第49話 無駄なもの
得物の解体が終わった後、セルグは軽く、後片付けをしていた。
解体に使った刃物に、付いていた血を洗い。
同じく、肉塊を並べていた台にも、上から水を掛けて汚れを落とす。
そして、切り分けた肉塊を、それぞれ大きな葉に包んで、蔓で縛った。
前足、後ろ足、胴体……頭。
すると、それぞれの包みの大きさは。
今の自分の手のひら、一つと、半分くらいに収まった。
──それを見て、やはり俺は思う。
あまりに、”非効率的”ではないのかと。
セルグは、この得物は今朝罠にかかったものだと、言っていた。
だから、恐らく彼は予め、動物を確保するための仕掛けを用意していたのだろう。
そして、獲れた得物をここへ持ち帰り、解体した。
その前準備として、締めの為に、血を抜いて。
その後、一回り小さくなったそれから内臓を取り出して、皮を剥ぐ。
頭を落として、そこから胴体を分ける……。
そうまでして、ようやく肉にありつけるのだ。
……。
……たった。
たった、これっぽっちの、小さな肉に──。
「……さて、それじゃあ解体も終わった事だし、そろそろ朝ご飯を食べようか。オメガちゃんも、お腹が空いただろう? ……あっ。その前に、軽く毛皮の肉掻きだけやっておくか」
俺は、これまでのセルグの行動を見て、こう思っていた。
彼は、自分なりに工夫をし、賢く生きている人間なのだと。
実際、俺の知らないことを知っていたり、出来ないことが出来たりしていた。
……しかし、それらには総じて、『効率性』というものが欠如しているように感じた。
予兆はあった。
彼は、セルグという男は、あまりにも無駄が多すぎる。
それは、無駄こそを好んでいると言っても、過言では無いくらいに。
俺という、他者への贈与。
火を作り、水を拾う、それらの行動。
そして、狩猟という、非効率的な職。
そのどれもが、ただ”生する”という意味では、合理性に欠けていた。
……何故。
何故、彼はこんな生き方をしているのだろう。
俺が興味を持った……というより、関心を抱いたのはそこだった。
これだけの無駄を、彼は無駄であると理解した上で、その無駄に興じている。
……いや、本当に理解しているのだろうか。
彼はそれを承知の上で行動しているのか。
それとも、理解すらせずに、現状に甘んじているのだろうか。
……。
……。
……。
……まあ、もう少し。
もう少しだけ、様子を見てみよう。
まだ、俺の知らない何かを、この男は持っているかもしれない。
「……後は、皮を張り台に掛けて……よし、今度こそお終いだ。小屋に戻ろうか、オメガちゃん」
俺は、少し俯きながら、脳みそを動かしていた。
すると、男は何かを言いながら、張り台に触れていた。
そこには、たった今得物から剥がされた生皮が、張られている。
端を何か所か、紐で吊って。
確か、こうしなければ皮が縮んでしまうと、セルグは言っていた。
──?
……あれ、なんだか……さっき見た時と、少し違う気がする。
「……。」
俺は、セルグが台に張った生皮を見て、疑問が浮かんだ。
先程見た、肉から剥がされたばかりの、それと比べて。
整っているというのか、綺麗になったというのか……。
所々分厚かった裏側の、凹凸が少なくなって。
──無駄が削られた?みたいな感じだった。
男が、何かしたのだろうか。
……しまったな。
考え事に夢中になって、あまりちゃんと見ていなかった。
「……疑問。……それ──」
「ん?」
セルグは、既に小屋に向かう為に、こちらに背中を向けていた。
しかし、俺が声を掛けたことで、彼はその場で振り返る。
……小脇には、先程の肉塊を葉で包んだものを抱えていて。
反対側では、臓器の一部が入った器を、手に持っていた。
「……あぁ、これかい? 内臓は鮮度が命だからね。今朝の朝食に出そうと思って。こっちはそのまま焼いて、こっちは火を通した後スープに入れるつもりだよ」
「……。」
男はそう言って、器の中をこちらに見せてくる。
それに対し、俺が黙って視線を落とすと、セルグは満足そうに微笑んだ。
そして、また直ぐに踵を返し、セルグはそのまま小屋に向かって歩き出してしまった。
……別に、そういう事を聞きたかったわけじゃ、無いのだが……。
……。
……。
……いや、でも。
「──肯定。……確かに、お腹空いたかも……!」
既に、俺の内側では、新たな気持ちが芽生えていた。
思えば、俺が寝室から出た理由は、その為だった。
睡眠という、無駄な行為によって奪われたエネルギーを、補給する為。
それを思い出した俺は、セルグの後に続いて、小屋の中へと向かった。




