紅葉の巨人郷
冷たい北風の中、鮮やかな紅葉に彩られた街並みを歩きながら、カイトは何度も上を見上げていた。
すれ違う大人のほとんどが、見上げるような巨体なのだ。子供ですらカイトよりも大きい。
(平均して250センチ……デカい奴だと3メートル近く……280センチはあるぞ。ボブもかなりデカかったが、フレームのスケールが違いすぎる……!)
彼らは「巨人族」と呼ばれる人々だった。豊かな体躯と圧倒的な筋力を持ちながらも、種族的に魔法適性がないことと「デカすぎて不器用」「建造物を壊す」という理由で、王国の辺境であるこの地に追いやられているらしい。
カイトが感心しながら街の大きすぎる建築物を眺めていると、豪華な馬車が目の前でピタリと止まった。中から降りてきたのは、この北の領地を治める人間族の領主・オリオン卿だった。
「おお……! やはり噂に聞く『ベースボール』の伝道者、カイト殿ですな?!」
「え? 俺のこと知ってるのか?」
「もちろんですとも! レプス領での魔法騎士団との親善試合、私も現地で観戦しておりました! いやぁ、素晴らしい手腕でしたなぁ!」
オリオンは興奮気味にカイトの手を握りしめると、そのまま自身の豪華な屋敷へと招き入れた。温かいキノコスープと肉料理でもてなされながら、領主は切実な表情で本題を切り出した。
「実はカイト殿……貴殿におすがりしたい儀があるのです。この地に住む巨人族たちのことでしてな……」
領主の説明によれば、この領地に住む巨人族は大きくふたつの部族に分かれているという。
東の山沿いに住み、緑色の服と鹿の白い角のアクセサリーを身につける部族。 西の海沿いに住み、紫色の服と金のアクセサリーを身につける部族。
「彼らは何がきっかけかも分からぬまま、もう70年も抗争を続けておるのです。しかも、半年に一度、領地の草原で大規模な衝突をするのが定例となっておりまして……」
「半年に一度の殴り合い……」
「ええ。次の抗争まで、ちょうどあと3ヶ月。お願いですカイト殿! あの者たちに『ベースボール』を教え、血を流す大喧嘩ではなく、スポーツとやらでその決着を平和的につけさせてはいただけないだろうか!?」
頭を下げる領主に対し、カイトは顎に手を当てて思考を巡らせた。
(70年続く謎のイザコザか……。確かにスポーツで決着をつけるのは賛成だ。だが……)
カイトの脳裏に、先ほど街で見かけた巨人たちの立ち姿が浮かぶ。
平均250センチ以上の圧倒的な高身長。丸太のように太い腕と、長いリーチ。そして巨体を支える力強い大腿四頭筋。
(……待てよ。この体格とスケール感、野球で活かすのも悪くないが……この『高さ』と『長さ』を100%爆発させられる競技が、他にあるんじゃないか?)
カイトの目がニヤリと鋭く光った。
「オリオン様。ベースボールも最高ですが……彼らのあの肉体を最も輝かせ、観る者全てを熱狂させる最高の競技があります」
「ほう……!? ベースボール以外にとおっしゃいますと?」
「ええ。コートの両端に高いリングを吊るし、球を奪い合って投げ入れ合う——その名も、『バスケットボール』です!」
カイトがペーパーナプキンにコートの図を描き、空間を立体的に使う「バスケ」のルールとダイナミックさを熱弁すると、領主は目を輝かせて膝を叩いた!
「素晴らしい! 空間を飛翔する巨体……想像しただけで胸が躍る! それでいきましょう!両部族への説得は任せてください!」
こうして、決戦までの3ヶ月間に及ぶ「特別プロジェクト」が発足した。
◇
カイトが提示した指導体制とルールは以下の通りとなった。
1. 3ヶ月間の指導 : 決戦までの3ヶ月間、カイトが週替わりで「東」と「西」のチームを交互に訪問し、基礎体力・戦術・身体操作を直接指導する。
2. 当日のヘッドコーチ : 試合当日の指揮は、ルールとある程度の戦略をカイトから学んだ領主の娘たちが務める。
- 西(海沿い)チームヘッドコーチ:領主の長女 メイサ
- 東(山沿い)チームヘッドコーチ:領主の次女 アルニタ
3. 当日の審判:厳格かつ中立にジャッジを行うため、主審はカイト、副審は領主に仕える退役魔法騎士団隊長の執事・ゴードンが務める。
「よし、決まりだな!」
カイトは腕を組み、笑みを浮かべた。
「巨人のパワーと高さを最大限に引き出す、最高の3ヶ月にしてやるぜ!」
紅葉が舞い散る北の地で、異世界初の「バスケットボール決闘」に向けた熾烈な特訓の幕が、静かに上がろうとしていた。
(第10話へ続く)




