40 オーティナティック実況(10)
ランは礼拝所にいた。
彼女と一緒にマリアさんやその他の大人たちも一緒にいる。この集合シェルターの成人全員が集まっているのだと思う。
俺はバレないように中の会話を盗み聞きする。
「まずはあたしから報告させてもらうわ」
「お願いします」
「地上のオーディンは前に見た時よりも強くなっていたわ。もはやあの一番弱いオーディンでさえ、あたしだけじゃどう頑張っても倒せないでしょうね」
「嘘だろ、そんな……」
彼女の報告にほかの大人たちがざわついている。
「それじゃあ、息子の仇を取ることはできないということなのか………」
何人かの男性が涙を堪えている。いったい何があったのだろう。
その様子を見て意気消沈するランの肩をマリアさんが叩いている。
「みんな、ごめんね……」
「大丈夫、ランちゃんが謝る必要はないのよ」
「でも、マリアさんだって亡くした息子さんの仇を取りたいはずじゃないんですか?!」
「そうね、確かに今もその気持ちは変わらないわ。仇をとったって息子は戻ってこないのにね。それでも昔よりは自分の中で折り合いをつけれているつもりなの。だからそんなに無理しないで」
彼女たちはそう言ってひしと抱き合っている。
さて、俺はここからどうするべきなのだろうか。
【時の止まった思い出たち】を確認する。
〈会話を聞いたら、ランとマリアに話しかけよう〉
こういうシリアスの空気の中に入っていくのは遠慮したいが………
俺は一度深く呼吸をして、覚悟を決めた。
「皆さん、話は聞かせてもらいました」
俺は出来るだけ堂々と彼らの前に姿を現した。予想通りランやマリアさんが驚いている。
「Neoさん、どうしてここにいるわけ?!」
「ごめんね、ランの様子がおかしかったから、後をつけてきちゃった」
「そう……ちなみにどこから聞いてたの?」
「『まずはあたしから報告させてもらうわ』のところからだよ」
「ほとんど初めからじゃない……」
俺はランと目線を合わせる。
NPCと話す時は相手の目をよく見る。この動作をすれば好感度が上がりやすくなることが多い。自分で編み出したNPCとの対話術の必須スキルだ。
「よかったらわたしにその話を聞かせてくれる?」
「あんたはこの集合シェルターと何の関わりもない部外者でしょ。安易に事情を喋るわけにはいかないわ」
「ランちゃん、待ってくれ。Neoさんは軍人なんだろう?じゃあ一回話だけでも聞いてもらおう」
ランは難色を示していたが、一人の男性が事情を話したいと言い出すと、彼女はしぶしぶといった様子になった。
「もう、仕方ないわね」
「よろしく頼みます」
彼女はどこか遠くを見つめるようにしながら語り始めた。
「3年前、このシェルターから3人の男性が巣立っていった。あたしは当時幼かったけど、大人たち全員が浮かれていたからよく覚えているわ。彼らは3人とも連合軍に所属したの。でも程なくして、彼らはオーディンとの戦いで敗れて死んだという知らせが入った。当然シェルターには悲しみで埋め尽くされた。それからしばらく経ったある日のこと、このシェルターの近くに強力なオーディンが住み着いたの。そいつをよく調べてみるとかつてここから巣立っていった彼らを殺した機体だということがわかったわ。そしてあたしたちはそいつを討伐するべくずっと動いてるってわけ。こんな個人的な復讐のために軍に頼るわけにもいかないしね」
俺はその話を聞くと何も言えずに黙っていた。
「ごめんね、なんか変な雰囲気にさせちゃって」
「いえ、こちらこそ嫌な記憶を思い出させてしまって申し訳ありません」
このゲームはストーリーが重すぎる。
NPCであるはずなのに同情してしまう自分がいる。いや、こういうストーリー系のゲームにおいて感情移入できるというのは最重要なことかもしれない。
「その復讐に軍人として、また一人の善良な国民としてわたしが手伝えることはないでしょうか?」
「本当か?あの、憎いオーディンを倒してくれるのか?!」
一人の男性にギュッと手をつかまれる。きっと息子を亡くしたという父親の一人なのだろう。
「はい、きっと倒して見せます」
「本当に倒してくれるのか?」
「もちろんです」
「ありがとう…………」
その男性はとうとう泣き出してしまった。堪えるようにしゃくりあげている。
彼を慰めていると、マリアさんが近づいてきた。
「巻き込むような形になってごめんなさいね」
「いえ、これはわたしが自分から首を突っ込んだことですので」
「まぁ、それならいいんだけど……」
「本当に気にしないでください。軍人として市民の居住地の近くにオーディンがいるという事実は見過ごせません」
「そう……あなたが本当にやつを倒してくれたら、息子も少しは報われるかもしれないわね」
マリアさんはそう言って顔を伏せた。
どうやら彼女は息子を殺された親の一人らしい。
「マリアさんも息子さんを………?」
「えぇ、そうよ。3年前軍に入って世界に平和をもたらすと息巻いていたあの子を今でも思い出せるわ」
「やっぱりそうだったんですか……」
「夫とはそりが合わなくてね。息子が幼い時に彼はこのシェルターから出て行ったわ。知り合いのところに行くと言ってたような気もするけど、今ではどこで何をしてるのかさえさっぱりわからないの」
「それで…………唯一の家族を無くしたというのはさぞお辛かったでしょう」
俺がそういうと彼女はそうですねと遠いところを見るような目をしながら呟いた。
本当はクリアだけを目指すつもりだったが仕方あるまい。ここまで来たらこのストーリーイベントを楽しんでやろう。
このまま無視するのも後味が悪すぎる。
オーティナティック実況もついに10話になりました!フィナーレまでを書こうとすると軽く100話ぐらい必要なんで、中途半端なところて終わらせるつもりです。ご容赦くださいませ




