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推しのアイドルが所属しているグループのメンバーが俺の家に入り浸る  作者: 揚羽常時


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第190話:その者、人でありながら修羅


「は、はわわ~♡」


 キラキラした瞳で俺を見ているのは、八百イユリ。今の俺はゴスロリに身を包み、女性用の化粧をして、ついでにウィッグを被っていた。ガチの女装だ。そもそも八百イユリとも女装した時に出会ったので、その意味では宿命というかエンカウントの皮肉さというか。今日は少し前の即売会に行けなかった同人誌がオニメイトに卸される日。俺は修羅となってその場に臨むつもりだ。その同人誌の都合上、イユリとも一緒にということになって。じゃあ女装するしかないデスよね? というイユリにサムズアップ。そうして俺はサークラちゃんになった。


「お姉様ぁ!」


 ウィッグに櫛を通し、ゴスロリに着替え、化粧が完成してサークラちゃんになるとイユリが飛びついてきた。


「やりましょうデス!」


「却下で」


 いいからどけ。重くはないが生産的でもない。


「うへへへへぇ。お姉様~♡」


 俺のガチ女装は結構レベルが高いらしい。少なくとも性的にマイノリティなイユリが本気で惚れる程度には。


「ほら、行くぞ」


「手を繋ぎませんデスか?」


「まぁやってもいいんだが……」


 チラリ、とルイとタマモの顔が浮かんだ。


「やめとこう」


「じゃあ拙から聞くデス」


 ルイたちには今日俺とイユリが修羅になることは言ってある。イユリの性質上、ルイとタマモも他のメンツよりは彼女を警戒していないらしく。そもそも自分たちが性的にイユリに見られているということに困惑はしても否定はしていない。だから俺と一緒でいいのかというテーゼもあるにはあるが。


「大丈夫デスって!」


 ルイからお許しを頂いて、俺とイユリは手を繋いだ。柔らかく、細く、すべすべしている。


「ちょっと照れるな」


「お姉様とデート♡」


 断じてデートでは……あるかもしれないけど。そうして駅で電車に。朝の最中にゴスロリに身を包んでいる美少女(語弊)がいることに社内の人間が驚き、さらに可愛い女の子と手を繋いでいることに驚いている。イユリは眼鏡をかけて、髪色を変えている。このまま注目を集めるのも問題だということで、俺から提案した。


 で、オニメイト。


「ほわー。並んでいますデスね」


「さすがに今回の同人誌はなー」


 人気サークルだ。即売会で買うのが妥当だが、俺たちも暇じゃないのでこういう形にはなる。


「ちなみにお姉様の今一番推しているカップリングって?」


「網膜と網膜認証かなー」


「高度デスね」


 冗談のつもりだったんだが。周囲には腐女子がたむろしており、その中に俺が紛れてもバレてはいない。木を隠すなら森の中。そもそも俺は森に隠れる木か?


「むしろ美少女過ぎて尊い」


「お前にだけは言われたくないんだが」


 八百イユリより可愛い女子なんて探す方が面倒だ。で、二人で手を繋いで待っていると。


「ねえ、見て。あの二人……」


「超イケじゃない? 手、繋いでる」


「百合? お姉様?」


 俺とイユリを、そういう目で見る女子一同。まぁこれくらいは税金だろう。


「お姉様は可愛すぎます」


「そういうお前もな」


「「「「「尊い~♡」」」」」


 さすがにオニメイトに目的の同人誌を買いに来ているだけあって、周囲の女子も理解はあるようだった。そうして開店。怒涛のように、かつ洗練された動きで列が進み、そのままこの前よりは早く同人誌に辿り着き。俺もイユリも同人誌を買えた。ある意味で、この前の同人誌の売り切れに俺とイユリが居合わせたのは奇跡だったのだろう。そうしてそのまま会計。戦利品を手に、アキバのメイド喫茶へ。


「はー♡ はー♡」


 目的の同人誌を手に入れた感動も一入だが、それよりイユリは俺に熱視線を向けていた。


「何も出んぞ」


「母乳も?」


 出たら怖いだろ。


「帰ったら一緒に読みましょうね」


「ノーセンキュー」


 俺は一人で読む。こういうのは感想を共有するくらいでいいのだ。


「お姉様のいけず」


「とりあえずお茶だ」


 正気を疑う名前のケーキセットをそれぞれ頼み、明らかに薄利多売を思わせるケーキと紅茶が届いて。だがそんなことは百も承知なメイド喫茶でメイドさんに紅茶を混ぜ混ぜしてもらい。


「今日のことは思い出になりました」


「ここの同人サークルは人気だしな」


「そうじゃなくて。お姉様とデートデス」


「ま、これくらいならいつでも」


「でも、ほら、お姉様ってルイとタマモを想って、拙たちにはちょっと距離取ってるでしょ?」


「それは……まぁ」


 バレるよな。やっぱり。一緒のマンションに住んではいるが、コミュニケーションに障害が残らない程度にはルイとタマモを優先している。


「だからこういう機会が嬉しいんデス」


「俺が何とも思っていなくても……か?」


「本当にそうなら拙は惚れていませんよー」


 いまさら言わせるな、とイユリがケラケラ笑う。


「でも本当に女装したお姉様は素敵デス。アイドルになりませんか?」


「顔を売るつもりはねーよ」


「勿体ない。エンタメプロの社長に持っていけば一発デスのに」


「社長の胃薬が増えるだろ」


「でも収益も増えますよ?」


 言うほどか。まさかオメガターカイトに入るわけにもいかないし。他のアイドルとの連携も難しいだろう。多様性が叫ばれる昨今でも、女装が社会的に肯定されるわけじゃないのだ。俺が男の娘だっていうのは認めるが。


「今度のグラビア撮影にお姉様も写るとか」


「水着着れねーだろ」


「そこはパレオで隠して」


「胸は?」


「詰め物と画像編集で」


 思う限り最悪だった。


「本当にお姉様は可愛い。推し。大好き。愛してる。今夜は拙の番デスよね?」


「女体化するのもそれはそれで肉体に影響って出ないのかね?」


 サキュバス。サヤカのオーバリズムについては不思議なことが多すぎて、現実でどういう効果を及ぼすのかはブラックボックスなのだ。まぁアユほど強烈なオーバリズムじゃないので、あくまで研究は佐倉財閥の管理下にある研究チームに一存してるわけだが。


「いっぱい楽しみましょうね? お姉様のドSっぷりには拙は期待してるデス」


 えーと。マジで言ってます?


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