」
「お茶するだけだ。お前も友人とスタブに行ったりするだろ」
「ねぇ~え。どこ行く?」
既に彼女面が激しい星空野シータが俺に抱き着いて行き先を聞く。その俺と星空野シータのイチャイチャを呆然として眺めながら、毒島さんは目を離さないらしい。相手がスターガーリー51のセンターアイドルだとは知らないだろうが。それでも女子が俺と仲良くしているのに、何かを思っているらしい。勘案する気は無いが。
「佐倉が……マジで?」
ポツリと呟く毒島さん。とはいえ、そもそも彼女は俺を嫌っているだろうし、寝取られとかそんな感情はないだろう。あくまで非モテの俺に近づく女が珍しい。それだけのはず。




