第52話 川に行く準備
川へ洗濯、そして水浴びをしに行くことになり。
セルグは、小屋の中で準備を始めていた。
まずは、寝室にあった布団を剥がして、少しはたく。
……すると、軽く埃が舞って、部屋の空気が荒れた。
「ゴホッ! ……暫く洗っていなかったから、思ったより汚れが溜まっていたみたいだ……オメガちゃん、悪いけど窓開けてくれるかい?」
男はそう言うと、部屋の壁の方を指差した。
「……ん」
それに従って、俺が壁に近寄ると。
そこには、四角くくり抜かれた様な、窓があって。
それを外側に向かって押して開くと、バッと外界から新鮮な空気が押し寄せた。
「……肯定。……開けた」
「うん、ありがとうね。……こりゃ、敷布団の方も全部洗ってしまった方がいいな……」
セルグは、先程持ち上げた上の布団を、軽く畳んで。
今度は、下の布団を覆っていた、布を剥がした。
ついでに、下の布団自体も持ち上げると、それら全てを綺麗に折りたたんで行く。
そうして三つ、全てを重ねると。
そこには、布団の山が出来上がっていた。
「よいっ、しょ……ふぅ。こりゃ、布団を運ぶだけでも一苦労だね……」
セルグは言葉を漏らしつつ、山になった布団全てを持ち上げる。
すると、視界の悪さと、その持ちづらさから、足元が揺れていた。
……けれど、彼はそれに構うことなく。
ゆっくり、ゆらゆらと、寝室から出ていく。
そして、そのままそれを、小屋の出入り口付近に置いていた。
「……よし。布団はこれでいいとして、後は他の服と……あー、今日は桶も持っていこうかな」
重ねられた布団。
巻き上げられた埃。
……それらを、俺は何となく見つめていた。
──直後、突然後ろから。
ゴロゴロと、硬い何かが木の床の上を転がる様な、そんな音が聞こえてきた。
「……?」
その音が気になって、俺は後ろを振り返る。
すると、そこには大きくて丸い、木の器を転がしているセルグの姿があった。
……その入れ物は、本当に大きくて。
小さく丸まれば、今の俺がすっぽりそのまま、入れてしまいそうだった。
「……疑問。……それ、何?」
「ん? これかい? ……これは洗濯用の桶だよ。この中に水を入れて、布団や服を洗うのさ」
「……おっきい」
「ははっ、そうだね。……まあでも、これくらいなら転がして運んで行けるし、そこまで運ぶのも大変じゃないよ」
彼はそう言うと、その大きな丸を、小屋の出入り口に立てかける。
それから、布の……いや、衣服の山を持ってきて、布団の上に重ねた。
その中には、上着、ズボン、下着など、汚れたものも混ざっている。
「はぁー……まあ、一先ずはこんな所かな。本当は洗濯したものを乾かしている間に、釣りでもしようと思ってたんだけど……これじゃあ、道具まではいっぺんに運べないな」
セルグは自分の腰に手を当てつつ、上体を軽く捻っていた。
……先程やった、”伸び”に似たような動作。
恐らく、それには疲労に対する効果もあるのだろう。
「しかたない。後で往復しようかな……おっと、そうだ!」
洗濯桶、そして洗濯物。
ついでに、セルグは綺麗な布も数枚、持ってきていた。
……と、その時。
突然、彼は大きな声を上げる。
「忘れるところだった……オメガちゃん、ちょっといいかな? 実は、君に見てもらいたいものがあって……」
男はそう言うと、急ぎ足で部屋の奥に向かった。
……そこは、寝室の隣の、彼の『作業場』である。
「……?」
俺に、見てもらいたいもの?
……。
「……よっ、お待たせ。──ほら、どうだいコレっ?」
ドタドタと、木の床を蹴る音が聞こえた後。
セルグは、その手に何かを持って、戻って来た。
……それは、少し大きく、分厚めな布。
全部で、大小四つの穴が空いていて。
その上部両端を、男は摘まむようにして持っていた。
……おまけに、小脇にはもう一つ、布の塊を抱えている。
……。
「……疑問。……それ、何?」
「何って……──見ての通り、”服”だよ。オメガちゃんの着替えさ!」
「……!」
セルグは、少し弾んだ声で、そう言った。
……俺の……着替え?
……。
……。
……そう言えば……。
……確か、就寝前に。
男が、格好がどうのこうのと、言っていたような気がする……。
「昨日の夜、オメガちゃんに聞いたら服をそれしか持ってないって言っていたからね。しかし、ここに居る間それをずっと着ているわけにもいかないだろう? ……だから、昨晩急いで作ってみたんだ」
────!
もしかして、俺が夜に、隣の部屋から聞こえた物音……。
……なるほど。あれは、セルグが服を作ろうとしていた音だったのか。
「生憎、今はこんな簡単なものしか作れないが……丁度、今から水浴びに行くわけだし。良かったらコレ、着てみてくれないかな?」
男は、そう言って。
俺の前に、その服らしき布を、差し出してきた。




