第51話 朝食
俺は今、木の椅子に座っていた。
そして、目の前には木製の机があって。
その上には、平たいのと、深い器が、全部で五つ置いてあった。
……否、水の入ったカップもあるので、食器の数としてはもう少し多かった。
「……あむっ」
その中の一つ。
俺は、自分の一番近くに置かれた、平たい器の上のパンを取った。
それを口に運び、モサモサと貪る。
自分の握りこぶしより、少し大きいくらいの、少し硬くなった塊。
それが、口の中の水分を吸収しながら、ゆっくり嚥下されていった。
「……ズズっ」
口内の渇きを感じた俺は、すかさず、隣にあった深い器に手を伸ばす。
その中には、肉、茸、葉などが入った、スープがあって。
それを、ゆっくりと飲み込む。
舌の上では、妙な刺激と、その他食材の旨味が広がって、水分が確保された。
「……肯定。……美味しい」
実に理に適った、食事の組み合わせ。
摂取しやすいパンと、それにより奪われる水の確保。
それらが両立された、とても合理的な内容だった。
……前に食べた時も思ったけど、やはり良い。
「ははっ、そうかいそうかい。それは良かった。……オメガちゃんは、朝でも良く食べるんだね」
セルグが、俺の前方に座って、笑っていた。
「ほら、これも食べてみなさい。さっきの得物から取れた内臓を塩で焼いたものだ。少し癖があるかもしれないが、中々美味しいよ」
「……ん」
俺は、男が差し出してきた器の方を見た。
……その中には、一見小さな、肉片のようなものが入っていた。
丸みを帯びた、楕円形。
それが、さらに小さく切られて、置かれている。
──さっき見た、あの内臓。
あれに火を通すと、この様になるのか。
俺はそんなことを思いながら、手元の道具を手に持った。
先端が分かれた、棒状のそれを、肉片に突き刺す。
そして、そのまま口に運び、咥えると……中で、弾力のある感触がした。
モキ、モキと咀嚼すると、奥から濃い肉の味がする。
それ自体は、思っていたより淡泊であって。
しかし旨味というか、汁というか、そういう美味しさがある気がした。
「……評価。……普通、変な感触」
「ふむ、そうか。……どうやら、オメガちゃんにはまだ少し早かったみたいだね。食べられなかったら、残してもいいよ? 私が食べるからね」
俺が思った事をそのまま告げると、セルグがそう言って若干器を引いた。
……何故、そちらに寄せる?
食べられる物ならば、わざわざ食べない理由など無い。
今、俺に最も必要なことはエネルギー補給であり、その為であれば摂取できるものは何でも摂取する。
……だから、まだそれだって、食べるのだ。
「……否定。……食べる、それも。全部」
「え? 苦手……っていう意味じゃ、無かったのかな? 食べられるなら食べてもいいけど……私も食べたいから少しは取っておいてね」
男はそう言うと、肉片の端を一つ、口の中へと運んだ。
……まあ、確かに。
これを捕ってきたのも、解体したのも、調理したのも……全ては、セルグがやった事だ。
今回の事に関し、俺は何ら労力を使っていない。
……。
……。
……これは……。
早めに、何か”手伝い”を、しなければ。
******
俺は残っていたスープを全て飲み干し、器を机の上に置いた。
炉の上に置いてあった鍋は、既に空っぽで。
先程出された焼いた内臓も、器の上のパンも、全て食べた。
結果、俺の空腹感は完全に鳴りを潜めていた。
「──ご馳走様でした。」
同じく、食事を終えたらしいセルグが、両手を合わせていた。
そして、まるで祈るように、或いは軽くお辞儀をするように、そう言っていた。
……それを見ていた俺は、何となくそうするべきだったと思い出して。
彼を真似るように、「……ごちそうさま。」と口にする。
「ははっ。オメガちゃんは、ちゃんと礼儀正しいんだね。……さて、それじゃあこの後の事なんだけど……昨日言っていた通り、川に洗濯に行こうか」
男はそう言いながら、席から立ち上がった。
そして、机の上の食器を集めつつ、料理所へ向かう。
「……疑問。……洗濯?」
「あぁ、そうだよ。数日分の服が溜まっているし、オメガちゃんが気にせず眠れるように布団も洗おうと思ってね。──そうだ! ついでに、水浴びもしてしまおうか」
「……。」
水浴び……つまり、川の水で、体を清めようという事。
布団や、布や、衣服も一緒に。
なるほど……。
……。
……。
──風呂、か……。




