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4人のエースと、ピッチの哲学

「おいおい、待て待て!何だこりゃぁ」


 数日後、繁華街に整備された広場の特設ピッチ。 そこでは再びサッカーの練習試合が行われていたが、ピッチ上の光景は相変わらずカオスなものだった。ボールが転がると、両チームのプレイヤー全員が一匹の獲物に群がるように、ドッと一箇所に密集してしまう。いわゆる「団子状態」だ。


「パスだ! ここにパスを出せ!」


「いや、俺がシュートを打つ!」


「邪魔だ、退け!」


 全員がボールに群がり、味方同士で足を引っ掛け合って転ぶ。これではせっかくの広大なピッチも、狭い檻の中で暴れているのと変わらない。 ベンチで見かねていたカイトは、笛を「ピーッ!」と強く鳴らして練習を中断させた。


「はい、そこまで! 集合ッ!」


 カイトが手招きすると、息を切らせた若者たちがぞろぞろと集まってくる。その中には、この半島の将来を背負う、際立った個性を持つ4人の若者の姿もあった。


「お前ら、今のプレイ、やっててどう思った? ボール一個に対して全員が群がってただろ。これじゃあ、どれだけ足が速くても、どれだけ体力があっても、すぐに相手に囲まれて身動きが取れなくなる」


 カイトは地面に枝で簡易的なピッチの図を描きながら、基本のキを説き始めた。


「サッカーで大事なのは、全員で一斉にボールだけを追いかけないことだ。ボールを持っていない選手にも、やるべきことがある。仲間が動くことで、相手の守備に『スペース(隙間)』が生まれる。そこへ走り込み、ボールをつなぐんだよ」


「難しいなぁぁ……」


 まだ抽象的な概念ではあったが、集まった男たちは真剣な眼差しでカイトの言葉に聞き入っていた。 特に、それぞれの町を代表する4人のエース——キザン、ホーガン、アデス、タッカーは、それぞれの胸中で独自の解釈を巡らせていた。


 ◇


 ——キザン(獣人町のエース): 獣人族特有の卓越した身体能力と、爆発的な瞬発力を持つ青年。彼はもともとバスケットボールを強く推していた男だった。


(個人技で相手を置き去りにするスピードこそが正義だと思っていたが……全員が密集していたら、そもそも抜け道がない。……なるほど、相手の守備がどこに釣られるか、その『陣形』を読む必要があるってことか)


 キザンは鋭い爪先で地面の小石を転がしながら、自分には「戦術」というスパイスが必要なことに気づき始めていた。


 ——ホーガン(港町のエース): 漁師の息子であり、荒波に揉まれて鍛え抜かれた底知れぬタフさが持ち味の男。


(ただがむしゃらに走り回ればいいってもんじゃないのか……。無駄に体力を消耗するんじゃなく、ここぞというタイミングで走り込む場所を見極めなきゃいけないってことだな)


 派手な技よりも泥臭い持久力を誇るホーガンは、自らの走力を「どこで爆発させるべきか」という省エネと効率の思考を巡らせていた。


 ——アデス(領主の屋敷近くの繁華街のエース): タウルス領主の息子であり、スピードと持久力、器用さには誰よりも絶対的な自信を持っている。


(今のところ僕の足さばきはこの半島で一番だ。だが、ある程度のスペースがなければ、ただ一人で相手の罠に飛び込むだけの独りよがりになってしまう…… 速く走ることと、正しい場所へ走ることは別、か)


 プライドの高さゆえに少し悔しさを覚えつつも、アデスは「チームの勝利のために自分の足をどう活かすか」という視点に初めて直面していた。


 ——タッカー(タウルス領駐屯魔法騎士団のエース): 隣国対応のため半島に駐屯し、騎士団を率いる隊長であり、日頃から規律と組織的行動を重んじている男。レプス領駐屯魔法騎士団の隊長からスポーツの素晴らしさを聞かされ、試しに参加してみることにしたらしい。


(個人の身体能力に頼るのではなく、集団全体の連動によって突破口を開く……。これは我々が訓練している陣形構築や、戦場での部隊運用そのものではないか!)


 他の3人が個人プレイの糸口を考える中、タッカーだけはこれを「一つの軍団としての組織戦術」として捉え、強烈な興味を抱いていた。


「——強い選手がただ集まれば勝てるわけじゃないぞ!強い『チーム』を作るには、ピッチに出ている全員が連動しなきゃならないんだ。……俺はこのサッカーを一時的な流行で終わらせるつもりはない。この半島のそれぞれの町でチームを作って定期的に試合を行おうと思う!」


 カイトの宣言に、その場にいた全員が一斉にギラリと光った。


「面白い。俺の獣人町が、この競技でも一番を獲ってやるよ」 キザンは笑みを浮かべる。


「漁師の根性を見せてやるさ。うちの港町が一番走り勝つチームになる」 ホーガンが鼻を鳴らす。


「父上を驚かせるためにも、僕らが最強の証明をしなきゃね」 アデスは爽やかに、しかし負けず嫌いな目で周りを睨む。


「騎士団の組織力を見せつけてやる。戦士として圧倒させていただく。」 タッカーが硬い決意を込めてうなずいた。


 それぞれが「自分こそがこの競技の頂点に立ち、チームを勝利へ導くエースだ」という自負を胸に秘め、次のステージへと動き出す。


「よし、それじゃ各自自分の町へ戻り、仲間を集めて練習を始めろ! ルールブックの写しとボールは後でアデスと配る!屋敷に取りに来てくれ!!」


 カイトの号令のもと、キザンは獣人町へ、ホーガンは港町へ、タッカーは騎士団の拠点へと、それぞれの誇りを背負って駆け出していった。


 アデスはカイトとともに領主の屋敷近くの繁華街に残り、遠ざかっていく3人の背中を見送った。


 カイトは満足そうに口角を上げた。


「さぁて……誰が一番早く、サッカーの本当の面白さに気づくかな?」


 こうして、タウルス領の半島には4つのサッカーチームが誕生し、新たな熱狂の歯車が回り始めたのだった。


(第21話へ続く)

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