暴走する才能、クアドリガ
「ふんっ、大人たちが生娘を囲うみたいに技術を隠しやがって。俺たちがこうして面白おかしく走って何が悪いんだよ!」
アウリガ領の裏通りにある、煤けた薄暗い工房。
そこにたむろしていた不良少年たちの中心で、一人の若いドワーフが吐き捨てるように言った。彼の名はリクニオス。粗野で乱暴な口調だが、その瞳の奥には機械に対する並外れた執着と天才的な閃きが宿っていた。
彼らが魔道石の出力を利用して鉄管から大きな音を鳴らす改造も、元をたどれば「自分たちの技術の高さを見せつけたい」という欲求の表れだった。大人たちから「迷惑者」「厄介者」と扱われる現状に、彼らは鬱屈とした反発心を抱いていたのだ。
そこに、ひょっこりと姿を現したのがカイトだった。周囲の不良少年たちが「なんだお前は!」と一斉に威嚇する中、カイトは恐れる様子もなく、リクニオスたちが作り上げた改造車をしげしげと観察し始めた。
「ほう……これ、エンジンの出力をタイヤを動かす配管の途中で、こっちの音専用の配管に分岐してるのか。よくこんな仕組み思いついたな」
カイトの意外な反応に、リクニオスはわずかに眉をひそめ、怪訝な顔をした。
「……あんた、機械のことが少しはわかるのか?」
「ああ、いや、からっきしだよ。面白いものを作ってるなと思っただけさ。よくできてるなぁ……」
カイトは笑みを浮かべ、面白い形をした動力部と思わしきパーツに見入った。
「ソイツで火魔道石から直接エネルギーを抽出して後ろのモーターを回してるんだ。今市場に出回ってるエンジンは、小さく砕いた粉状の火魔道石をシリンダー内に噴射して圧縮爆発させて動かしてたんだが、粉状に精製するにはコストがかかるからな。雷魔道石を加工して火魔道石用の魔力変換パーツを作って……」
リクニオスが目を輝かせて自作のエンジンとモーターを熱弁してくれた。
「へぇ……じゃあ魔道石を電池みたいに扱えるってことか?」
「デンチ?? なんだかは知らねぇけど多分あんたが思ってるとおりだと思うぞ。パワーがなくなったらこのソケットに詰め替えるだけで済む」
「お前たち、そんなすげぇ技術があるならさ……夜中に街道でうるさい音を鳴らして迷惑かけるより、正々堂々誰が一番速くてすげぇか『レース』してみたらどうだ?」
「……は? 『レース』だと? なんだそれは……」
リクニオスが鼻白んだように聞き返す。
「レースっていうのは、決まったコースを走って、誰が一番速く、一番マシンをうまく操れるかを競うスポーツだ。ルールの中で、自分たちの作った技術のすごさを証明してみせろよ」
カイトのその言葉は、リクニオスたちの職人魂に熱く突き刺さるように響いた。
これまで頭ごなしに怒鳴られるか、無視されるかしかなかった彼らにとって、自分たちの技術と情熱を「正当に評価する舞台」を提示されたのは、初めてのことだった。
リクニオスはしばらくカイトの顔をじっと見つめた後、ニヤリと笑ってみせた。
「……面白い。上等だぜ。俺たちの技術が本物だってこと、その勝負で徹底的に証明してやるよ!」
その日から、薄暗い工房は一気に爆発的な活気を帯びた。
彼はかつて、夢の中で鍛冶と技術の神ヘパイストスに出会い、『製作再現の加護』を授かったのだという。
それはアイデア自体を勝手に生み出す魔法ではないが、彼自身が「これを作ると決めた設計・構想」を、驚異的な精度と確実性で現実の部品へと落とし込む強力な能力だった。
自らの頭脳で考え抜き、最高の性能を発揮するための設計図を次々と形にしていくリクニオス。
仲間たちと寝食を忘れて作業を重ね、ついに彼らの技術の結晶とも言うべき、異世界初のレーシングカーの設計図が完成した。
マシンの名は——『クアドリガ』。
「見てろよ大人たち……俺たちのこのマシンが、このアウリガ領の誰よりも速いってことを証明してやる!」
街の裏側でくすぶっていた若者たちの情熱は、ついに「レース」という名の新しい競技の炎へと変わり、静かに牙を研ぎ始めていた。
(第33話へ続く)




