【二章:バスケ編】啓示と、芽吹く白球
「——久しぶりねカイト! 一年間ご苦労だったわ!!なんとか村への大虐殺は免れたようね!!」
頭の中に直接響くキンキンした声で、カイトは目を覚ました。
まぶたを開けると、夢の中の神聖な(?)空間で、1年ぶりに見る勝利の女神ニケが偉そうに喋りかけてくる。
「ところでカイト!私の神殿は? 勝利をもたらした私の偶像はどこに行ったのよ! 筋肉モリモリのアメリカ人の像なんか祀らせてんじゃないわよ!」
「うるせぇなぁ……あれは村人たちの熱いリスペクトの形だろ。ベーブ・ルース神は諦めない心の象徴になったんだよ」
「ルースはまだ神じゃないって言ってるでしょぉぉ! ハァ……まぁ、もういいわ。とにかく、次よ次!汝に次なる『勝利』の導きを与えるわ!」
ニケは胸を張り、ピシッと北の方角を指差した。
「ここから地続きの北の地……そこには強い身体を持ちながら、長年不毛な争いと理不尽に苦しむ魂たちがいるわ! 今すぐそこへ向かい、今度こそ私に『戦の勝利』を捧げなさい!」
「北の地……新しい選手たちとの出会いか!」
カイトはガバッと立ち上がり、拳を握りしめた。
「よし分かった! 最高のチームを作って、そこでも優勝を目指すぞ!」
「だから戦争をしなさいと言ってるでしょぉぉ!!」
女神の悲鳴を夢の残響として聞き流し、カイトは最近で一番気持ちのよくない目覚めをした。
1年かけて作り上げた『聖地スタジアム』と頼もしく育った村人たちに見送られ、カイトは単身、北を目指して旅立った。
◇
北へと続く街道を歩く道中、カイトは小さな町と、かつての村と同じくらいの規模の小さな集落に立ち寄った。
そこでカイトが目にしたのは、思いがけない光景だった。
「行けーっ! 『はかいの打球』だぁぁ!」
「させないぞ! 『かぜのへっどすらいでぃんぐ』だ!」
広場や野原で、近所の子どもたちが木切れをバットに見立て、布で固く丸めた球を打ち合って遊んでいたのだ。
「おぉぉ!!野球やってるじゃないか!!」
カイトは思わず声を上げてしまった。
「えっ……? だれお兄ちゃん……?」
「あぁ、すまない。俺はカイト。少し南の村で『ベースボール』を教えた指導者だ」
「「「えぇぇぇぇぇっ!?? 本物のカイトぉぉぉ!?」」」
子どもたちの目が一瞬で輝き出した。
あの魔法騎士団を退けたという「ベースボール」の噂は、すでに近隣の街々にまで伝播していたのだ。カイトは放っておけず、それぞれの街で丸一週間足を止めた。
「いいか、道具はこうやって木を削るんだ。皮の縫い方はこう。そしてこれが基本の『異世界競技規則(野球編)』だ。こいつをあげるから、みんなで正しくルールを守って遊ぶんだぞ!」
「あ、ありがとう!!カイト様!」
ほんのわずかな滞在だったが、前の村で培った経験からカイト自身の指導力は効率化し、道具作りの知見によって、それぞれの街に練度は高くないが「1期生チーム」が誕生していた。
——天界の水晶玉からその様子を見ていたニケが
「布教速度早すぎじゃない?!こいつ戦士だけじゃなくて教祖適性も高めなの……?」
と頭を抱えていたが、カイトは満足げに、再び北へと足を進めた。
◇
さらに北上を続けるにつれ、景色の色が変わり始めた。
季節は秋の入り口のはずだが、先ほど立ち寄った町より紅葉が深まり、木々は赤や黄色に燃え上がっている。吐く息もかすかに白み始めるほど、肌寒い風が吹いている。
「寒くなってきたな……。だが、体温を上げるには動くのが一番だ!」
ジャージのポケットに手を突っ込み、峠を越えたその時。眼下に広がる大きな領地の街道で、カイトは思わず足を止めた。
「……マジかよ。デカすぎんだろ……!!」
そこにいたのは、普通の人間の頭2つどころか、前の村の屋根なら軒下に頭が届きそうなほどの巨躯を誇る「巨人族」の人々だった。
(第9話へ続く)




