伝説と、迷える二人
「——デカい……。マジで全員が壁みたいだ……」
北の領地の東と西、それぞれの練習場に立ったカイトは、圧倒的な威容に思わず息をのんだ。
オリオン卿の説得と呼びかけにより、3ヶ月後の『バスケットボール決闘』に向けて東西の部族からそれぞれ選ばれし13人の選抜メンバーが集結していた。
東西の部族は、その佇まいからして完全に対照的だった。
◇
まず向かったのは、海沿いに暮らす西の部族(紫の服×金のアクセサリー)。
彼らは荒波と戦う漁と採掘を両立させている民であり、荒々しく豪快、かつ「個の力」を何より尊ぶ気風を持っていた。
その中心にそびえ立つのが、両部族最長身で約280センチを誇る大男——レバンだ。
「ガハハハ! 小さな他所者が俺様達に何を教えるというのだ! 籠に球を入れるだけなんだろう? 相手を叩き潰して籠に直接ぶち込めば俺たちの勝ちだ!」
レバンが腕を振るだけでボッと風が鳴る。圧倒的な筋肉量と、跳躍力、反応速度。まさに天から二物も三物も与えられた「規格外のバケモノ」だった。チームメイトたちも「レバンについて行けば絶対に勝てる!」と彼を一目置いている。
カイトは腕を組み、笑った。
「なるほど、圧倒的な『個』の力か。……よし、レバン。お前にぴったりな俺の故郷の神話を教えてやる」
「神話だぁ……?」
「そうだ、オレの故郷には1試合で『100点』を一人で叩き出し、相手チーム全員を恐怖と絶望に陥れ、支配した巨神がいた。その名は——ウィルト・チェンバレン」
「ひ、100点……!? たった一人でか!?」
「そうだ。チェンバレンは圧倒的な高さとパワーでコートを支配した。お前にはそのチェンバレンの魂が宿っている!」
レバンの目がギラリと力強く輝いた。
「100点を叩き出す支配の神……チェンバレン……! いいぞ、俺がそのチェンバレンになってやる!!」
だが、ここで頭を抱えていたのは、西チームの指揮を任された領主の長女・メイサだった。
「カイト様……私、どうすればいいか分かりません……! レバンたちは凄まじい力を持っていますが、私の言うことなんて聞いてくれませんし、皆お気楽だから、勝手にプレイしちゃうし……!」
メイサは凛とした美貌の持ち主だが、生真面目すぎるがゆえに、個性の強すぎる西の巨漢たちをどう束ねればいいのかパニックになっていたのだ。
◇
一方、山沿いに暮らす東の部族(緑の服×白いアクセサリー)。
彼らは、海沿いより寒さの厳しい山林で助け合いながら暮らす狩猟と木こりの民であり、規律と絆、なにより「協調性」を重んじる静かな熱気を持っていた。
その中心に立つのは、キャプテンを買って出たセルラだ。
身長は約270センチ。レバンより10センチ程度低く、身体能力の爆発力でも一歩譲るが、その瞳と喋りからは深い知性と全体を俯瞰する冷静さを感じた。
「カイト殿。私たちには西のレバンほどの怪物はいません。ですが、お互いの背中を預け合い、全員で戦えば、必ず勝てると考えています!」
「いい目だ、セルラ」
カイトは頷き、東の13人に語りかけた。
「セルラ、お前に授けるのは、チェンバレンという巨神と生涯のライバルであり続けた男の神話だ。オレの故郷最高のバスケットボールリーグで11度の優勝を果たし、鉄壁の守備と仲間への信頼でチームを絶対的勝利へ導いた戦術の神——ビル・ラッセルだ」
「ビル・ラッセル……戦術の神……!」
「ラッセルは言った。『個人の成功よりもチームの成功こそが本当の価値を生む。』とな。セルラ、お前が目指すべきはコート上の司令塔、ビル・ラッセルだ!」
「……しかと胸に刻みました。私たちが目指すのは、全員で掴み取る勝利です!!」
東の13人は静かに、しかし燃えるような結束力で拳を突き上げた。
しかし、こちらでも東の指揮を任された領主の次女・アルニタが泣きそうな顔で佇んでいた。
「カイト様……お姉様は西の最強のレバンさんを率いています……。私のような引っ込み思案な人間が、セルラさんたちに的確な指示なんて出せるのでしょうか……?」
メイサとアルニタ。
性格も対照的な領主の二人の娘たちもまた、巨大な壁を前に「コーチとしての第一歩」を踏み出せずに悩んでいたのだった。
(第11話へ続く)




