学習と、幻のホームラン
「1点ごときで調子に乗るな棄民ども!次で逆転してやる!!」
2回表、魔法騎士団の攻撃。 村チームのマウンドに立つのは、村一番の器用さを持つ青年ピッチャー・リドリーだ。勿論魔法は使えない。だが、カイトから叩き込まれた「下半身と骨盤主導の正しいフォーム」と「緩急のある配球」を忠実に守っていた。
(焦るな!初球は低めの緩い球で体勢を崩せ!)ベンチのカイトがサインを送る。
リドリーが大きくフォームをとり、しなやかな腕の振りから放ったのは、山なりの緩いスローボールだった。
「ぬあああ!? なんだこの遅い球はあぁぁ!!」
力任せに振る4番打者の隊長は、自身の投球との球速差に体勢を崩し、不格好なゴロを放った。狩人譲りの鋭い足運びで打球に飛びつく野手陣の守備もあり、2回表も三者凡退の無失点で切り抜けた。
◇
2回裏、村の攻撃。7番センターのスコセッシはフォアボールで出塁し、樫の木から木製バットを作成した木こりの8番ショートのトニーがバッターボックスに入る。リドリーとは兄弟だ。
カツンッ!
引っ掛けた打球はセカンドを守る騎士の正面へ。焦った騎士はボールを落としかけるが、慌てて二塁を踏む!
「一塁に投げろ!間に合う!!」
隊長の叫びに応じてそのまま一塁へ暴投気味に送球。間一髪でファーストの騎士が飛びつき、バッターランナーのトニーをアウトにした。
奇跡的に異世界初のダブルプレー(併殺打)が成立した。
「「おおおおおっ!?」」
騎士たちにどよめきが走る。
「おい見ろ!今の球回し、2人も一気にアウトにできたぞ!」
「なんだこれ……面白いな!めちゃくちゃ気持ちいいぞ!!」
自らの身体で「連携してアウトを取る快感」を体験したことで、騎士たちも少しずつルールと守備を理解し始めていた。
だが、村チームも黙ってはいない。続く9番ピッチャーのリドリーが粘ってフォアボールを選び、ツーアウト一塁。ここで打席に立ったのは1番のレオだった。
「レオ!落ち着いていけよ!!」
ベンチからのカイトの声に、レオは力強く頷いた。 マウンドの隊長が腕を振る。右肩の魔力が強く光る!
(来た……! 外に逃げる変化球……!)
カキィィィンッ!!
バットが、暴れる炎の球を完璧に捉えた!打球はライトの頭上を遥かに越え、深々と外野を破っていく!
「走れ走れぇぇ!!」
1塁走者のリドリーが一気にホームへ生還!さらに俊足を爆発させたレオは、風のように二塁を蹴って三塁へ滑り込んだ!
「セーフ!!」
「やったぁぁ! タイムリー三塁打! 2点目だぁぁ!!」
村人たちが歓声を上げる。【村2ー0団】
勢いに乗る村チームは、続く2番打者ノーランが三振するもキャッチャーが球を逸らし、悪送球も重なって「振り逃げ」で出塁。3番打者ショートのコンドンも冷静に四球を選び、ツーアウト満塁の絶好機を再度作り出した!
ここで打席に巡ってきたのは、村の主砲4番打者のボブだ。
(ワイの番でゴワス……!さっきの失敗を、ここで取り返すでゴワス……!)
だが、「主砲として今度こそ決めなければ」という重圧が、ボブの全身をガチガチに硬直させていた。
「死ねぇぇ木偶の坊がぁぁ!!」
隊長が放った渾身のど真ん中直球。ボブは力任せに丸太のような腕をぶん回した!
空振り三振!!
「くっ……またでゴワス……!」
ガックリと肩を落とし、バットを置くボブ。やはり長年染みついた力みの癖は、そう簡単には抜けない。絶好のチャンスを活かせず、スリーアウトチェンジとなった。
◇
3回表、魔法騎士団の攻撃。
ここで試合の流れが変わる。彼らは王国の正規軍——数多の修羅場をくぐってきた「戦闘のプロ」たちなのだ。
「おい、あのピッチャーの球、遅い球と速い球の2種類しかないぞ」
「むやみに大振りせず、小さく振って確実に当てれば、守備の間を抜けるんじゃないか?」
ルールと仕組みを理解し始めた騎士たちは、力任せのスイングを捨て、手元まで球を引きつけ始めた。
カツンッ!
「なっ……!?」
ピッチャー・リドリーの緩急に対応した騎士たちが、泥臭くヒットを連ねる。極端な守備シフトの逆を突く転がしで、ついに1点を返し、【村2−1団】と1点差に迫った。
「ヒーハーー!!覚えたぞ『べーすぼーる』とやらをな! 戦場と同じよ!! 敵の戦術に適応した方が勝つ!!」
ベンチで隊長が高笑いをあげる。ベンチのカイトは自らの前髪をガシガシと掻きむしった。
(魔法頼みの単細胞だと高を括っていたが……やはり騎士は騎士、戦闘のプロだ。実戦の中でルールと戦い方にアジャストしてきてやがる……!)
カイトの最初の見立てであった「相手は単純だから余裕」という前提は、完全に崩れ去っていた。
◇
4回、5回、6回は互いに譲らぬ一進一退の攻防が続き、迎えた7回表【村2−1団】、魔法騎士団の攻撃。
バッターボックスの隊長は、凄まじい威圧感を放っていた。
「ゴミ屑どもが……そろそろ絶望を教えてやる!!」
カァァァンッ!!!!
隊長が魔力を込めて振り抜いた一撃は、樫の木から出たとは思えない音を響かせた。打球は弾丸のようなスピードで青空へと上がり、木で作った外野の柵を文句なしの特大ソロホームランで越えていった。
「ハハハハハ!見たかぁぁぁ!これが俺様の力だぁ!!」
高笑いしながらダイヤモンドを回る隊長。自慢げに両手を掲げ、二塁ベースを完全に通り過ぎて踏み忘れたまま、踏んぞり返ってホームインした。
その瞬間、ベンチのカイトが跳ね起きた。
「センター!!ボールを拾って二塁へ送球しろ!アピールだ!!」
ボレーのように二塁へ投げ込まれたボールを、セカンドの村人が捕球して二塁ベースを踏む。
「審判!ランナーの二塁踏み忘れです!」
村長審判が二塁を指差した。
「アピール成立! 二塁踏み忘れでアウトですぞ!!」
「……は??」
ホームベース上でドヤ顔を決めていた隊長の時が止まった。
「な……なにを言っているんだ老いぼれ貴様ぁぁ!? 俺は今、柵まで球を飛ばしたんだぞ!!?」
「ルールですぞ!ベースを順番に踏まなければ得点とは認められません!」
「ぬぁぁにいぃぃぃ!!踏んだ!踏んだわボケぇ!!ぶち殺してやるぁぁ!!」
顔を真っ赤に沸騰させた隊長が剣を抜こうと激昂する!だがその瞬間、部下の騎士たちが決死の顔でベンチから飛び出し、隊長を羽交い締めに捕まえた!
「隊長ぉぉ! お止めください! 今暴れたら本当に『没収試合』で負けになります!」
「離せぇぇ! 2塁くらい踏んでなくても飛距離で勝ってるだろうがぁぁ!!」
「落ち着いてくださいぃぃ!!」
部下たちに必死で引きずられてベンチへ戻される隊長。しかし、これで終わりではなかった。
「隊長の仇だ! 繋げぇ!!!」
隊長のホームラン取り消しで盛り上がる(?)魔法騎士団は、変なテンションで結束。ホームラン無効に安心して気が抜ける村チームの隙を突き、連続ヒットと泥臭い盗塁で、なんと本当に1点を追加してみせたのだ!
【7回表終了:村2−2団】
ついに試合は同点に追いつかれた。
◇
ベンチで腕を組み、相手ベンチを見つめるカイト。 その口元には、焦りを超えた不敵な笑みが浮かんでいた。
「相手も必死だな……。だが、これでいい。敵が適応して本気になった今こそ、本当の『ベースボール』の始まりだ!」
◇
その頃、勝利の女神ニケは水晶玉に抱きついて絶叫していた。
「っていうか魔法騎士団、部下たちがルール覚えてどんどん野球上手くなっちゃってるじゃない!イケ好かないあいつもホームラン打っちゃうし! ん?取り消し?なんでぇぇ???」
水晶玉でどこからの視点でも見れるはずだが、何が起こったのかは理解できていないらしい。
激戦のベースボール決闘は、いよいよ後半戦へと突入していくのだった。




