第53話 持てるものを
セルグは、上着らしき服を持っていた。
それには、頭、腕、胴を通すための穴が空いていて。
元々、大きな服だったものの端を縫って、小さくしたような。
そんな見た目をしていた。
「私の服を、オメガちゃんでも着られるように少し縫ってみたんだ。サイズが分からなかったから、少し大きめに作ってみたんだけど……多分、着られると思うよ」
男はそう言いつつ、服の端を俺の肩に沿わせてきた。
恐らく、俺自身の大きさと、服の大きさを比べているのだと思う。
……その時、微かに腕に触れた服の表面は、意外にも心地よかった。
「──うん、大丈夫そうだね。少なくとも頭は入りそうだ……それと、ズボンも一応縫っておいたから、後で履いてみてね」
セルグは、そう言って笑っていた。
そして、その服を丁寧に畳んで。
洗濯物と一緒に持ってきた、綺麗な布の上にそっと置いた。
……何が、そんなに嬉しいのだろう。
自分の作ったモノを、他者に使わせることは……そんなに、喜ばしいことなのだろうか。
「……さて、それじゃあ荷物を持って川に向かおうか。オメガちゃん、悪いけど手伝ってくれるかな?」
「──! ……うん」
その男の感覚が、自分には理解できなかった。
しかし、セルグに『手伝い』という言葉を使われて、俺は僅かに視線を傾ける。
……そうだ。
俺は今、この男に対して労力を使わなければならないんだった。
「……疑問。……どれ?」
「そうだねぇ……逆に、どれだったら運べそうかな? オメガちゃんは持てそうなものだけ持ってくれたらいいよ」
セルグはそう言うと、小屋の入り口付近の方を見た。
そこには、布団の山、洗濯物、洗濯桶、そして布と服が置かれている。
これらを、全て川に運ぶ。
その、手伝い……であれば、より多く運んだ方が、より労力を使った事になるだろう。
「……。」
俺はそう考えつつ、それらに近づいた。
まずは、最も大きく、重量のありそうな桶に触れる。
それは、立て掛けられた状態だと、自分の胸の高さと同じくらいだった。
外装も分厚くて、木製ならではの重みがありそうだ。
……。
……。
────しかし、まあ。
これくらいなら、持てないこともないだろう。
となれば、この桶の中に入れたら、もう少し運べそうである。
幸い、この木製の桶は乾いている。
であれば、他の何を持っていこうとしても、問題は無いだろう。
「……。」
そう思った俺は、一先ず木の桶を持ち上げた。
大きさ的に、一旦これを小屋の外に出さないと、入り口で引っ掛かってしまう。
「──え?」
……直後、何故かセルグが、何とも間の抜けた声を上げた。
なんだ?
「……? ……どうか、した?」
「え……あぁ、いや……その、それ重くないのかい? 随分簡単に持ち上げたように見えたけど……」
「……肯定。……持てる」
「……そ、そっか。……オメガちゃん、本当に力持ちなんだね……」
男はそう言いつつ、何かに顔を引かれた様な表情をしていた。
それは驚いているようで、困惑しているようで……呆れているようでもあった。
……何故、そんな顔をするのだろう。
持てそうなものを、持ってほしいと言ったのは、そっちなのに。
「……。」
俺はそう思いながらも、持ち上げた桶を小屋の外に置いた。
そして、再び小屋の中に戻り、引き続き運ぶものを選ぶ。
思っていたよりも、あの桶は軽かったし、他にも一緒に運べそうだが……流石に、布団の山は難しいかもしれない。
桶の中からはみ出してしまって、運びにくいだろう。
「……なら、こっち……」
そうして、俺は洗濯物の山に手を伸ばした。
さほど量は多くないものの、これなら桶に入れて簡単に運べる。
どうせ川で洗うのだし、都合も良い。
「えっ! オメガちゃん、まだ持っていくつもりなのかい!?」
「……?」
洗濯物を掴んだ俺は、それらを外の桶へと運ぼうとした。
……すると、再びセルグが声を上げる。
しかも、先程より大きな声。
「……肯定。……持てる、から」
「────。……そ、そうなんだ……凄いんだね、オメガちゃん……」
セルグは、またしても顔を引きつらせた。
ただし、今回は先程以上に、呆れた気持ちが強そうである。
「……ま、まあ……でも流石に、これ以上は危険だから残りは私が運ぶね。近いとはいえ、川までは森を抜けるし……それと、途中で重たくなったりしたら、直ぐに言うんだよ……?」
「……。……肯定。わかった」
俺はそう答えた後、運んでいた洗濯物を桶の中に置いた。
……その様子を見ていたセルグは、何故か少々心配そうな、顔を向けている。
一体、何をそんなに気に掛けているのだろうか。
────『持てるものを持って』。それに従っている以上、心配することなんて何も無いのに。




