第1Q:紫金の猛攻と支配の跳躍
「これより、オリオン領地伝統の決闘……改め! 世界初『バスケットボール決闘』を執り行う!」
コート中央。審判の黒白ストライプ模様の服を身に纏ったカイトが、両手を広げて大声を張り上げた。隣には、副審を務める退役魔法騎士団隊長執事・ゴードンが、鋭い眼光で笛を構えている。
周囲をぐるりと囲む観客席は、超満員の巨人たちで埋め尽くされていた。地面が響くようなどよめきが轟く。
コート上には、紫と金の装衣を纏った【西の部族】5名と、緑と白い装衣を纏った【東の部族】5名。
頭上に聳え立つリングの高さは、通常のバスケットボールより80センチ高い385センチ。巨人達の身長と腕の長さに合わせた独自規格だ。
両チームの核となるキャプテン——西のレバン(280cm)と東のセルラ(270cm)は、共にゴール下を主戦場とするポジション【センター(C)】。二人はコート中央で早くもバチバチと火花を散らし、言葉を交わし合っていた。
「ルールはシンプルだ! トラベリングやダブルドリブル、ファウルは容赦なく笛を吹く! 1クォーター10分の4クォーター制、13人の選手交代は自由! 故意に直接相手を殴ったら警告無しで即退場だぞ!」
カイトは手に持ったボールを軽くポンポンと弾ませた。
西の部族が普段ブイ(浮き)として使っていた大きな樹の実を芯にし、大角鹿のなめし皮を巻いて朱色に塗装した特製の手製ボール。硬度も跳ね具合も、カイトの指導のもと見事に本物に近づけ、巨人達の手に合うよう大きくしてある。
ピーーーッ!!!!
試合開始の笛と同時にカイトがボールをコート中央で、空高く投げ上げた!
「ガハハハハ! いただくぜぇぇぇッ!!」
ティップオフ! 跳んだのはレバンとセルラ。
だが、その跳躍力はかなりの差だった。レバンは巨体からは想像もつかないしなやかさと爆発力で空を舞い、頭上遥か高くでボールを下に落とした!
「レバンッ!」
「任せろぉぉッ!」
着地した瞬間、西のガードからボールを受け取ったレバンはそのままドリブルを突いて自ら疾走を始めた!
ドシン! ドシン! とコートを揺らす凄まじいドライブ。ゴール下で東の選手が立ちはだかる! だが——
ドガァァンッ!!
「くっ……!?」
レバンは圧倒的なフィジカルで軽々押し込み、そのまま跳躍! 385センチのリングの上から、丸太のような腕でボールを叩き込んだ!
バギャァァァンッ!!!!
木製のゴールが大きく揺れ音を立てる、豪快なワンハンドダンクが叩きつけられる!
【第1Q:西 2 ー 0 東】
「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉッッ!!!!」」」
西の観客席から地鳴りのような大歓声が沸き起こった!
「見たか東の野郎ども! これが俺たちの誇る最強の男、レバン兄貴だぁぁ!」
「支配の神の再来だ! 100点取ってくれぇぇ!」
西のベンチで腕を組む長女メイサ也も、興奮で頬を染めて拳を握りしめた。
(凄い……! カイト様に教わった通り、インサイドのアイソレーション(一対一)でレバンは止められないわ!)
転じて、東の攻撃。セルラがレバンを背にインサイドでポジションを取り、味方のガードからのパスを受けて綺麗なフックシュートを放った。完璧なバックスピンと放物線を描き、ボールがリングへと吸い込まれようとした——その時だった。
「ぬあああぁぁぁッ!!」
バシィィィンッ!!!!
垂直跳びで跳び上がったレバンが、下降を始めたばかりでほぼ放物線の最高到達点にあったボールを空中高くで触れ、軌道を変えたのだ。
会場が一瞬、静まり返る。あまりの滞空時間と高すぎる到達点。
「な……っ!?」
審判として走っていたカイトは、呆然と開いた口が塞がらなかった。
(嘘だろ……!? 270センチのセルラが放ったシュートのほぼ最高到達点を触るのかよ!? そんな位置までコイツは届くのか……!!)
あまりにバケモノじみたジャンプ力に戦慄するカイト。だが、すぐに正気に戻り、すかさず笛を強く吹き鳴らした!
ピーーーッ!!!!
「ゴールテンディングバイオレーション! バックボードやリングの上より高い位置で下降中のシュートに触れたため反則だ! 東チームに2点を認めます!」
「あぁん!? クソ!またやっちまった!!すまねぇ皆!!」
コート上で、レバンが自分の頭を小突く。
カイトのジャッジにより東に2点が入ったものの(西 2 ー 2 東)、会場の熱気は冷めるどころか狂乱に包まれた。ゴールテンディングを取られたとはいえ、あの高さの球を撃ち落とせる規格外の跳躍力を目の当たりにしたからだ。
「ハハハ! 惜しかったなレバン! 次は上がりきる前に叩き落とせよ!」
「任せろぉぉ!」
ここから西の勢いがさらに加速する。
レバンはゴール下でセルラと激しく体をぶつけ合いながら、圧倒的なパワーでインサイドを支配した。力強いパワームーブ、こぼれ球を空中で押し込むリバウンドダンク、そして圧倒的なリーチによるブロック。
西の選手たちは確信を深めていった。
(レバンにボールを渡せば絶対に点が入る!)
西のベンチは大盛り上がりとなり、次々と得点を重ねていく。レバン自身も「俺が全部決めて、このチームを勝利へ導く!」という強い責任感と絶対的な自信に満ち溢れていた。
「タイムアウトください!」
次女のアルニタが叫んだ。
ピーーーーッ!
東の陣営は一方的に押し込まれている状況を打破するため、西の勢いを一度断ち切る為にタイムアウトを取った。
そんな中、レバンの猛攻を真正面から受け止めていていたセルラだけは、冷徹なまでに静かな瞳をしていた。
「みんな、落ち着け。点差は開いているが、焦って攻撃を早めるな!パスを回していこう!」
セルラはインサイドでレバンと力比べを続け、吹っ飛ばされそうになりながらも、その瞳でレバンの動きを穴が開くほど凝視していた。
(どの位置から攻め始める……? 利き手側の右から回転することが多い。守備を突破したあと、味方へのパスの選択肢を考えているか……? いや、完全に自分が決める目になっている。レバンにボールが渡った瞬間、西の他の4人の足が一瞬止まる……)
セルラはただ耐えているのではなかった。
直接体をぶつけ合っているからこそ分かるレバンの癖、西の攻撃パターン、そして自分たちの守備が崩される「構造」を、脳内で冷静にデータとして蓄積していたのだ──
ピーーーッ!!!!
第1クォーター終了を告げる笛が鳴り響く。
【第1Q終了:西 28 ー 16 東】
西が12点の大幅リード。西の観客席は勝利を確信したような歓喜に包まれていた。
「見たかアルニタ! これが我が西チームの圧倒的な力よ!」
長女メイサが胸を張る。
対する東のベンチ。打ちのめされた表情の選手たちの中で、センターのセルラは次女アルニタのもとへ歩み寄り、静かに頷き合った。
「アルニタ様……準備は整いました。」
「はい……! 第2クォーター、反撃を始めましょう、セルラさん!皆さん!」
東のベンチでは、レバンに対抗するための作戦が共有されていた。
(第13話へ続く)




