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魔法球の癖を見抜け

両チームオーダー


 【騎士団チーム】         【村チーム】 

隊員A  セカンド   一番  セカンド   レオ

隊員B  ショート   二番  ファースト  ノーラン

隊員C  サード    三番  ショート   コンドン

隊長   ピッチャー  四番  キャッチャー ボブ

隊員D  ファースト  五番  サード    ルーカス

隊員E  ショート   六番  ライト    フィンチャー

隊員F  センター   七番  センター   スコセッシ

隊員G  ショート   八番  ショート   トニー

隊員H  キャッチャー 九番  ピッチャー  リドリー

「ヒーハー!! さあ絶望の時間だゴミ屑ども! 魔法の恐ろしさを叩き込んでやる!」


 整地された村の広場。金の鎧を輝かせた魔法騎士団長が高笑いをあげた。


「両チーム、整列! ……プレイボール!ですぞ!」


 プロテクター代わりの厚手の皮鎧を着込んだ村長が、震える声ながらも毅然と審判の宣言を下した。異世界初のベースボール決闘の幕が上がった!


 ◇


 1回表、魔法騎士団の攻撃。 打席に立った戦闘打者の騎士が、力任せにバットを振りぬいた!


 ガツンッ!!


 打球は鈍い音を立てて三遊間へと高速で転がる。


「任せろ!」


 サードを守る村人・ルーカスが、恐ろしい反応速度で横飛びした。泥にまみれながら見事にボールを抑え込む!


(凄い反応速度だ……!獲物を逃さない狩人の本能が完璧に打球を捉えてる!)


 ベンチのカイトが思わず立ち上がる。だが、直後だった。焦ったサードのルーカスは、無理な体勢のまま一塁へボールを全力投球してしまう。ボールは大暴投となり、ファーストの村人・ノーランの頭上を遥かに越えて転がっていった。


「落ち着け! カバーに入れ!」


 ファーストのカバーに入っていたライトの村人・フィンチャーがボールを素早く拾い上げ、一塁へ送球。間一髪でバッターランナーをアウトにした。


 カイトは胸を撫で下ろすと同時に、冷静に現状を分析した。


(身体能力と狩人の勘は本物だ。だが、投球や送球といった『野球の基本技術』はまだまだ未熟。練習したとはいえ、一筋縄ではいかないぞ……)


 それでも狩人の足腰と連携で食らいつき、1回表を三者凡退で無失点に抑え込んだ。


 ◇


 そして1回裏、村の攻撃。バッターボックスに立つのは、1番バッター・セカンドのレオだ。


「落ち着けレオ!」


 ベンチからカイトが指示を飛ばす。


「相手は魔法頼りの単細胞だ。力を誇示するために『ストレート』をど真ん中に投げてくるはずだ! 1球目は落ち着いて観察するんだ!」


「は、はいっ!」


 左打席に入り、木製バットを握りしめるレオ。マウンドに立つ隊長が右腕を掲げると、凄まじい量の炎が球を包み込んだ。


「喰らうがいい! 我が誇り高き一撃——『極大爆炎投球(メガ・フレア・ボール)』だぁ!!」


 ドドォォンッ!!


「ストライク!」


「なっ…!?」


 カイトは思わず目を見開いた。魔法で強化された投球は、カイトの予想を遥かに超えていた。体感で150キロを軽く超える炎の塊が、空気を引き裂いて大角鹿の皮で作ったミットへ突き刺さる。


(速い…!手投げのフォームだと舐めていたが、魔法による推進力が尋常じゃない!)


 さらにカイトの計算を狂わせたのは、その軌道だった。


「2球目だぁぁ、行けぇぇぇぇ!!」


 バシィィィンッ!


「ストライク!」


 2球目はバッターの手元で不規則に横にねじ曲がったのだ。


(くそっ、予想が外れた…!綺麗なストレートじゃない!フォームが歪で指に引っかかって手元でランダムに変化しているんだ!)


 圧倒的な球速と、投手本人すら意図していない不規則な変化。打席のレオはあまりの球威に完全に気圧され、手も足も出ずに追い込まれてしまった。


「カ、カイト様!あんなの、バットに当てられませんよ…!!」


 村人たちに動揺と絶望が走りかける。だが、カイトの目は死んでいなかった。ベンチの前で腕を組み、穴が開くほど隊長の投球フォームと魔力の揺らぎを凝視していた。


(落ち着け……焦るな。仮説が外れたなら、いま見えた事実から修正すればいい。…1球目と2球目、隊長の右肩の光り方に違いがあった。2球目のときだけ、肩の魔力が一瞬強くなったはずだ)


 カイトは村長にタイムを申請し、レオを呼び寄せた。


「レオ、よく聞け。まだ確信はない。これは俺のただの仮説だ」


「仮説……?」


「相手の球は速いし、手元で不規則にブレている。だが、投球の直前に右肩が強く揺れるときは、球が外側に流れる可能性が高い。……バットを拳1つ分短く持て。飛距離は捨てて、コンパクトに振り抜いて『点』じゃなく『線』で捉えるんだ!」


「100%じゃない……でも、カイト様が観察してくれたんだ……!」


 レオはカイトの助言を噛み締め、グリップを固く握りしめた。運命の3球目。マウンドの隊長が腕を振りかぶる。 研ぎ澄まされたレオの狩人の視覚が、隊長の右肩に漏れ出る強烈な魔力の光を捉えた。


(来た…! 外に逃げる軌道だ…!)


 ガツッ!!


「ファウル!」


 バットの端に当たった打球がバックネットへ転がる。完璧に捉えることはできなかったが、打席のレオの表情がガラリと変わった。


(当たった…! カイト様の言った通り、肩が光った球は外側に曲がった! 仮説は間違ってない!)


「死ねぇぇ、ゴミ屑がぁぁ!」


 確信を得たレオの目に、隊長の投げた4球目の投球が飛び込む。右肩が強く光る。軌道が見える!


 カキィンッ!!


 極限まで短く持ったバットの芯が、暴れる炎の球を捉えた!打球は三塁手の横を抜け、レフト前へと転がっていく!


「当たっ……走れレオッ!」


 俊足を爆発させたレオは、一塁を駆け抜けた!


 セーフ!


 観察と仮説、そしてファウルでの検証を経て手に入れた、価値あるチーム初ヒットだ。


(よし、ここから足で揺さぶるんだ……!)


 出塁したレオは二塁への盗塁を狙ってリードを広げた。だが、マウンドの隊長がいつ投球動作に入り、いつけん制を投げてくるのか、その「タイミング」が全く掴めない。チラリと離塁するだけで、ピッチャーの威圧感に足が竦む。


(足の速さだけじゃダメだ……! ピッチャーの癖や投球モーションを見抜かないと、盗塁なんて成功しないんだ……!)


 初ヒットの喜びも束の間、野球という競技が持つ「走塁の奥深さ」に、レオは改めて突き当たる。


 ◇


 その後、後続の打者たちは150キロ超の球威に押し込まれ、凡打を重ねる。それでも、カイトの助言を頼りにファウルで粘り、泥臭く四球をもぎ取って、ノーアウト満塁という千載一遇のチャンスを作り出した。


 ここで打席に向かったのは、4番キャッチャー・ボブだった。


「ボブ! 楽にいけ!お前は練習通り体幹を意識して振ればいい!」


「任せるでゴワス、カイト様! みんなが繋いだこのチャンス、ワイが絶対に全員還すでゴワス!」


 ボブの巨躯がバッターボックスに入る。だが、満塁という場面と「主砲として打たなければ」という強い責任感が、ボブの全身をガッチガチに硬直させていた。


「ハッ! デカいだけの木偶の坊が!吹き飛べぇぇ!」


 隊長が放った渾身の魔法球。ボブは下半身からの連動を意識しようとしたが、力みから始動が完全に遅れ、結局は丸太のような腕力だけで強引に振り抜いてしまった!


 ドカッ!!


「あ……」


 軸のブレたスイングはボールの下側を叩き、打球は力なく上空へと高く上がった。 キャッチャーの頭上に上がるフライだ。


「バッターアウト!」


 村長の声が響く。ワンアウト。


「くっ…悔しいでゴワス……」


 打席の脇でがっくりと膝をつくボブ。仲間たちが泥臭くつないでくれた絶好のチャンスを、自分の力みで潰してしまった悔しさに拳を震わせる。


 ベンチに戻ったボブの肩を、カイトは力強く叩いた。


「下を向くなボブ。力んだのは『勝ちたい・勝たせたい』っていう責任感の表れだ。焦るな、実戦で不器用に向き合っていけばいい」


 ワンアウト満塁となり、5番サードのルーカスが打席に入る。マウンドの隊長は「雑魚どもめ!」とあざ笑いながら、力任せに魔法球を投げ込んだ。


 その時だった!過剰な魔力がこめられた球は捕手の差し出したミットを弾き飛ばし、後方へとお手玉するように転がった!


「なに……!?ちゃんと取れ!!」


「レオ、走れぇぇ!!」


 ベンチのカイトが叫ぶより早く、三塁走者のレオは駆けていた。盗塁のタイミングは掴めなくても、目の前で起きた隙を狩人は見逃さない!


 泥煙を上げながら本塁へヘッドスライディング!焦ったキャッチャーが拾い直してホームベースをタッチしようとするが、レオの手がわずかに早くホームベースを触った!


 ザザザーッ!!


「セーフ! セーフッ!!」


「やったぁ! 先制点だぁぁ!!」


 相手の捕球ミスを突いた泥臭い走塁で、村人チームが記念すべき最初の1点を奪い取った!


(※直後、5番打者ルーカスと6番打者フィンチャーは空振り三振に終わり、スリーアウトチェンジとなった)


 ◇


「おんどれぇぇ! ゴミ屑の分際で、この俺から点を取りおったなぁぁ!!」


 先制を許し、完全に逆上した隊長が剣を抜き、泥まみれで立ち上がったレオに向かって殺気を剥き出しにして襲いかかる!


「叩き切ってやる!!」


 ピピッーー!!


 村長審判の笛の音が響き渡る!


「警告ですぞ!これ以上の暴力行為は『没収試合』とし、魔法騎士団様の敗戦とみなしますぞ!!」


「ぬぁにいぃ!?老いぼれごときがこの俺に指図するなぁぁ!」


 激昂して剣を振り上げようとする隊長。だがその瞬間、部下の騎士たちが顔色を変えて隊長へ飛びついた!


「た、隊長ぉぉ! お止めください!!」


「離せぇぇ! このゴミ屑どもを斬り殺してやる!」


「ダメです隊長! 今ここでルール違反で負けたら、王都で『農民にルール違反で負けた無能』と一生笑いものにされます!」


「くっ……!」


「まだ1点です!奴らもきっとまぐれだ!ベースボールで叩き潰しましょう!」


 部下たちの決死の説得と羽交い締めに、隊長は荒い息を吐きながら、ギシギシと音を立てて剣を鞘に収めた。


「…ハッ! ぬかったわ。おいゴミ屑ども、浮かれるのはそこまでだ。次からは魔法を全開にして、叩き潰してやるからな!!」


 隊長は苛立ちを隠せない様子でマウンドへと戻っていった。だが、その右肩には……無理な手投げと過剰な魔力解放による、ずっしりとした鈍い不快感が確実に刻まれ始めていた。


(なんだ?肩が少し…… いや、辺境のゴミ屑ども、腕一本で捻り潰してやる……!)


 ベンチで腕を組み、隊長の後ろ姿を見送るカイトは、ニケヤリと不敵に笑った。 観察、仮説、検証、そして相手の隙を逃さない泥臭い走塁。課題を残しながらも掴み取った価値ある1点。


 勝負は、ここからだ。


 ◇


 その頃、天界の水晶玉の前で勝利の女神ニケはかじりつくように見入っていた。


「なんか案外面白い試合になってるじゃないのよ…」


「とゆうか、騎士の球、あれ早すぎよねぇ。ここからどう対処するつもりなのかしら!カイト!」


 女神の心配を余所に、自分たちの知略と努力で掴んだ1点に、村人たちの目はかつてない誇りと闘志で燃え上がっていたのだった。

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