5コマ目 神子とハイキング
それから一月半、夏も間近に迫る頃。
『終わったぁ~!』
四時間の授業も終わり、修也はんーっ、と伸びをしている。
「はい、修也くん。お疲れさまでした」
「おつかれさま、でした!」
修也は有の言葉に続いた。
字も完璧になり、話すほうもだいぶ成長してきた修也だが、まだ聞きとる方が少し苦手なようで会話の際はまだまだ日本語で行う事が多い。
『今日はかなり進んだね』
『うーん、おかげで頭がパンクしそうだよ』
修也のその言葉に、有は一つ提案してみた。
『明日気分転換にハイキングにでも行ってみない?聖水も新しく貰ったばかりだしね』
『ほんと?外に出ていいの?』
修也はキラキラと目を輝かせた。
『騎士の人についてきてもらえば、行けると思うよ。後で聞いてみるね』
「というわけなんですけど、行けませんか?」
ちょうど警備をしていたウェルヅを捕まえると、有は経緯を話して、連れて行ってもらえるよう頼み込んだ。
騎士の人に少なくとも一人にはついてきてもらいたい。
滅多にいないが、もし聖水を恐れない強い魔獣が出てきた場合、有だけでは絶対に修也を守りきれないからだ。
それを聞いたウェルヅは少し考えてから答えた。
「すみません、私では判断しかねます。ジズ団長は出払っていますので、シュヴァイ副団長に伺ってみましょうか」
それならば、と早速ウェルヅと共にシュヴァイの部屋へと向かった。
コンコン
「どうぞ」
「失礼致します」
部屋に入ると席について書類に目を通しているシュヴァイが顔を上げてこちらを見た。
「これはユウ様、どうなさいました?」
「実は――」
そして次の日、シュヴァイとウェルヅが同行してくれるという事で、有達は城門へと集まっていた。
なぜかいつの間にかジズが増えている。
ちなみに有も修也もほぼ手ぶらだ。
任せて下さいとウェルヅが携帯食料などが入ったリュックを背負ってくれているのだ。
「それでユウ様、どちらの方に向かわれるのですか?」
「西の森の奥の川の方まで行こうかなと思います」
それを聞くとシュヴァイは分かりました、と頷いた。
「よし、じゃあ行こっか、修也くん」
「いこー!」
張り切る修也と共に、有達は街を抜け、西の森へと入っていった。
有達が森に入ってから一時間ほどが経過した。
途中食べられる果実を見つけて木に登ったり、アルガナペスタという耳の生えた蛇の様な生き物を観察したりして、自然豊かなハイキングを満喫していた。
ちなみにこのハイキングは修也の勉強の一環も兼ねていて、色々な動植物を見つけては、その名前を教えている。
「ユウ先生!あれは?」
修也は興奮した様子で森の少し開けた、白い花が群生している場所を指さした。
示されたその場所には、ピンク色の羽をもったウリボーのような生き物の群れ。
有のセーターをやたら気に入っていたあの生き物だった。
ただ、当時有が見かけたものよりも二回りは大きい。
「あれはランピィ、だよ」
「ランピィ・・・」
「そう、温厚な草食の生き物で特にあのサフィアレスカの花が好物なんだよ。神獣だっていう説もあるね」
「しん、じゅう?」
初めて聴く単語に修也は首を傾げる。
『神獣のことだよ』
『へぇ・・・神様と関わりある生き物なの?』
修也はジッと少し離れた所にいるランピィを見ていた。
『うん、そういう説があるんだ』
『ふーん・・・すごいんだね』
そういう修也は神子なのだが、敢えてそれは口に出さないでおいた。
するとジズが修也に理解できるように少しゆっくり目に言葉を発した。
「ランピィは本当に大人しいですから、撫でる事もできますよ、神子様」
その台詞を理解した修也は眼をキラキラさせてジズを見た。
「ほんとう!?」
「ええ、行ってみますか?」
「うん!」
修也は本当に嬉しそうにしており、頬を少し上気させて興奮していた。
その修也にジズの顔がデレッとだらしなくなっているのには、三人とも見て見ぬ振りをするのだった。
ランピィの群れに近づいた修也はしゃがみ、恐る恐るその頭に手を伸ばした。
毛並みに沿うようにその手を動かしていく。
『わっ、すごい、スベスベしてる!』
始終感動しっぱなしの修也を微笑ましく見ていると、他のランピィ達が撫でて欲しそうに修也にすり寄っていく。
『わ、何?何?』
いつの間にかランピィに囲まれた修也は少し慌てたが、それ以上特に何もしてこないと分かると、楽しそうに他のランピィ達を撫でた。
「すごいですね、ランピィがあそこまで懐くとは。やはり神獣だという説は本当なのでしょうか」
シュヴァイはどこか分析するように、ランピィに囲まれる修也を見ていた。
「そうかもしれませんね」
有は白い花とランピィに囲まれて笑顔いっぱいの修也に、連れてきて良かったな、と思っているのだった。
しばらくそこでランピィと戯れた後、有達は目的の川へと歩を進めた。
それから十分ほどで目的の川へとたどり着いた。
木々の隙間から日を浴びてキラキラと光る川面に目を細めながら、有達は川縁を下りて水際へと立った。
川は深い所で腰ほどまであるようだったが、流れが非常に緩やかで、また透明度が非常に高く、底に溜まった石までハッキリと分かるほどだった。
『すごいきれい・・』
『本当にね。ここの川は初めて来たけど、ここまで綺麗とは思わなかった』
有は川の水を両手で掬い、口を付けた。
『うん、冷たくておいしいよ』
渇いていた喉が潤されていく。
修也も有を真似て、水に口を付けた。
『ほんとだ。ねぇ、ユウ先生』
『どうかした?』
『一緒に泳ごうよ。ここまで来るのに汗もかいたし、絶対気持ちいいと思うんだ!』
修也の提案に、有は確かにと思った。
夏に差しかかって、気温も高くなってきた。
その上体温も上がり汗をかいている今なら、さぞかし気持ち良いだろう。
『そうだね、じゃあ泳いじゃおっか』
有と修也は靴、そして上の服を脱ぎ畳み、近くの岩の上にそれを置いた。
その事に驚いたのは後ろに控えていた騎士二人だった。
「み、神子様!?」
「んなっ、何をしていらっしゃるのですか、お二人とも!?」
「いえ、少し泳ごうかな、と。・・・ダメでしたか?」
呼びとめられて振り返った二人に、ジズとシュヴァイは眼を逸らす。
「いえ・・・ダメでは、ないのですが」
「あ、皆さんも泳がれます?」
そう有が聞くと眼を逸らしたまま、否と返答が返ってきた。
どうしたのだろうと思っていると、ウェルヅが一歩前に出てニコリと微笑んだ。
「私たちは此処で警備をしていますので、どうぞお二人でお楽しみください」
有と修也はその言葉に有難うございますと返事を返すと、さっそくズボンを脱いで川へと入っていった。
さすがに恥ずかしかったので下着は付けたままにしている。
「み、神子様の裸体・・・ッ」
「ユ、ユウ様、肌白いし腰細・・・ッ」
ジズとシュヴァイが鼻を押さえて、悶えていたことには気づかず楽しむ二人。
そして上司二人を呆れた様子で眺めるウェルヅ。
明るい笑い声が森の奥まで木霊していた。




