第181話:マシュマロの真意を聞く
「くあ……」
週末が終わって月曜日。色々と問題は頻出したが、それはあくまで俺の話であって、学校に何ら支障が出るわけでもない。というわけで容赦なく三学期のラストスパートは行われ。春休みに入るまでは怠い学校生活も続くというわけだ。
「やっほ。佐倉くん」
欠伸をしながら歩いていると、金髪の女子が俺に話しかけてきた。まぁ学則違反でない金髪が早々いるはずもなく。
「おはよ」
俺も怠そうに返す。
「お疲れみたいだね」
「土曜日はハッスルしたしな」
「ちゃんと黄色のサイリウムも振ってくれたね」
見てたのか。まぁそうだろうな。っていうかオメガターカイトは全員俺のサイリウム見てたしな。ホワイトデーライブでの話。
「ルイとタマモのグラビアはどうだった?」
「順調。さすがプロって感じだな」
鬼喪イゾウの問題が解決した後も、俺はサヨリ姉のワガママでオメガターカイトの総括マネージャーを続けている。とはいえ学業とトレードオフをするつもりは毛頭ないが。
「私の時も同行してね?」
「スケジュールが合えばな」
一応コイツにも今の俺は箱推しだと言っているが、中々へこたれない奴だ。俺が推してくれないとパフォーマンスが落ちるとか言っているが、そこはプロの仕事。ライブでもちゃんとやっていた。どっちかってーとさらにパフォーマンスを上げるために俺の推しが必要だという話だろう。
「角夢さん。おはようございます」
「おはよー。角夢さん」
女子の二人が俺の隣……今更言うまでもない杏子に声をかけていた。
「はい。おはようございます」
ニコニコ営業スマイルで挨拶を返す杏子。ちなみに俺が隣歩いていていいのかって話はあるが、そこは黙認されている。同中だから仲がいいという言い訳が成立しているらしい。まぁ実際に同中だし。そうして校門を超えて。昇降口。クラスが違うので、そこで別れる。そうして教室にいき、いつもの如く友人がいないので、教室の誰とも挨拶をせず教壇前の席へ。それからスマホを取り出してオメガターカイトの情報を集める。マネージャー権限でタレントのスケジュールは知っているが、エゴサというかオメガターカイトのサーチをするのは俺の本能だ。
「じゃ、授業始めるぞー」
もうちょっとで春休み。頑張れ俺。と思いながら授業を受ける。そして昼休み。マーボー丼を頼んで学食で食べる。放課後はオメガターカイトのダンスレッスン。あとボイトレ。俺が見ていても結果は変わらないが、見ていたいのでマネージャー権限を発動。防弾ワゴンで送迎してもらうことを確約させ、まぁ後は普通に杏子と一緒だろうな。まぁ乗り合うタイミングは普通にずらすわけだが。
「失礼するわね」
「ダメだ」
降りかかった声に俺が拒絶したが、声の主は何食わぬ顔でテーブルにお盆を置いた。今日はビビンバらしい。
「ダメっつったよな?」
「許可を得るために聞いたわけじゃないし」
あくまで失礼するからすみませんね程度の言葉だったらしい。今更席を立っても新しい席を見つけられるわけもなく。仕方ないので二人掛けの壁側の席で、俺は毒島さんと飯を食う。
「お前も悪趣味な野郎だな」
「恨んでいるから責任取ってくれる?」
「自業自得だろ」
「ま、あんたならそう言うわよね」
フンと鼻を鳴らして、尊大に毒島さんは言った。
「角夢とは仲いいわけ?」
「同中だしな」
顔見知りという意味ではその通りだ。
「で、下着を盗んだと」
「そういうことになる」
「なんで?」
「認めたくないものだな。自分自身の若さ故の過ちというものを」
「あんたも苦労してんのね」
「お前ほどじゃない」
学校全体から引かれているという意味で、たしかに俺と毒島さんは同じ立場ではあるが。
「で、言い訳は考えてきたの?」
「浮気なんかしてないぞ」
「恋人いないでしょうし」
「悪かったな」
いるんだよ。二人ほど。
「私のチョコの十倍返しは何のつもり?」
「はぁ?」
何言ってんだお前。そんな表情を取り繕った。
「高級なマシュマロをわざわざチープな包装に詰め直して何がしたかったのよって聞いてんの」
「ああ、わかったのか。結構舌いいんだな」
「最初は気付かなかったわ。父親がデパートの高いマシュマロ買ってきてさ。それ食べて。アンタの方が美味しいじゃんって言うのが家族の総意」
「味比べか。それは想定していなかったな」
「私の御機嫌とって何したいのよ?」
「もちろん嫌がらせ」
「バレンタインの十倍返しが?」
「ホワイトデーは期待するなって言っておいただろ」
「だからってこんな感じで裏切らなくても」
「ま、チョコは嬉しかったし。童貞男子としてはそこそこ対応ってものがあるだろ?」
「私のことが好きなの?」
「全く一切」
「せめて口ごもったりしなさいよ」
「好きな奴がいるので」
「初恋は実らないらしいわよ」
「中々ねー」
「角夢だったりする?」
「中々ねー」
「ま、わかったわ。嫌がらせで十倍返ししたのよね?」
「揶揄うって意味ではな」
「それで私がどういう感情を持つかまでは考えていないわけ?」
「嫌われるのにはなれているしな」
「全くこの男は……」
呆れたように、毒島さんは吐き捨てた。
「…………ボソボソ(あんなことされたら惚れるじゃない)」
「何か言ったか?」
「地獄に落ちろって言ったのよ」
「まぁヤマの文帳には悪行がびっしり書かれているだろうよ」
色々やらかしてるしなぁ。
「じゃ、俺はこれで」
マーボー丼を食べ終えて、去ろうとすると、毒島さんが足を踏みつけた。抗議の目で見ると彼女はニッコリ笑ってる。「いいから付き合いなさいよ」という視線と表情だった。




