↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
11/30

身体操作と、チームの完成

「メイサ様、アルニタ様。よくお聞きください。」


 特訓開始から1ヶ月。カイトは領主の屋敷に居候しながら生活し、2人の娘へコーチとしての指導も行っていた。


「コーチの仕事は、選手へ一方的に『命令』することではありません。彼ら個人が持っている能力を正しく理解し、それを活かせる役割と『選択肢』を与えてあげることが仕事です」


「選択肢……ですか?」


「そうです。西を預かるメイサ様は、レバンの圧倒的な『個』を活かしつつ、周りの選手たちでどうコートにスペースを作るかを教える。東を預かるアルニタ様は、セルラを中心に全員が連動して『フリー(誰にもマークされていない状態のこと)』を作るパターンを整理してあげる。二人が迷っていたら、選手たちも迷ってしまいます。分からないことがあればいつでも相談してくださいね。」


 二人の娘たちの瞳に、ハッとした光が宿った。


 自分たちが指導者として成長しなければ、大好きなこの領地の巨人たちを勝利に導くことはできないのだと。


 ◇


 それからの2ヶ月間、カイトのスポーツ科学に基づく過酷かつ合理的な特訓が炸裂した。


 巨人の身体指導において、カイトが最も重視したのは『関節の保護』と『アジリティ(俊敏性)』だった。


「いいか! お前たちは体重が150キロ以上ある! 無駄なジャンプや着地を繰り返せば、膝と腰の軟骨が即死するぞ! 着地は必ず膝を柔軟に曲げ、股関節と体幹(コア)で衝撃を吸収するんだ!」


 カイトはまず、正しいパワーポジションと体幹トレーニングを叩き込んだ。


 さらに、バスケ特有の「ストップ&ゴー」に対応するためのプライオメトリクストレーニングを伝授。練習後にはストレッチと冷水でのアイシングを指導した。


 どうやらこの地は領主の話によると、西は魔カジキや魔グロ、東には大角鹿や魔乳羊などのタンパク源となる生物が多様に住んでおり、食糧事情には困っていないらしい。


 そして、戦術の落とし込みが更に進む。


【西チームの進化】


 長女メイサは、レバンの圧倒的な存在感を囮にした『ポストアップ&キックアウト』でチーム戦術を組み立てた。


 フリースローライン付近でボールを持ったレバンに相手の守備が集まった瞬間、外に待機した仲間へパスを裁く動きを覚えたことで、西はレバンの個人技だけに頼らない「レバンを軸とした爆発的攻撃陣」へと進化を遂げた。


(※ポストアップ: フリースローラインやそれよりも更にゴールに近い位置で相手を背にボールを持ち攻めること。)

(※キックアウト: インサイドからアウトサイドにいるフリーの味方に向かってパスを出すこと。)


【東チームの進化】


 次女アルニタは、セルラの高い戦術理解力を活かした『スクリーン』から繰り出される『ピック&ロール』を基本戦術として叩き込んだ。


 巨体そのものを壁にして相手のマークを外し、セルラを起点にフリーを生み出す。5人がほぼ絶え間なく動き続ける「極上のチームオフェンス」が完成した。


(※ピック&ロール: 味方の選手がスクリーン(身体を用いた壁役)となって立ちふさがり、相手の進路を邪魔し、壁になった選手が方向転換(ロール)してゴール方向へ素早く走り込み、ボールマンからのパスを狙うこと。)


 ◇


 そして、指導が始まり3ヶ月が過ぎた。


 秋が深まり、散り焦げた紅葉が舞う決戦前夜。カイトはオリオン卿の豪勢な自室に呼ばれていた。東の部族が作った蒸留酒のような物をグラスに注ぎながら、オリオン卿が穏やかな笑みを浮かべて問いかける。


「娘達はどうですかな? カイト殿……」


「お二人とも、凄く勉強熱心で、この3ヶ月でかなり成長されていますよ。」


 カイトは娘達の成長ぶりを即答した。


「最初は戸惑っていましたが、今じゃ選手たちの誰よりも熱く、誰よりもチームのことを考えて取り纏めています。あの年で、あそこまで立派に指揮を取れる子はそういません。」


「ふふ……そうですか。それを聞いて安心いたしました。」


 オリオン卿はグラスを傾け、どこか遠くを見るような優しい目をした。


「実は、カイト殿。二人をあのように巻き込んだのは、私の親としての我儘でもあったのです。」


「オリオン様の……?」


「ええ。長女のメイサは魔法の適性が高く、性格も活発だ。『将来は王国の魔法騎士になる』と息巻いている…… 一方、次女のアルニタは魔法の才こそあれど、屋敷で本を読んだり学問を修めるのが好きな子でね」


 オリオン卿はゆっくりと言葉を続けた。


「二人が将来、どんな道に進むことになろうと……家庭教師やこの屋敷の書物だけでは決して学べぬものがある。それは、多様な個性を抱える大勢の人々を導き、想いを背負い、引っ張っていく『リーダーシップ』です。それを二人には学んでほしかった。」


「……なるほど……」


 カイトは胸を打たれた。


「自らの意思で責任を背負い、人を動かす難しさを知る……。オリオン様、お二人とも、ご期待以上のリーダーシップを身につけられたと思いますよ。」


「カイト殿が引き受けてくださったおかげです。本当に……感謝いたしますぞ。」


 二人はグラスを打ち鳴らし、静かに酒を交わした。


 ◇


 翌朝、特訓を終えた東西の選手からは、あの日までの荒々しい喧嘩腰の空気は完全に消え去っていた。


 お互いの部族の象徴である【紫×金】と【緑×白】の決闘の装衣を身に纏い、堂々と整列する各13名の巨人選手たち。


「メイサ様! 俺たちの暴れっぷり、特等席で見ていてくれ!」


 レバンが不敵に笑い、長女メイサは「ええ! あなたたちの強さを証明してきなさい!」と腕を組んで力強く頷く。


「アルニタ様。あなたと共にした3ヶ月、必ずやコートで体現してみせます!」


 セルラが静かに礼を執り、次女アルニタは「はい……! みんなで、勝利を掴みましょう!」と目元の涙を拭って微笑んだ。


 二人の娘たちもまた、この3ヶ月で立派な「チームの指揮官」へと成長を遂げていた。


 ◇


 その頃、天界の水晶玉の前で。


「ちょっとぉぉぉぉ!! 何で戦で闘わずにバスケットボール布教してんのよ!! しかも、神聖な儀式みたいになってるじゃない!!」


 勝利の女神ニケが、神殿で髪を振り乱して転げ回っていた。


「チェンバレンにラッセルまで異世界の神として定着しちゃってるじゃないのよ!! っていうか、大男たちを3カ月で束ねられるようになるなんて、あの娘たちなかなかやるわね……」


 女神が思わず感心する中、ついに決戦の時が訪れた。領主の敷地のすぐそばに特設された巨大な木製コート。


 リングが空高く吊り下げられ、巨人族のほぼ全員が押し寄せる中、小さな巻貝笛を胸に下げたカイトがコートの中央へと足を踏み入れた。


「両チーム、入場!!」


 70年の恩怨をかけた、異世界初の『バスケットボール決闘』のティップオフが、今まさに切られようとしていた!


(第12話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。