第3Q:迫る消耗、迫る決着
ピーーーッ!!!!
後半戦の開始を告げるホイッスルが、秋風の吹き抜けるコートに鋭く鳴り響いた。
【前半終了時:西 46 ー 42 東】
わずか4点差。2Q終盤に見せた東の猛追により、試合は完全に予測不能なデッドヒートへと突入していた。
「後半の入りが勝負よ! 気を引き締めていって!」
西のベンチ前、長女メイサが力強く声を張り上げる。2Q序盤から東のディフェンス網に捕まりスコアが停滞した反省から、彼女はハーフタイムの間に選手たちへ明確な修正指示を出していた。
「レバンの個人技だけに頼るな! レバンがインサイドでボールを持ったら、相手のディフェンスは寄らざるを得ないわ!外へパスを捌くか、逆サイドからカットインを狙うのよ!」
「任せろメイサ様! 後半も俺がガンガンこじ開けてやるぜ!」
豪快に笑うレバンを中心に、西の選手たちは戦術の修正をしっかりと共通理解してコートへと散らしていく。
一方、東のベンチでは、次女アルニタが選手たちを穏やかな、しかし熱い眼差しで見送っていた。
「セルラさん、相手は後半、さらにレバンさん中心の攻めを変化させてくるはずです」
「分かっています、アルニタ様。僕たちのやるべきことは変わりません。全員で足を動かし、選択肢を削り続けるだけです」
東のキャプテン・セルラが頷き、仲間たちと力強く拳を合わせる。
こうして、運命の第3クォーターの幕が切って落とされた。
◇
試合が再開するとすぐに、西の修正力が牙をむいた。
「レバンへのマークが厚いなら……こうだ!」
西のガードがボールを運び、第1Qのようにレバンへ預ける……と見せかけて、一瞬早くフリーとなった味方フォワードへ鋭いパスを供給。東の守備がそちらへ釣られた瞬間、その隙を突いてレバンがゴール下へと凄まじいスピードで走り込み、アリウープ気味のパスを豪快にリングへと叩き込んだ!
ドガァァンッ!!
(見事な連携だ……!)
カイトは思わず心の中で唸った。
西はレバンの個人能力を「絶対的な囮」かつ「最強のフィニッシャー」として再定義し、周囲の選手が連動する形へとアジャストしてきている。長女メイサのコーチとしての引き出しが確実に増えている証拠だった。
だが、東もただやられているわけではない。
「スクリーンください! セルラさん!」
「任せろ!」
セルラが再びトップの位置へと上がり、激しいプレッシャーをかける西のガードにガッチリと巨体の壁を作る。そのままセルラがロールしてゴール下へ切れ込み、アルニタの采配で完璧に構築されたパス回しから東も鋭いシュートを返し続ける。
レバンが圧倒的な得点力で西を引っ張り、セルラが卓越したリーダーシップとチームプレーで東を束ねる。
互いに相手の戦術を読み合い、一歩も引かない一進一退の攻防。点差は4点を行ったり来たりし、どちらにも決定的な優位は傾かない。
◇
しかし、激しい攻防の裏で、無視できない「異変」がコートの空気を重くし始めていた。
「ハァ……ハァ……!」
ゴール下で激しく身体をぶつけ合った後、西のエース・レバンがわずかに膝に手をつき、荒い息を吐いた。
巨人族は平均250センチ、150キロを超える途方もない巨体だ。
コートを全力で加速し、方向転換を繰り返し、そして385センチのリングに向かって何度も跳躍する。そのたびに生じる運動エネルギーの負荷は人間の比ではなく、関節や筋肉、そして心肺に凄まじい負担がかかっている。
レバンは第1Qから、チームの得点の大半を叩き出し、さらにはゴール下でのリバウンド争い、相手のシュートを叩き落とすブロックショットまで、攻守の両面で文字通り「チームのすべて」を一人で背負い続けていた。
さらに第2Q以降は、東の巧妙なダブルチームと守備網を破るため、瞬時の判断や無理な体勢でのシュートなど、頭脳的な疲労も爆発的に増えていた。
(……動けなくなるわけじゃない。だが、あきらかに跳躍のタメがコンマ数秒遅くなっているな)
審判の合間を縫ってレバンの動きを観察していたカイトは、眉をひそめ、胸の中で呟いた。
レバンの闘志は少しも衰えていない。しかし、西チーム全体の「スタッツ(試合中の得点やリバウンドなどを数えた成績のこと)」には、致命的な偏りが生じせしめていた。
(攻撃も守備も、リバウンドもブロックも……すべてレバン一人に依存しすぎている。西の選手たちの中に、無意識の甘えが生まれているんだ。『どうせ最後はレバンが何とかしてくれる』ってな……)
それはチームスポーツにおいて最も危険な毒だった。一人の『個』が圧倒的すぎるがゆえに、仲間が自ら考えて動く思考を放棄してしまう。
「レバン! 無理しちゃだめよ!パスして!」
メイサがベンチから必死に声を張り上げるが、コート上の熱気と「レバンに預ければ勝てる」という成功体験の呪縛は、選手たちの足を無意識に止めてしまっていた。
◇
対する東チームも、決して楽なわけではない。
「下を向くな!! まだやれるぞ!」
東のキャプテン・セルラは、レバンの強烈なパワーと衝突し続け、全身が鉛のように重くなっていたが、彼は自らの疲労を押し隠し、チームメイトを鼓舞し続けた。
セルラ自身も限界に近づいていたが、仲間たちが自分を信じ、パスを出してくれるからこそ、一歩も引かずに戦い抜くことができていた。
「セルラさん、次も同じ形で!」
「ああ、行こう!」
東は個の怪物に頼るのではなく、アルニタの戦術と、セルラを中心とした絶妙な連動性で、泥臭く、しかし確実に西の牙城へと食らいついていく。
激しい肉弾戦と、頭脳戦の果て




